コミックナタリー Power Push - 「機動警察パトレイバーREBOOT」
新作アニメ、ついに復活(リブート)吉浦康裕監督が語る“自分の創作の原点”
汎用人間型作業機械・レイバーによる犯罪を取り締まる警視庁警備部特科車両二課、通称特車二課パトロールレイバー中隊の活躍を描く「機動警察パトレイバー」。OVA、マンガ、テレビアニメ、劇場アニメ、実写映画と、さまざまな媒体で長年にわたり発表され、今なお人気を博している。その新作アニメが、スタジオカラーとドワンゴによる短編映像シリーズ企画「日本アニメ(ーター)見本市」のエクストラ作品として、10月15日より劇場で上映されることが決定。しかもキャラクター原案にゆうきまさみ、メカニカルデザイン・監修に出渕裕、脚本に伊藤和典と、オリジナルから作品に関わってきたメンバーが集結するという。
新作アニメ「機動警察パトレイバーREBOOT」の監督を務めるのは、「イヴの時間」「サカサマのパテマ」といったエッジの効いた作風で知られる吉浦康裕。本作について「元ファンとして、観たいものを全部ぶつけた」と熱のこもったコメントを寄せていた彼は、その言葉の通り根っからの「パトレイバー」ファンであるという。コミックナタリーでは吉浦監督にインタビューを行い、彼と「パトレイバー」とのつながり、そして本作「REBOOT」で描きたかったものについて語ってもらった。
取材・文 / 安井遼太郎 撮影 / 熊瀬哲子
創作のお手本はまず「パトレイバー」
──まず吉浦監督が「機動警察パトレイバー」という作品に初めて触れられたときのことを教えていただけますでしょうか。
初遭遇は小学校の中学年ぐらいの時期ですね。ちょうどテレビシリーズが始まるとき、直前特番みたいなものをテレビでやってて。そのときはセリフがウィットに富んでいるし、面白さの本質を理解するには僕もまだ幼くて、ちょっと大人向けなアニメだなと思ったんです。その後大学生になって改めてアニメに興味を持ち始めたときに、やっぱり「パトレイバー」って、チェックしておくべき作品として挙がってくるわけですよ。それで観てみたら、まあ本当に面白くてハマってしまいまして。最初は劇場版1、2作目から入って、すぐにマンガを全巻買って読んで。さらにテレビシリーズやOVAを全部観てという具合でのめり込んでいきました。自主制作でアニメを作り始めた頃からも、お手本はまず「パトレイバー」でしたね。
──創作の参考にもされていたんですね。具体的にお手本にしたのはどういったところでしょう。
一番大きいのは、レイアウト主義でアニメを作るところです。劇場版2作目のレイアウトについて詳しく解説されている「METHODS ~押井守『パトレイバー2』演出ノート」という本があるんですが、それをとても参考にしていました。映画というのはカットの連続でできているわけですけど、そのレイアウト、構図を重視して物語を作っていく。例えばその構図自体がキャラクターの心情を表しているとか、物語的にこういう流れだからこういう構図であるべきだとか、レイアウトとドラマが密接につながっているんですね。特に「パトレイバー」の劇場版1作目と2作目は、それを強く意識した最初期の作品だと思っていて、僕はそれをお手本にしていたので、とても思い入れがあります。
──劇場版のほか、OVAやテレビアニメ、そしてマンガや実写版と、いろんなメディアで展開されてきた「パトレイバー」ですが、その中で吉浦監督が好きな作品を挙げるとしたら?
うーん、難しいですね! 本当に卑怯な言い方をしてしまうんですけれど(笑)、どれも面白さの質が違って好きなんですよ。しいて言うなら……劇場版1作目とゆうき(まさみ)さんのマンガ版、この2本でしょうか。やっぱり「パトレイバー」という作品が持つ大きな魅力のひとつが、キャラクターの成長劇だと思っていて。この2作は、特車二課の隊員たちが駆け出しというか、新人の頃の話ですから、物語としては一番面白い作品だと感じています。
──なるほど。特車二課のメンバーの中で好きなキャラクターはいますか?
そうだなあ……。みんなそうだと思うんですが、後藤隊長と南雲隊長かな。それ以外の面々だと、やっぱり(篠原)遊馬が好きですね。なんだかんだ一番キャラクターが掘り下げられているのが、遊馬だと思うんですよね。たとえばマンガ版で、篠原重工に不正入札疑惑があったとき、遊馬が必要以上に責任を感じて奔走して、職場放棄してしまう話とか、すごく好きです。
「僕『パトレイバー』の大ファンなんです! やらせてください!」
──本作「機動警察パトレイバーREBOOT」の企画が立ち上がった経緯は、どのようなものだったんでしょう。
僕はこれまで「日本アニメ(ーター)見本市」に、「PP33」「ヒストリー機関」という2作で参加させていただいたんですが、その2本目の「ヒストリー機関」をスタジオカラーさんに納品しに行ったときにプロデューサーの緒方(智幸)さんが「今度『パトレイバー』を、『アニメ(ーター)見本市』の枠組みで作れるかもしれないんだよね」っておっしゃったんですよ。その話を聞いた瞬間に「僕『パトレイバー』の大ファンなんです! やらせてください!」っていきなりこちらから立候補してしまったんです(笑)。
──前のめりですね! 熱意のこもった立候補を(笑)。
もう、言うのはタダだから、とりあえず前に出ようと思って(笑)。そして数日したらまた会う機会があって「あれ、本当に進みそうになったから」って言われて、うわあ、本当に「パトレイバー」を作れるんだ、って思って。そこから実際に進み始めたという感じです。
──じゃあ最初に納品したときの会話がなかったら、いろいろ違う方向に転がっていたかもしれないですね。
後から聞くと緒方さんは、それなりに算段があってその場で言ったらしいんですが(笑)。その後に緒方さんや庵野(秀明)さんと一緒に、ヘッドギアのゆうきさん、出渕(裕)さん、伊藤(和典)さんの3人とお会いする機会があって、そこで僕からもう、その場で「自分が作るならこういうのやりたいです!」ってプレゼンしたんですよ(笑)。
──向こうから言われる前に?
ええ。とにかく気持ち的に先走っていて(笑)。そうしたら伊藤さんが「それなら吉浦監督の観たいものを作るのが一番なんじゃないか」「なんなら脚本も書いたら」っておっしゃってくれて、それから1、2週間ぐらいで脚本の初稿を書き上げてお見せしたら「いいんじゃない」ってことになって。そこからは本当にトントン拍子でしたね。
──へええ。そのプレゼン時に監督が提示された内容から、修正されたところはありましたか。
それがね、ほとんど変わってないんですよ(笑)。最初に書いたのがそのままずっと進んでいった感じです。今考えたら、そもそもキャラを一新するということがよく通ったなと思うんですけど。
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- 原作:HEADGEAR
- 監督・絵コンテ・演出・撮影監督・編集:吉浦康裕
- 脚本:伊藤和典・吉浦康裕
- キャラクター原案:ゆうきまさみ
- アニメーションキャラクターデザイン・作画監督:浅野直之
- メカニカルデザイン:出渕裕
- CGI作画監督:松井祐亮
- CGI 監督:小林学
- 色彩設計・色指定・検査:中内照美
- 美術監督:金子雄司
- 音楽:川井憲次
- 音響監督:山田陽(サウンドチーム・ドンファン)
- 監修:出渕裕
- 企画・エグゼクティブプロデューサー:庵野秀明
- アニメーション制作:スタジオカラー
©HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー
- 「劇場上映 ゴーゴー日本アニメ(ーター)見本市」
- 期間:2016年10月15日(土)~21(金)※1週間の期間限定
- 上映館:新宿バルト9、梅田ブルク7
- 料金:2000円
上映作品タイトル
- 13話「Kanón」
- 14話「SEX and VIOLENCE with MACHSPEED」
- 15話「おばけちゃん」
- 18話「オチビサン」
- 19話「I can Friday by day!」
- 21話「偶像戦域」
- 23話「鼻下長紳士回顧録」
- 24話「神速のRouge」
- 28話「ENDLESS NIGHT」
- 32話「新世紀いんぱくつ。」
- 34話「旅のロボから」
- 35話「カセットガール」
- EXTRA「機動警察パトレイバーREBOOT」※新作
吉浦康裕(ヨシウラヤスヒロ)
1980年生まれ。北海道生まれの福岡育ち。学生時代に自主制作アニメーションからキャリアをスタートさせ、卒業後の2005年に制作した「ペイル・コクーン」で話題を呼んだ。2008年から発表されたWebアニメ「イヴの時間」は、総再生回数300万回を突破するほどの人気を博し、2010年には劇場版が全国で公開。2013年にはオリジナル劇場アニメ「サカサマのパテマ」が全国公開され、以後も「アニメミライ2014」での「アルモニ」、「日本アニメ(ーター)見本市」での「PP33」「ヒストリー機関」など、話題作を次々と発表している。