第1話は私に大きな気づきを与えてくれた
──単行本にはTwitterに投稿された1話から14話、そして描き下ろしのエピソードが3本入っています。クールな稜と、平静ぶりながらも裏ではお嬢さんの一挙手一投足に悶えるパティシエさんのやりとりは人気の要因の1つかと思いますが、描き下ろしでは稜とパティシエさんの関係が明かされますね。
2人の関係は最初から決めていて。というのもパティシエくんは稜に聞かれてもいない自分の恋心を悶えながらペラペラと話すんですが、ただの友達にこんなにしゃべるのはちょっとな……と。私の個人的な好みなんですが、古風な男の人が好きなので。
──なるほど。単行本に収録されるエピソードの中で、銀泥さんのお気に入りはどれですか?
1話と11話と14話です。
──1つずつ聞いていきましょうか。まず1話について教えて下さい。
ストーリーとは関係ないんですが、この1話は私に大きな気づきを与えてくれたというか。今まで自分の頭の中だけに留めて、形にしてこなかったお話やキャラクターがけっこう存在するんですけど、それってもったいないことをしていたんだとこの1話が教えてくれました。私はマンガをささっと楽しく描けるタイプではなく、描くことにものすごく労力を使うんです。だからバイトして帰ってきたら、土日はもうニコニコ動画を観ていたい……みたいな。でもこの1話を、最初につけた見出しにあるようにそれこそ“勢いだけで描い”て投稿したことで単行本化まで繋がった。お気に入りとは違うかもしれませんが、思い入れが強いエピソードです。
──銀泥さんの人生においてターニングポイントになったエピソードとも言えそうですね。ではクリスマスを描いた11話は?
10話で勇気を出したお嬢さんの問いに、パティシエくんが舌を噛んじゃって答えられなかったという、ちょっとカッコ悪いエピソードを描いたんです。それはこのクリスマス回にパティシエくんに盛り上げてほしかったから、伏線のつもりでした。山場を作れたという達成感もあったし、その伏線を踏まえて11話を盛り上げることができたので印象に残っています。
──パティシエさんとお嬢さんの仲が進展したエピソードでしたよね。Twitterに投稿されたのがちょうど12月22日とクリスマスシーズンだったので、読者もリアルタイムな気持ちで読めたのではないでしょうか。では3つ目の14話は?
Part1の最終話ということで、パティシエくんとお嬢さんの1つの区切りとなったのでお気に入りです。2人の関係をどこまで進展させるか、どのように見せるかとネームでかなり悩みました。
──単行本では全ページが2色カラーで描かれていますが、この意図はどういったものなのでしょうか?
担当さんのアイデアなんです。Twitterに投稿するときにモノクロじゃなくて色をつけて、例えば1話だったら紫の色調を使って描いていたんですが、それを活かしてくれました。担当さんが「銀泥さんがこの色で物語の世界を見ているなら、単行本でも白黒にせずに、読者にそのまま伝えたい」って考えてくださったんです。ほかにも、ハロウィン回は緑と黄色にしましょうとか、クリスマス回は赤と緑がいいですねとか、私にはない発想をくれました。
読者の方に、ちょっとでもプラスの影響を及ぼせたら
──銀泥さんのTwitterを拝見していると、「パティシエさんとお嬢さん」のファンアートをリツイートされていますね。
さっきも話したのですが、私は下描きしてペン入れして一枚絵を仕上げるというのは、何時間もかけて行うすごく大変な作業だと思っていて。それをやる時間で、好きなアニメやドラマを見たりのんびりしたりすることもできるのに、私の作品の絵を描いてくれて、人によっては色まで塗ってくれる。ものすごくありがたくて光栄なことですし、好きって気持ちがないとできないと思うんです。なのでうれしくて自慢したくなるというか、いろんな人に見てもらいたくてガンガン勝手にリツイートをしてしまっています。
──読者さんからの感想もたくさん届くと思うのですが、特に「尊い!」っていう言葉がとても多いですよね。
そうなんですよ。「尊い」っていう言葉を、いろんなイラストとか写真でもらいますね。正直、私は「尊い」って言われても「ん?どういう意味だろう?」って感じもあるんですよね……(笑)。
──(笑)。それは、うれしいけど、どういう感情なのかわからないってことですか?
うーん多分、私は描き手の立場になりすぎているんでしょうね。もっと具体的に「ここがこうで、ここがこうだからよかったです」みたいに説明してもらえないとわからなくて、「どこどこ?どこが尊かったのか具体的に教えて!」って思っちゃう(笑)。でも「尊い」って言ってもらえるのは、素直にうれしいです。
──では最後に、「パティシエさんとお嬢さん」をどんな作品にしていきたいですか?
いままでいただいたコメントの中で、「実生活で疲れていて、気分が下がっていたけど『パティシエさんとお嬢さん』を読んで気分がほっこりした」と言ってもらえたときがあって、どのコメントも本当にうれしいんですが、それが特に感動して。読んでくださった方の実生活にちょっとでもプラスの影響を及ぼせたら、そんなお話が作れたらと思っています。