コミックナタリー Power Push - 「機動警察パトレイバーREBOOT」
新作アニメ、ついに復活(リブート)吉浦康裕監督が語る“自分の創作の原点”
キャラクターを一新した、2つの理由
──予告編やビジュアルが公開された際、旧作のキャラクターが出てこないことも話題を呼びました。登場キャラクターを一新するのは吉浦監督が発案されたことだったんですね。どのような理由でそうされたんでしょうか。
キャラを変えた理由は2つあってですね。まずこのアニメが「日本アニメ(ーター)見本市」という枠組みの中で作るわけですから、キャストは林原(めぐみ)さんと山寺(宏一)さんと決まっているわけです。そうなると、特車二課のいつもの面々で声が違うというわけにもいかないので、必然的に変えるほかはないという。
──なるほど、それは確かに……。そしてもう1つの理由とは。
まず今回の「REBOOT」で自分がどうしてもやりたかったことのひとつとして、これまでの「パトレイバー」ファンだけじゃなく、作品を観たことのない人々にもその面白さを知ってもらいたいというのがあったんです。
──確かに関連作品の量も蓄積されていますし、知っているけど観たことがないという方も増えていそうです。
もったいないですよね。で、翻って僕が「パトレイバー」に魅力を感じるところって、新人隊員の話なんですよ。だから初見の人が楽しめるようにするには、と考えたとき、やっぱり新人隊員たちがドタバタして活躍する話にするべきだと思って。そうなると、もう過去のシリーズで成長しきっている(泉)野明や遊馬を出すよりも、思い切って新キャラにしたほうがいいんじゃないかと考えたんですね。それが2つ目の理由です。でもキャラクターが変わったことで「パトレイバー」っぽさが失われてはいけないと思ったので、そこは気を配りました。
──例えばどのようなところで。
普通のロボットアニメとは違う、「パトレイバー」でしかできないような描写を入れていくことですね。まず特車二課は警察の一部であって、出動の際にはシリアスな感じではなく、公務員としての哀愁を漂わせる。それでやむをえず住宅街の中でレイバーをデッキアップさせたら、器物を損壊して「税金泥棒!」と罵られる、というふうに。「パトレイバー」だから入れられるものを、ファン目線からガンガン盛り込んでいきました。
男の子は新人、女の子は苦労人
──操縦している男性が周囲を気にしながら恐る恐るデッキアップしていくあのシーンは、とても「パトレイバー」らしかったと思います。そういえば今回は、フォワード(操縦担当)が男性で、バックアップ(指揮担当)と隊長が女性という、ちょうど野明や遊馬、後藤隊長とは逆のパターンになっていますね。
今回は短編ですから、キャラクターを無制限に増やすのは危険だなと思って、メインで描かれるイングラムは1号機のみでフォワードとバックアップ1人ずつ、そして隊長と敵のテロリストという最低限の人数で描くことにしました。それで最初に思ったのが、隊長を男性にするのは無理だろうと(笑)。だからせめて、隊長はおばちゃんにしようと思って。
──第2小隊の隊長でおじさんといえば、やはり後藤隊長のイメージが強いですしね。
そしてフォワードを女性、バックアップを男性にすると、こちらも野明や遊馬と比べられるだろうし、現代では女性がロボットに乗って操縦するというのも、そこまで目新しいものでもなくなっている。だから思い切って性別を逆転させました。
──キャラクターについては今回、ゆうきさんが原案として携わっていらっしゃいますが、どんなふうに依頼をされたんでしょうか。連載も抱えておられて、忙しそうなイメージがありますが……。
もちろんお忙しいところだったんですが、出渕さんのお口添えもあり、なんとかお願いして仕事場に押しかけて、その場で「こういう感じなんです」とお話をしたら、目の前でスッと描いていただけて。こっちもゆうきさんの絵を想定してたわけですから、上がってきた絵にはすぐ「あっ! こんな感じです!」ってなりました(笑)。
──キャラクターについてはどのような説明を?
フォワードの男の子は新人で、まだちょっと首がすわってないというか、体力がそこまでない感じに。そしてネットからの情報で少し頭でっかちになっていて、「レイバーは作業用大型車両であって、ロボットアニメと勘違いするなんて子供っぽい」とか考えているんだけど、何かあるとすぐにキレて制御が効かなくなってしまう。そういう、2面性のあるキャラにしたいとお伝えしました。
──今時の若者らしいですね。バックアップの女子についてはいかがでしょう。
女の子のほうはフォワードよりも年上という設定で。警察学校ではそれなりに成績がよかったんだけど、現場に来たら部下は曲者だし、隊長は掴みどころがない人だしということで、だんだんすり減っている苦労人というのをイメージしました。もちろん、今後の展開では変わることもありうるんですが。あと、女性の隊長は、後藤隊長とはちょっと違う、現場にどんどん介入していくタイプのキャラとして作りました。「刑事コロンボ」っぽいというか。
──のらりくらりとしつつも、口出しはしまくるという(笑)。
そうですね。ゆうきさんには「警察官なら、こういうときには髪は絶対留める」とか、「隊長が歳をとっていることを表現するには、しわよりも、首のたるみを描いたらいいよ」といったアドバイスをたくさんいただきました。あと敵のテロリストも絵コンテのときには、マンガ版の地球防衛軍っぽいキャラだったんですが、今ならYouTuberとかニコ生主だろうなってことになって。「ニットキャップをかぶってるような、チャラいあんちゃんにしてください」って言ったら、それもサッと描いてもらえましたね。結局2時間程度の打ち合わせで、全部を描いていただけました。
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- 原作:HEADGEAR
- 監督・絵コンテ・演出・撮影監督・編集:吉浦康裕
- 脚本:伊藤和典・吉浦康裕
- キャラクター原案:ゆうきまさみ
- アニメーションキャラクターデザイン・作画監督:浅野直之
- メカニカルデザイン:出渕裕
- CGI作画監督:松井祐亮
- CGI 監督:小林学
- 色彩設計・色指定・検査:中内照美
- 美術監督:金子雄司
- 音楽:川井憲次
- 音響監督:山田陽(サウンドチーム・ドンファン)
- 監修:出渕裕
- 企画・エグゼクティブプロデューサー:庵野秀明
- アニメーション制作:スタジオカラー
©HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー
- 「劇場上映 ゴーゴー日本アニメ(ーター)見本市」
- 期間:2016年10月15日(土)~21(金)※1週間の期間限定
- 上映館:新宿バルト9、梅田ブルク7
- 料金:2000円
上映作品タイトル
- 13話「Kanón」
- 14話「SEX and VIOLENCE with MACHSPEED」
- 15話「おばけちゃん」
- 18話「オチビサン」
- 19話「I can Friday by day!」
- 21話「偶像戦域」
- 23話「鼻下長紳士回顧録」
- 24話「神速のRouge」
- 28話「ENDLESS NIGHT」
- 32話「新世紀いんぱくつ。」
- 34話「旅のロボから」
- 35話「カセットガール」
- EXTRA「機動警察パトレイバーREBOOT」※新作
吉浦康裕(ヨシウラヤスヒロ)
1980年生まれ。北海道生まれの福岡育ち。学生時代に自主制作アニメーションからキャリアをスタートさせ、卒業後の2005年に制作した「ペイル・コクーン」で話題を呼んだ。2008年から発表されたWebアニメ「イヴの時間」は、総再生回数300万回を突破するほどの人気を博し、2010年には劇場版が全国で公開。2013年にはオリジナル劇場アニメ「サカサマのパテマ」が全国公開され、以後も「アニメミライ2014」での「アルモニ」、「日本アニメ(ーター)見本市」での「PP33」「ヒストリー機関」など、話題作を次々と発表している。