Palcy特集|アラサーオタク女子集団劇団雌猫が「金田一少年の事件簿」を徹底解剖

ベルギーで聖地巡礼したくらい「きみはペット」が好き

──皆さん、最初のシリーズだけでなく「犯人たちの事件簿」や「37歳の事件簿」などのスピンオフもしっかり読まれていて驚きました。

もぐもぐ いろんな角度から楽しめてよかったです。Palcyでは全部並行して配信するんですか?

「犯人たちの事件簿」1巻「オペラ座館殺人事件」より。一般高校生ながら手探りで殺人に乗り出す犯人・有森裕二の姿に、劇団雌猫の面々からも「かわいい」の声があがった。

──「金田一」のFILEシリーズ(「オペラ座館殺人事件」から「速水玲香誘拐殺人事件」まで)、「犯人たちの事件簿」、明智のスピンオフシリーズが配信されていきます。

ひらりさ 「犯人たちの事件簿」も一緒に配信されるのはいいですね。事件の裏をギャグで知れるし。逆に「犯人たちの事件簿」を読んで、推し犯人が登場する本編を読むのも面白い。

もぐもぐ ネタバレが嫌じゃない人はいいかも!

──合わせて、Palcyでは「金田一」以外にも「ちはやふる」「きみはペット」「おおきく振りかぶって」「宇宙兄弟」といった作品も配信されます。最後に、それらの作品からおすすめのものがあれば教えてください。

ひらりさ 「おお振り」は大好きです。「金田一」で非日常の青春が展開されるので、「おお振り」では高校生の普通の日常を楽しんでほしいです。

左からもぐもぐ、ひらりさ。

ユッケ 私も「おお振り」。「金田一」だと拷問器具のアイアンメイデンとかカルネアデスの板みたいな言葉を学んだけど、「おお振り」では野球のルールを学んだ。「ショートは守備の要」とか。

ひらりさ 両方読むと、多様な語彙が覚えられて教養が深まる!

もぐもぐ 私は「きみはペット」がめっちゃ好き! 全14巻の単行本も完全版も揃えています。仕事をがんばっている20代後半のOLの家に年下の男の子が転がり込んでくる話なので、大人になってから読むとなおさら染みる……。好きすぎて終盤の舞台になったベルギーのグラン・プラスに行ったもん。

ひらりさ 「きみはペット」の聖地巡礼? それは珍しいよ(笑)。

助宗佑美(Palcy編集長)インタビュー

Palcyは「女の子が楽しく気持ちのよい場所であったらいいな」

──まずは助宗さんの経歴を教えて下さい。

助宗佑美

2006年入社で、2018年6月にPalcy編集部に異動になるまでは、ずっとKiss編集部にいました。東村アキコさんの「海月姫」「東京タラレバ娘」、石田拓実さんの「カカフカカ」などを担当していて。今年2月からPalcyの編集長になりました。

──Palcy編集部へ異動したのには、理由があったんでしょうか。

個人的にここ数年、「これからのマンガの届け方」についてもっと考えたいと思っており、アプリという新しい形でマンガを届ける部署で仕事をしてみたいなと思って、異動希望を出したんです。マンガが好きで、マンガに途絶えてほしくないので、ちゃんと潜在的な読者含め、マンガを読んでくれる人に届けるために、新しいことにチャンレンジしたいなと。

──Palcyは、もともと別の編集さんが立ち上げた部署ですが、編集長になって助宗さんはどんなアプリにしていきたいと考えてらっしゃいますか。

講談社にはマガポケ(マガジンポケット)やDAYS(コミックDAYS)など、ほかのマンガアプリもありますから、まずはPalcyがどういう立ち位置でやっていくべきなのかを考えました。ジェンダーでいろいろなことが括られる社会っていうのはあまりよろしくないですが、私はマンガって人間の欲望や欲求について描くとか、その個人が性差も含め社会で抱えている問題や悩みについて描いている部分もあると思うんです。だから、マンガとジェンダーってそれなりに関わりがあるなと思っています。ジェンダーによって何にずっとさらされてきたかとか問題意識って違ってくるから。マガポケは少年誌的なベースがあって、DAYSは青年誌的なベースがあるので、Palcyはまず女の子が楽しく気持ちのよい場所であったらいいなと思っています。少女マンガや女性マンガが描いてきた「女の子はどう生きるべきか」というものがここ(Palcy)にあるよと、楽しいことはもちろん、女の子にとって学びや豊かさがあるよっていう場所にしたい。編集長になってからは「女の子のための場所だよ」ということを常に考えてます。

──1周年で新たに追加された「金田一」シリーズはマガジンの作品ですよね。

もちろん少年マンガや青年マンガも取り入れています。ただ女の子が嫌だと思う描写……性的に搾取されているとか、女性が男性のためだけに存在しているような要素は極力避けています。とはいえ、厳しくしすぎたり、私個人の感覚に寄りすぎたりすると多様性がなくなるので線引きが難しいのですが、女性の立場から見て明らかに生理的に嫌悪感があるとか、女の子の豊かな生き方を阻害するようなヒロイン像が展開されているものは掲載しないようにしています。そういった作品を否定するわけではなくて、それは別の場所で読んでね、と。

──マガポケやDAYSにも載っている作品ならそこで読めばいいという選択もあると思うのですが、Palcyで読むことのメリットはなんだと思いますか。

助宗佑美

確かに、マガジンの作品はマガポケで読めるからマガポケでいいっていう考え方もあると思います。だからこそPalcyでは「この作品は少年マンガや青年マンガだけど女の子も楽しめるよ」という提案をしていきたいんです。例えば人気アイドルで実写化されたり、2.5次元の舞台の原作で名前は知っているけど実際のマンガまでは手が伸びなかった作品がPalcyに載っていて読むきっかけになった!みたいな。そういった、女の子がコンテンツに対して“これ気になるな”と思う独特な目線みたいなものを大事にしたいんです。「金田一少年の事件簿」もドラマ版は観てたけど原作は読んでないっていう女の子に、「これも読んでみて!ぜひ!」と提案している感じなんですよ。

──メディア化をきっかけに女子ユーザーが増える作品は多いですからね。

私がずっと女性マンガ誌で編集をやってきて、女の子たちがどういうマンガを読んできたかをずっと見てきた経験を活かしながら、新しい作品と出会えるようにしていけたらいいなと思っています。作品タイトルやマンガ家さん名だけじゃなく「双子が好き」とか「三角関係が好き」とか「幼なじみが好き」という切り口で作品を紹介していけば、媒体としては興味がなかったり、読む機会がなかった作品を読むきっかけになると思うんです。そうやって「好き」を数珠つなぎしていくことで、もっとマンガの魅力を知ってほしい。知らない作品でも、私たちが提示するキーワードが気になれば、その中にあなたのお気に入りがあるかもよと。

──そうなってくると、Palcyの掲載作品を選ぶのはかなり大変ですよね。講談社の作品を全部読まないと……。

ほんっとに大変!(笑) 講談社の地下に自社作品が保管されている図書館があるんですけど、そこをいつもぐるぐる練り歩いてます(笑)。Palcyの編集長になってから、講談社のマンガを相当読んでますね。

──実際、どうやって選んでいくんでしょうか。

きっとこの層の人はこれが好きだろうとか、この作品が好きだとしたらこれも好きだろうみたいな、例えるなら書店員さんがお店の本棚を作る感覚ですかね。かつ編集者としての感覚を活かしながら紹介していく。あとはなかよし、別フレ、デザート、Kiss、BE・LOVEの編集部の編集部員や、営業部の人たちがPalcyに参画してくれているので、みんなに「こういう作品ない?」とか「講談社のマンガでこれ最高!ってやつ教えて!」みたいな感じで相談してます。今までの編集作業とはまた別の、ちょっと偉そうなんですが、女性向けマンガの歴史大系を作っている気分です(笑)。

──助宗さんの目線で、講談社の作品の新たな組み合わせを見つけ出しているんですね。

助宗佑美

でも図書館に行くと膨大にマンガがあるから、感動してしまって(笑)。こんなに多くのマンガ家さんが机に向かってマンガを描いて、編集者との打ち合わせがあって、校了のタイミングがあって、作品が形になって書店に並んできたんだなと。これがマンガ文化なんだなと実感してますね。

──改めて講談社の少女マンガを読んでみて気付いたことはありましたか?

まず、講談社の少女マンガは女の子がパワーを持っているなと感じましたね。特になかよしは、「カードキャプターさくら」「魔法騎士レイアース」と、恋愛だけにとどまらず、自分とそして世界と戦う少女の系譜が強いです。そして、少女マンガの王道である恋愛においてはマンガ家さんの描きたいことが企画に反映されていることはもちろんですが、ユーザーの満足度もきちんと優先しているのが特徴だと思います。「今の女の子ってどういう女の子像が読みたい?」「今はどんな男の子が魅力的だと思われる?」みたいなことを、マンガ家さんと編集が一生懸命考えるというか。その結果、今回1周年記念で掲載スタートさせていただいた「ホタルノヒカリ」「きみはペット」のような、その時代の女性像を提案する作品や「L♡DK」「となりの怪物くん」みたいな魅力的で時代性のある男の子像が生まれていると思うんです。

──確かに。

ひうらさとるさん、海野つなみさん、安藤なつみさんのような、なかよしで活躍したマンガ家さんが、読者の年齢層が上がるKissやBE・LOVEでも魅力的な作品を発表しているのも、講談社の特徴だと思います。やっぱりちゃんと「女の子が欲しいこと」について考えていると、結果としてその世代世代の女の子たちがどう生きるべきか、今の社会において何が理想の生き方なのかをリアルに描けるようになるんじゃないかなと思います。もちろんリアルさだけじゃなく、男の子とこんな恋愛したいよねとか、女性同士でシェアハウスしててもいいじゃないとか、自分が稼いだお金でなら好きに夢を追っかけてもいいじゃないかとか、「どうしたら女の子が幸せになれるか」を考えているからこそ生まれるマンガが多いと思いますね。

──なるほど。ではオリジナル作品はどういう立ち位置になるんでしょうか。

助宗佑美

Webマンガでよくこれは必須!みたいに言われるような「気楽に読めてバズりやすいもの」が欲しいということはなくて、普通に面白いマンガを作ってPalcyで発表したいと思ってます。今はなかよしからBE・LOVEまでの編集部員にもPalcyに作品を出してもらっているので、講談社で女の子のためにマンガを作っているすべての編集部、すべての人がPalcyに作品を投げてくれる状況で。私から「こういう作品が欲しいです」というよりは、いろんな編集、いろんな作家さんが考える、マンガで表現したいことが、Palcyという器の中にいっぱい入ってくればそれでいいかなと。すべての編集部の人が作品を出してくれる場所だからこそ、運営する者としては瞬間的に消費するだけじゃなくて、読んだときにいろんな豊かさを得られる、そして長く読者の心の中で愛される作品であってほしいです。

──では今後、Palcyをどんなアプリにしていきたいですか。

スマホって常に近くにあって、電池と電波があればいつでもアクセスできるじゃないですか。そこにマンガがあって「いつでも読んでください」って言えるってなんて素晴らしいんだろうと思うんですよ。疲れたとき、寂しいとき、失敗しちゃったとき、ここに人生の生き方についての励ましや学び、時にはよい気晴らしがあるよと提案できる。暇つぶしでマンガが一瞬で消費されてしまいがちな時代ですけど、アプリでもちゃんとマンガをじっくり読んで楽しむという体験をしてほしい。マンガ家さんも本来はそう読まれたいと願っていると思うんですよね。もちろん使い方としての気楽さ便利さ、お得感もほかのエンタメに負けないようサービスとしては重要なんですけど、それだけにとらわれて視野が狭くならないよう、人生の大事なことを得られるアプリにしたいです。

※記事初出時より、一部テキストに変更がありました。お詫びして訂正いたします。


2019年8月23日更新