ケーキを買いに来るぽっちゃりしたかわいらしいお嬢さんと、そのお嬢さんのことが気になっているパティシエ青年の関係を描く「パティシエさんとお嬢さん」1巻が、一迅社より発売された。2017年9月4日に銀泥が自身のTwitterにて“勢いだけで描いた”作品は瞬く間に共有・拡散され、その日のうちに書籍化のオファーが来たという。
コミックナタリーでは「パティシエさんとお嬢さん」1巻の発売を記念し、銀泥へのインタビューを実施。読者から“尊い”と愛されるキャラクターの作り方や作品が誕生した経緯、書籍化までの道のり、今後の展開などに迫った。
取材・文 / 三木美波
しばらく実感が湧かずに混乱しました(笑)
──2017年9月4日に、「勢いだけで描いた創作男女漫画」と題した4ページのマンガを投稿。2018年2月の現時点で14万リツイート、40万いいねとものすごく反響がありました。話題になった当初、どんなお気持ちでしたか?
勢いだけで描いた創作男女漫画 pic.twitter.com/leTFTmzo7L
— 銀泥(ぎんどろ) (@platalodo) 2017年9月3日
朝の5時くらいにそのツイートをTwitterにアップして、そのあとぐーぐー寝て、10時くらいに起きたら何千リツイートもされていて「おや?」と。すごくうれしかったんですが、この数字の向こうに本当に生身の人間がいるのかどうか、しばらく実感が湧かずに混乱しました(笑)。これまでもたまにイラストをアップしていて、50とか60とかいいねをもらえるとすっごくうれしくて。Twitterに投稿されたマンガとかイラストが、1000とか2000とかリツイートされている人ってどんな気持ちなのかな、ってぼんやり考えたことがあったんですけど、いざ自分がこんなに反響をいただくとただただ(首を傾げて)「???」という感じでした。
──40万いいねはなかなか見ない、すごい数字です。銀泥さんは今作が初単行本となりますが、もともとマンガ家を志望していたんですか?
はい。中学2年生の頃からマンガを描き始めて。でも、一生懸命にマンガを描いていたというわけではないし、作品として完成度を上げて人に見てもらえるものを仕上げるということも怠ってました。でも週刊少年ジャンプ(集英社)の少年マンガ家になりたいという夢を抱いて上京して。
──そうだったんですか。ジャンプに投稿を?
ええ。投稿しながら、東京でフリーターをしていました。「るろうに剣心」みたいに、カッコいい日本刀のチャンバラマンガが好きで、そういう作品でデビューしたいと思っていて。バレーボールの話を描いてみたりもしましたが、うんともすんともという感じで……。ちょうど10年くらい前なんですが、この時期に「パティシエさんとお嬢さん」の元ネタを思いついたんですよ。
──「パティシエさんとお嬢さん」はほのぼのとした2人のじれったい“両片思い”が描かれているので、王道の少年マンガとは少し距離があるように思えますが……。
確かにそうですね(笑)。バイトの帰り道に、マンションの1階に入ってるケーキ屋さんがあったんです。その頃はずっと少年マンガのことばかり考えていたんですが、そのお店を見たときに少年マンガとは全くかけ離れた、かわいらしいマンガを妄想したのが「パティシエさんとお嬢さん」の最初のイメージだと思います。
──10年間、構想を温めていたんですか?
いえ、忘れちゃっていました(笑)。Twitterに好きなマンガのイラストをちょこちょこ投稿して、同じキャラを好きな人と仲良くさせていただくようになったんですが、オリジナルのマンガを描く人ともやりとりしたいと思ったときに「創作マンガを投稿しよう」と思い立って。そのときに「あれだったら4ページくらいで描けるな」とこの元ネタを思い出しました。
投稿したその日に書籍化のオファー
──そうして生まれたのが、「勢いだけで描いた創作男女漫画」。今はpixivやTwitterなどで話題になってから連載化や単行本化が決定するまでかなり速い作品が多いですが、この作品もかなりそういったお話が来たのでは?
はい。いろいろお誘いいただいたんですが、今の一迅社の担当者さんは、9月4日にメールをくださったんです。
──投稿した当日!書籍化の発表をされたのが2017年10月27日ですので、すごいスピード感だなと思いましたが、それどころじゃない速さですね。
この度、一迅社様より「パティシエさんとお嬢さん」の書籍化が決定いたしました!(2018年2月9日発売予定)
— 銀泥(ぎんどろ) (@platalodo) 2017年10月27日
皆様には厚く御礼申し上げます!!
また、Amazonさんでの予約受付も始まっています。
【https://t.co/ZF8Ye9Vi36】
よろしくお願いいたします!! pic.twitter.com/QbKCPMa1lP
まだ1回投稿しただけの段階で、このスピードで声をかけてくださったのが、ちょっと言い方がいやらしいかもしれませんが商売抜きな感じがして。ちょうど東京から地元に引っ込んだ時期だったんですが、地元まで会いに来てくださって、実際にお会いしてみてとてもお話がしやすかったのも印象に残りました。ずっとマンガ家になりたいとくすぶっていて、チャンスをつかみたいという思いもあって。
──そして単行本化に向けて動き出したんですね。作品の登場キャラクターについてもお伺いしていきたいんですが、まずお嬢さんはぽっちゃりしていることが大きな特徴ですよね。
痩せて見えることはないように、描く上では特にほっぺのぷにっとした輪郭を気をつけています。
──とてもかわいく見えますし、マンガのヒロインはスタイルがかなりいいことが多いので、それに比べたら親しみが湧きます(笑)。お嬢さんがぽっちゃりしているのやはり甘いものが好きだから?
そうです。毎週6個とかケーキを買い続けている女の子が、痩せていたら違和感があるかなって。あと私がぽっちゃりした子が好きだっていうのもあります。これまで描いてこなかったんですけど、元々ぽっちゃりした子を描きたいなと思っていたので。
──ぽっちゃりを維持しているお嬢さんとは対照的に、パティシエさんはちょっとスリムになったと感じる時期もありました。
私は少年マンガ家志望だったからか、カッコいい主人公の理想の身体というのがあって、最初はそれがにじみ出ちゃってパティシエくんは結構筋肉質なんです。でも少女マンガが好きな方がたくさん読んでくださっているなと感じたときに、あんまりゴツゴツしたヒーローにしないほうがいいのかもと勝手に思って、ちょっと筋肉量をセーブして描いたんですよ。
──確かに少女マンガの相手役は長身痩躯というか、痩せマッチョタイプが多いですからね。
ただ話を描き進めているうちに、性に合わないことはやめようと再び筋肉量を戻しました。がっしりした体型がカッコいいとおっしゃってくれる方もいて励みになっています。パティシエくんは常に腕まくりをしているので、前腕の筋肉の感じもしっかり描きたいなと。
近々、名前を出したいなと……。
──先ほどから少し気になったんですが、銀泥さんはタイトルにもある「パティシエさん」ではなく「パティシエくん」と呼ぶんですね。
私の中で、もう友達くらいに思っていて。「さん」呼びじゃないなと(笑)。
──あはは(笑)。パティシエさんとお嬢さんって、何歳くらいの設定なんですか?
パティシエくんは28歳、お嬢さんは24歳、店長の稜は34歳です。
──年齢、きっちり決まっているんですね。1巻に収録される14話までのエピソードでは、2人はついに自己紹介できずお互いの名前を知りませんし、読者も2人の名前を知りません。もしかして2人の名前ももう決まっていますか?
ええ、決まっています。それにまだ構想段階ですが、近々、名前を出したいなと……。
──わ、そうなんですね! 「お互いに名前も知らないから聞きたい」という展開から一歩先へ進むと。
はい。14話で2人はお互いの気持ちを確認するんですが、ラブストーリーは思いが通じ合うまでが一番面白いことが多いと思っていて。くっついてからも面白く感じていただくには、相当がんばらなければいけない。14話までをPart1と位置付けているので、名前を知らない状態を引っ張るより、Part2に入ってパッと自然に名前を出せたらと思っています。
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第1話は私に大きな気づきを与えてくれた