一色まこと原作によるTVアニメ「ピアノの森」第2シリーズが、4月14日の放送で最終回を迎える。1998年にヤングマガジンアッパーズにてスタート、その後モーニング(ともに講談社)に移籍し2015年まで連載された同作は、森に捨てられていたピアノをおもちゃ代わりにして育った主人公・一ノ瀬海(カイ)が、天才ピアニスト・阿字野壮介、親友でライバルの雨宮修平らと出会い、音楽の才能を開花させていく物語だ。
アニメがクライマックスを迎えるこのタイミングで、コミックナタリーでは主人公・カイ役の斉藤壮馬、そして劇中で阿字野壮介のピアノ演奏を務めた反田恭平にメールインタビューを実施。TVアニメ「ピアノの森」を振り返るとともに、収録が終わった今だからこそ語れる作品の魅力に迫った。
文・構成 / 増田桃子
天才的なピアノの才能を持つも不遇な境遇で育ったカイ、そして師となる阿字野、ライバルの修平らとの運命的な出会いを描いた第1シリーズが、2018年4月から7月にかけてNHK総合テレビで放送。そして成長したカイ、修平らがショパン・コンクールに挑む第2シリーズが、現在毎週日曜24時10分から放送中だ。
本作では、劇中のピアノ演奏に世界で活躍する若手ピアニストを起用。阿字野壮介の演奏を反田恭平、雨宮修平の演奏を髙木竜馬、パン・ウェイの演奏を牛牛/ニュウニュウ、レフ・シマノフスキの演奏をシモン・ネーリング、ソフィ・オルメッソンの演奏をジュリエット・ジュルノーと、キャラクターの出身国と同じ国のピアニストが務めている。ショパン・コンクールを舞台にした第2シリーズでは、第1シリーズ以上にコンクールシーンを中心に物語を展開。コンクールの行方もさることながら、キャラクターの個性を活かしたピアニストが演奏を担当することにより、“クラシック音楽を本格的に楽しむことができるアニメ”として注目を集めている。
さらに3月にはカイ、修平、パン・ウェイのキャラクター別CDアルバムを連続リリース。主なレコーディングを本物のショパン・コンクールが行われるホールとオーケストラで行った本作は、本格的なクラシックアルバムとしてクラシックファンからも反響を呼び、その注目度の高さを表すかのように、主人公カイのピアノ演奏が収録されたCDアルバムは、オリコンのクラシックアルバムウィークリーランキングで1位を獲得。 また髙木竜馬が手がける修平のピアノ演奏を収めた「『ピアノの森』雨宮修平の軌跡」は、オリコンデイリーランキング1位、初週ウィークリーではクラシックランキング2位を記録した。 そして8月28日には、反田恭平や髙木竜馬などアニメに参加したピアニストによるピアノコンサートが東京・東京オペラシティで開催されることが決まっている。
「音が見える」ような感覚になる画の魔法
──斉藤さんは、もともと「ピアノの森」のファンだったそうですね。本作について、どんな印象を抱いていましたか。
正確に言うと、子供の頃途中まで追いかけていたのですが、読むのが止まってしまっていたんです。先に読み始めたのは妹でした。2人ともピアノを習っていたので、その流れだったのかもしれません。当時は物語の深いところまでは当然理解できなくて、ピアノの音を画で表現しているすごさ、その美しさにただただ感動していたのを覚えています。オーディションを受けるにあたって改めて読み返したら、面白すぎて数日ほとんど徹夜で読み終えました。子供の頃にはわからなかった、さまざまな内面を持ったユニークなキャラクターたち、決して明るいだけではなく、深く心を動かされるストーリー、そして何より「音が見える」ような感覚になる画の魔法など、とにかく魅力満載の作品ですよね。
──一ノ瀬海というキャラクターを演じるうえで、どんなアプローチをされたのでしょうか。
何度かほかのインタビューでも答えているのですが、カイとはこういう人だとあまり頭で考えすぎずに、彼が今何を知っていて、どう感じているのかを僕も感じることが大切だと思い、歩み寄ってきたつもりです。といっても、アフレコが進むうちに、特に第2シリーズの13話に入ってからは、それすらも意識しすぎずに、より感覚的にアプローチできたような気がします。
──演じるうえで、苦労した点があれば教えてください。
難しかったところとしては、やはり長く連載されていた作品をアニメーションの枠で表現しているわけですから、カットされるシーンや設定などが当然出てくるところ。原作を知っているからこそ、改めて構築し直されたアニメの台本にどう寄り添い、観てくださる方に伝えていくのか、毎話苦心しながらアフレコに臨みました。特にカイくんは、実はそんなにセリフは多くないんですよ。演奏シーンでも、聴いている人たちが感動したり、解説したりしてくれていて。だからこそ、基本中の基本なんですけど、出番がないシーンでも、今カイくんが何を考えているのか、どう行動しているのか、気持ちを切らさないように心がけました。
──これまでさまざまなキャラクターを演じられてきたと思いますが、“天才ピアニスト”を演じることで、特に意識をしたことはありましたか。
カイくんは周りの人から天才と呼ばれることも多いですが、彼自身は自らをそういうふうには捉えていませんよね。だからむしろ「天才だからこうなのだ」と考えないようにしていました。特に、今作でカイくんを天才たらしめているのはピアノの演奏なわけで、そこ以外の、彼の人となりを声で表現するのが僕の仕事だと思っていたので、特別な意識というのはあまりなかったかもしれません。
──では、“天才ピアニスト”とはどんな人だと思いますか。
この質問が一番難しい!(笑) 反田さんだったらどうお答えになるんでしょうか……。明確に今すぐこうだとは言えないんですけど、天才というのは1人しかいないわけではないのかもしれませんね。どうしようもなく心を鷲掴みにされて、惹かれてやまないと誰かに思わせてしまう人は、みんな天才であるとも言えるのかも。天才という表現を当てはめる前に「がつん!」と感じてしまうような人が、ある意味天才というか。ううむ、もうこの答えの時点で迷宮に入ってますね、これは(笑)。
特に雨宮のゆらぎにはすごく共感します
──アフレコ中、印象に残った出来事はありますか?
たくさんありますが、キャストの森(夏姫)さんがもともと原作の大ファンだそうで、アフレコのたびにその回をイメージしたイラストを描いてくださっていたのが印象に残っています。みんなで原作を読んで「ここが面白い」「この演出がすごい」などと現場で盛り上がっていて、本当に温かい現場でした。第1シリーズが終わったとき、阿字野先生役の諏訪部(順一)さんが食事に連れて行ってくださって、仕事のことからなんでもないことまで、たくさんお話をさせていただいたのも思い出深いです。皆さんの優しさをひたすら感じたアフレコでした。
──アニメの中で特に印象深いエピソード、シーンを教えてください。
第18話のカイと雨宮がケンカをするシーンはとても印象的でした。オーディションの原稿にもあったのですが、そのとき僕は雨宮の気持ちにとても共感していたんです。でも、アフレコを重ねて、カイの立場から雨宮の気持ちを改めて追っていく中で、実際の本番ではものすごくカイの気持ちにシンクロできて。花江(夏樹)くんの繊細な表現の素晴らしさも相まって、言葉だけでは回収できない気持ちになったのをよく覚えています。それは諏訪部さんの演じられた阿字野先生に対しても同じで、カイに向けられた、決して甘くはないけれど温かいセリフの数々に、論理を超えて感情が動かされました。この作品は人と人との対話をとても大切にされている印象があったのですが、完成したものを見て、よりそれを強く感じました。
──カイと修平の友情・ライバル関係も本作の魅力のひとつだと思います。斉藤さんにはそういったライバルと言えるような人はいますか。
うーん、具体的にこの人です、という方はいないかもしれません。でも、2人の気持ち、特に雨宮のゆらぎにはすごく共感します。ぼくも声優の道を歩む中で、周りの人はみんな才能があってすごい、自分だって努力しているはずなのにどうして思うようにいかないんだ、と悩んでしまうことがよくあります。ついこの間もそんなふうに思ってしまったのですが、その答えはもうずっと前にカイくんが言ってくれていたんですよね。「ピアノは勝負じゃないよ、好きだからピアノを弾くんだよ」と。どうしたらできるのかではなく、なぜそれをしたかったのかを考えること。シンプルだけど、大切なことですね。そういう意味では、自分自身の心が一番のライバルだとも言えるかもしれません。でも、互いに切磋琢磨できるライバルの存在というのは、とてもありがたいものですよね。
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アニメでは実際の音を響かせて、説得力を持たせなければいけない
- TVアニメ「ピアノの森」
- スタッフ
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原作:一色まこと(講談社『モーニング』所載)
監督:中谷学(1話~12話)、山賀博之(13話~24話)
シリーズディレクター:鈴木龍太郎(1話~12話)、中山昇(13話~24話)
シリーズ構成:伊丹あき(1話~12話)、あべ美佳 (1話~24話)
キャラクターデザイン・総作画監督:木野下澄江
美術監督:栫ヒロツグ
色彩設計:吉村智恵
撮影監督:臼田睦
編集:三嶋章紀
音響監督:長崎行男
音楽:富貴晴美
アニメーション制作:ガイナックススタジオ(1話~12話)、ガイナ(13話~24話)
製作:ピアノの森アニメパートナーズ
- キャスト
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一ノ瀬海:斉藤壮馬
阿字野壮介:諏訪部順一
雨宮修平:花江夏樹
パン・ウェイ:中村悠一
レフ・シマノフスキ:KENN
丸山誉子:悠木碧
ソフィ・オルメッソン:伊瀬茉莉也
カロル・アダムスキ:小西克幸
平田光生:豊永利行
佐賀武士:遊佐浩二
司馬高太郎:家中宏
一ノ瀬海(小学生):白石涼子
雨宮修平(小学生):大地葉
雨宮奈美恵:三宅麻理恵
亜理沙:広橋涼
金平大学:くまいもとこ
一ノ瀬怜子:坂本真綾
雨宮洋一郎:田中秀幸
J=J・セロー:島田敏
- メインピアニスト
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反田恭平(阿字野壮介)
髙木竜馬(雨宮修平)
牛牛/ニュウニュウ(パン・ウェイ)
シモン・ネーリング(レフ・シマノフスキ)
ジュリエット・ジュルノー(ソフィ・オルメッソン)
© 一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ
- 原作情報
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「ピアノの森」
全26巻「ピアノの森」講談社漫画文庫版
全26巻発売中 / 講談社
- 「ピアノの森」一ノ瀬海 至高の世界
- 発売中 / 日本コロムビア
-
[2CD] 3780円
COCQ-85453~4
- 「ピアノの森」雨宮修平の軌跡
- 発売中 / 日本コロムビア
-
[CD] 2700円
COCQ-85452
- 「ピアノの森」パン・ウェイ 不滅の魂
- 発売中 / 日本コロムビア
-
[CD] 2700円
COCQ-85455
- 「ピアノの森」Piano Best Collection II
- 4月17日発売 / 日本コロムビア
-
[2CD] 3780円
COCQ-85456~7
Blu-ray&DVD情報
- TVアニメ「ピアノの森」Blu-ray BOX①
- 発売中 / バップ
-
[Blu-ray BOX] 3万2400円
VPXY-75945
- TVアニメ「ピアノの森」DVD BOX①
- 発売中 / バップ
-
[DVD BOX] 2万7000円
VPBY-15856 -
本格クラシック音楽アニメならではの音楽をテーマにした充実の特典映像を収録。またオリジナルイラストによる豪華4連観音開きケース、名場面フォトブックが同梱される。
- TVアニメ「ピアノの森」ピアノコンサート
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TVアニメ「ピアノの森」に登場するピアノ楽曲を集めたコンサート。2018年の第1シリーズ、2019年の第2シリーズで登場した、アニメを彩るピアノ曲の数々が、実際の演奏を担当したピアニストたちの演奏で、アニメの映像とともに披露される。
前半はピアノソロ曲、後半はストーリーの後半で多く登場した「ショパン:ピアノ協奏曲第1番」を演奏予定。コンサートは昼夜2公演行われ、一部異なるプログラムで実施される。
日時:2019年8月28日(水)
第1部13:00開場、13:30開演
第2部17:30開場、18:00開演
会場:東京・東京オペラシティコンサートホール
出演:反田恭平、髙木竜馬ほか
チケット:全席指定S席6500円、A席5000円
主催:イープラス、日本コロムビア、マイシアターD.D.、朝日新聞社
問合せ:日本コロムビア03-6895-9001
(10:00~13:00/14:00~17:00(土日祝除く))
チケットのプレオーダーは4月13日(土)12:00から4月24日(水)18:00まで。一般発売は5月25日(土)10:00からスタート。
- 斉藤壮馬(サイトウソウマ)
- 4月22日生まれ。山梨県出身。これまでの出演作に「ハイキュー!!」(山口忠役)、「KING OF PRISM by PrettyRhythm」(太刀花ユキノジョウ役)、「キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series」(エルメス役)、「アイドリッシュセブン」(九条天役)など多数。2017年6月7日にSACRA MUSICからアーティストデビュー作となる1stシングル「フィッシュストーリー」を発表。6月5日に「斉藤壮馬 1st Live "quantum stranger(s)"」をリリースを控える。