コミックナタリー Power Push - 「機動警察パトレイバーREBOOT」
新作アニメ、ついに復活(リブート)吉浦康裕監督が語る“自分の創作の原点”
ようやくイングラムの決定版ができた
──吉浦監督はブログで本作について、「今の時代の技術で映像に新たな切り口を加えつつ『もう一度パトレイバーの王道を語り直す』」と書かれていましたが、本作での技術的な工夫について教えていただけますか。
「REBOOT」が今までの「パトレイバー」と大きく違うのは、レイバーをCGで描くということで。CGだと、見上げたようなアングルでレイバーをアクションさせるのが、通常の作画に比べて比較的やりやすいんですよね。今作のアクションシーンでは、レイバーが商店街で戦っている様子を、下から見上げる特撮的な描写を多用しています。
──それは確かにCGだからできることですね。
「日本アニメ(ーター)見本市」で僕が作らせていただいた「PP33」という怪獣ものもそうだったんですが、ああいう巨大物を効果的に見せるやり方を、今回の「パトレイバー」では積極的に使っていこうと。言うなれば「パシフィック・リム」風というか。そこは複雑な空間レイアウトも自分自身で組んで、こだわりました。あとCGアニメーターさんには、イングラムについて「ちょっと重そうに動かしてください」というお願いをずっとしていましたね。
──ちなみに本作に登場するイングラムは、これまでと同じものですか?
基本は同じなんですが、実は出渕さんのほうからリファインしたいってオーダーがあって、少し変えていただいてるんですよ。Blu-rayの特典のコンテ・設定集にメカデザインの設定が載ってて、それを見ると一目瞭然なんですけど。シルエットが結構変わっているので。
──そうなんですね。言われるまで気付かなかった!
たとえば昔のイングラムって脚が袴みたいに太かったんですけど、今回はすごく細くなってたり、腕も少し長くなってたりして、ベタな言い方をするとすごく今風になってるんですね。で、昔なら絶対省略してた細かい線なんかは今回しっかり全部描かれてて。そういう意味では、出渕さんが「ようやくイングラムの決定版ができた」とおっしゃっていたこともあって。そこも見どころのひとつだと思います。
びっくりするぐらい何も悩まなかった
──ビジュアル解禁時に監督が「元ファンとして、観たいものを全部ぶつけました!」というコメントを出されていましたが監督が観たかったものというのはズバリなんなのでしょうか(参照:“観たいものを全部ぶつけた”「機動警察パトレイバー」新作のビジュアル公開)。
地域密着型のロボットアニメ、ですかね。「パトレイバー」のシリーズ当初のコンセプトとして「焼き魚志向の生活アニメ」というのがありましたが、それと似たことかなと思うんですけど。自分の中で「パトレイバー」って「原作もの」といったくくりには入らない、完全に別格なものなんですよ。「REBOOT」の脚本、プロットから演出、コンテに至るまで、びっくりするぐらい何も悩まなかったですし。
──そうなんですね! 今まで吉浦監督といえばオリジナル作品を手がけられてきたということもあり、これまでと勝手が違って戸惑ったところもあるのかと思っていました。
原作のある作品、として考えていたら悩んだのかもしれないですけど、「パトレイバー」はそれよりも、自分の創作の原点なんですよね。だから「どうやったら『パトレイバー』になるかな、うーん」と考えるんではなくて、「『パトレイバー』を作ればいいんだ。やったー!」みたいな感じで、自分の観たいものを考えていけばよかった。本当に楽しかったです。
──(笑)。ゆうきさんや伊藤さん、出渕さんといった豪華なメンバーからの監修もいただけて。
元ファンとしては「こんな幸せな思いをしていいんだろうか」みたいな感じですよね(笑)。またありがたかったのは、お三方とも基本的に、やりたいことの本質は監督に任せるというスタンスでいてくださったんですね。むしろ困ったときとか、ちょっと「パトレイバー」から逸脱しそうなときに「ここはこうしたほうがいいんじゃない」って、そっと後ろからバックアップしてくださる感じだったんですよ。伊藤さんに脚本の初稿をリライトしていただいたときも、構成は割とそのままだったんですけど、キャラクターのセリフ回しがとても魅力的になっていて。そのときに、「ああ、より『パトレイバー』になったなあ」とうれしくなりました。
──理想的な関係ですね。出渕さんも「これがみんなの観たかった『パトレイバー』なんではないか…な? 俺はそう思う!」と太鼓判を押されていましたが、それのコメントを聞いたときいかがでしたか。
いや、本当に最高の褒め言葉がいただけたなあと。自分としても、野明や遊馬、後藤隊長といったメンバーが出てこないのに、「『パトレイバー』をこれから観る人のために、名刺代わりの作品を作りたい」なんて、どう思われるんだろうって不安も正直あったんです。でもヘッドギアのメンバーの方から「『パトレイバー』の見本ぽくなってるよね」とおっしゃってもらえて。だから役割は果たせたんじゃないか、と我ながら思ってしまっているところです。
──最後に「REBOOT」をこれから観る人に向けて、メッセージをお願いできますでしょうか。
自分が「パトレイバー」を観てきたファンとして、まず第一にファンだったらこういうものが観たいんじゃないかというものを、ファン目線から思い切り描いたので、従来のファンの方にも楽しんでいただける作品になっているんじゃないかな……と思います。それと同時に、僕は「パトレイバー」っていうのは普遍的な面白さがあると思っているので、なんの前知識もなく観た人でも、すんなり世界観に入り込めて楽しめるものを目指しました。だから今回「パトレイバー」を知らなかったり、観たいけど量が多くて尻込みしていたりする人に、この「REBOOT」を観ていただいて、そして面白いと思っていただけたら、ぜひ過去の作品もチェックしてほしい。そういう楽しみ方をしていただけたら、僕としては最高だなと思っています。「機動警察パトレイバーREBOOT」、よろしくお願いします!
- 原作:HEADGEAR
- 監督・絵コンテ・演出・撮影監督・編集:吉浦康裕
- 脚本:伊藤和典・吉浦康裕
- キャラクター原案:ゆうきまさみ
- アニメーションキャラクターデザイン・作画監督:浅野直之
- メカニカルデザイン:出渕裕
- CGI作画監督:松井祐亮
- CGI 監督:小林学
- 色彩設計・色指定・検査:中内照美
- 美術監督:金子雄司
- 音楽:川井憲次
- 音響監督:山田陽(サウンドチーム・ドンファン)
- 監修:出渕裕
- 企画・エグゼクティブプロデューサー:庵野秀明
- アニメーション制作:スタジオカラー
©HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー
- 「劇場上映 ゴーゴー日本アニメ(ーター)見本市」
- 期間:2016年10月15日(土)~21(金)※1週間の期間限定
- 上映館:新宿バルト9、梅田ブルク7
- 料金:2000円
上映作品タイトル
- 13話「Kanón」
- 14話「SEX and VIOLENCE with MACHSPEED」
- 15話「おばけちゃん」
- 18話「オチビサン」
- 19話「I can Friday by day!」
- 21話「偶像戦域」
- 23話「鼻下長紳士回顧録」
- 24話「神速のRouge」
- 28話「ENDLESS NIGHT」
- 32話「新世紀いんぱくつ。」
- 34話「旅のロボから」
- 35話「カセットガール」
- EXTRA「機動警察パトレイバーREBOOT」※新作
吉浦康裕(ヨシウラヤスヒロ)
1980年生まれ。北海道生まれの福岡育ち。学生時代に自主制作アニメーションからキャリアをスタートさせ、卒業後の2005年に制作した「ペイル・コクーン」で話題を呼んだ。2008年から発表されたWebアニメ「イヴの時間」は、総再生回数300万回を突破するほどの人気を博し、2010年には劇場版が全国で公開。2013年にはオリジナル劇場アニメ「サカサマのパテマ」が全国公開され、以後も「アニメミライ2014」での「アルモニ」、「日本アニメ(ーター)見本市」での「PP33」「ヒストリー機関」など、話題作を次々と発表している。