子供を子供だからとナメないように
上町 今の子供について、もうひとつ話をさせてください。僕、先日、鹿児島の小中学校で小説を作ってみるというワークショップをしたんです。「誰かの願いごとが叶ったら、もしくは叶わなかったら」というテーマで作ってもらったんですけど、そこで小学6年生の男の子が作った話が印象深くって。その物語では、ある男が「格差社会がなくなれ」という願いをするんですよ。
──その時点でもう強烈です(笑)。
上町 それで願いが叶って世界から格差社会がなくなるんですが、でもみんな等しく貧しくなって、結果的に水の奪い合いが起きてしまう。そして水の奪い合いから土地の奪い合いが始まり、最終的に世界が滅びました、めでたしめでたしという内容でした(笑)。そもそも願いごとが叶って悪いことが起きるという星新一のショートショート的な世界観がすごいし、全員が貧しくなって最初に起こるのが水の奪い合いというリアルな社会状況を把握しているのもすごいですよね。小学校の高学年になってくると、そういう大人の作家が考えそうなことを思い付く子もいる。だから「子供相手なら、スポーツを使って熱い友情を描こう」みたいなことを安易にすると子供だって「は?」となるでしょう。
平松 子供って自分なりに、大人のやっていることや世界のことをちゃんと見ているんですよね。だから、そういったストーリーを考えられる土壌を持っている方も年齢問わずいるんだと思います。
──そういった鋭敏な感覚を持った子供も、Project ANIMAに応募してほしいですね。
平松 ぜひ!
上町 小学生が受賞する可能性も全然ありますよ。
平松 私たちも子供向けのアニメを作る際は、どれだけ真剣にふざけられるかを考えます。それで面白ければ当然子供は興味を示すし、大人だって楽しめる要素がある。ただ、もちろんいつの時代の子供も好きなものってありますよね、お下品な言葉とか(笑)。あとはアンパンマンとかドラえもんとか丸いもの、特定の色にも、多くの子供は惹かれると、育児をしていて改めて感じました。子供を子供だからとナメることなく、普遍性のある楽しいものを生み出せるかが今回の募集では重要になるのではないでしょうか。深夜向け作品にはある意味世界観のお約束みたいなものがあり、細かく説明せずともみんな理解してくれる共通のものがあるので描きたい状況、シチュエーションを描くことで成立してくれるところも多いのですが、子供向けは世界観、そこに至る状況などもいつも以上に丁寧に作り込むことが必要と考えています。
Project ANIMAは2020年代の“世界を代表する”アニメを作る
──この対談シリーズを通じて最後に伺っている質問なのですが、Project ANIMAが目指すのは2020年代を代表する作品の創設です。その指針となるよう、2020年代のアニメ業界がどんなふうになっていると思うかお聞かせください。
平松 アニメ業界全体ではバラエティ番組に対するYouTuberじゃないですけど、アニメ制作ソフトの進化によって創作のハードルが下がり、まず制作者が増えるんじゃないでしょうか。その中で今度は洗練されたものが残っていくという流れになると思います。コスト感覚も自由度も全く異なる人々との競争は現在の枠組みで制作している我々にとっては大変な時代になりますが、全体を見たら新しい才能がどんどん出てくるようなすごく面白い状況になると思っています。
──シリーズを通じて初めてのポジティブな予想です(笑)。動画工房は2023年に50周年を迎えますし、今後の活動に期待します。
平松 今回の企画で生まれた案を50周年記念作品にしますか。
上町 アニメ化、そんなに先になるんですか?(笑)
──対談シリーズの締めとして上町さんに伺います。現在、Project ANIMAは第1弾の結果発表を8月に控え、第2弾も間もなく募集を終えようとしている段階ですが、手応えはいかがですか?
上町 手探りで始めたプロジェクトですが、クリエイターさんの熱量を高めるという点ではいいことができたなと感じています。Project ANIMAをきっかけに創作を始めた人や再開した人もいるようですし、第2弾ではプロの若手脚本家なども結構参加していただいていて。思っていた以上にクオリティの高い応募作品が多いです。
──第1弾の中間発表が先日ありましたが、74作品も通過していたことに驚きました。それも応募作のクオリティの高さのためでしょうか?
上町 そうです。当初は「50作くらい発表しよう」という話だったのですが、期待を込めてとか、アニメ化には向いていないけどSFとしてのクオリティがとても高いとか考えているとあの数になってしまいました(笑)。
平松 随時進捗状況を伺っていますが、非常に盛り上がっている印象があるので、第3弾もどんな作品が集まるのか楽しみです。
上町 ありがとうございます。ただ、我々としては大賞とした作品をどう世に広げられるかが今後の課題と考えています。これからの時代を考えると、商売を日本だけに留めるのはナンセンスです。このプロジェクトで生まれた原作から世界基準のアニメを作り、できあがったものをグローバルに展開し、今一度日本のアニメ—ションの価値を全世界に示す。ハードルが高いことではありますが、2020年代の世界を代表するアニメを作るという挑戦をクリエイターの皆さんと一緒にしたいですね。
- 平松岳史(ヒラマツタケフミ)
- 神奈川県出身、1978年5月23日生まれ。株式会社動画工房所属。アニメーター・デジタル作画班チーフ。練馬区の「アニメ産業と教育の連携事業」で小中学校やイベントにアニメ講師として出張授業にも参加。絵本「アクビちゃん ゆめであそびましょ!」シリーズ(ポプラ社刊)の挿絵も担当。
- 上町裕介(カミマチユウスケ)
- 大阪府出身、1985年1月16日生まれ。株式会社ディー・エヌ・エー所属。「Project ANIMA(プロジェクトアニマ)総合プロデューサー。アニメ、ゲーム、ラジオとさまざまなコンテンツの立ち上げを担当しているほか、音響監督や声優志望者向けのワークショップなど幅広く活躍。その他、元カメラマンや元コピーライターなどの経歴を持つ。現在、顧問を務める「豊永・小松・三上の真夜中のラジオ文芸部」が文化放送地上波にて放送中。
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第3弾「キッズ・ゲームアニメ部門」募集要項
- テーマ
- ①15歳以下の少年少女が主人公のオリジナル作品
- ②RPG/アドベンチャー/TCG等のゲーム展開に適したオリジナル作品
- ①もしくは②のどちらかを満たす作品であれば、世界観やジャンルは不問。
- 募集期間
- 2018年8月1日(水)~11月15日(木)
- 賞金
- 「小説・脚本選考」「マンガ選考」「企画書選考」それぞれで金賞・銀賞を決定。金賞は賞金15万円、銀賞は賞金5万円を贈呈。さらに最終選考にてアニメ化作品として選ばれた作品には賞金100万円を贈呈。
※アニメ化作品は各選考の金賞・銀賞以外から選ばれる場合もある。
- 募集形式
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- 小説形式
- 800字程度のあらすじ、300字以上の登場人物紹介に加え、1万字以上の小説本編(未完結でも可)、もしくは3000文字以上のプロット(完結必須)。
- 脚本形式
- 800字程度のあらすじ、300字以上の登場人物紹介に加え、1万字以上の第1話の脚本。
- マンガ形式
- 800字程度のあらすじ、300字以上の登場人物紹介に加え、連載作品としての冒頭1話分以上(20ページ前後)の完成原稿、もしくは同程度のページ数のネームおよび作画見本。
※商業誌での掲載がないオリジナルの同人作品についても上記要件を満たしていれば応募可能。 - 企画書形式
- 800字程度のあらすじ、300字以上の登場人物紹介に加え、作品の世界観やプロットのわかる企画書。
- 世界観(時代背景や社会情勢など)の説明
- 各話のあらすじ、及びストーリーの大まかな流れ(物語の起承転結)
- 主人公・敵勢力の目的、もしくはゴール
- 審査員
- DeNA、創通、文化放送、MBS、動画工房
- 結果発表
- 各選考中間発表:2019年1月
各選考入選発表:2019年2月
大賞発表:2019年3月