ケンカで寝技を使いまくるのが斬新
品川 映画のアクションについて、堀口さんはどこに注目しましたか?
堀口 やっぱり、ケンカで寝技をあんなに使うのは斬新ですよね。寝技で1人を相手にしてしまうと、もしほかの敵が入ってきたときにおそらくやられてしまいますよね。
品川 そうそう。なので、1対1で戦う環境だけは整えたつもりなんです。寝技を使うシーンが多いのは、僕が柔術好きだからっていう単純な理由で(笑)。
堀口 あの寝技のスピードは現実だとあり得ないというか、映画ならではの演出ですよね。実際はあんなに攻防の展開は速くなくって、もっとスローです。
品川 きっとそうですよね。でもね、また難しいんですよ! 寝技をやったことのない役者さんに動きを覚えてもらうのって。パンチや蹴りのほうが、割とすぐに見栄えのする動きになるから。
富田 最初は難しかったですよね。アクション部(※3)の人たちにも、うまく伝えられなかったですし。
※3 富田稔が代表取締役を務めるMOAI&Co.のスタッフ。MOAI&Co.では映像作品におけるアクション指導やトレーニング、スタントマンの派遣などを行っている。
品川 僕と富田さんでやると、うまくできるんですけどね。柔術の技って、相手が一瞬グッと耐えたのを利用して投げたりするんですけど、アクション部の人たちは耐えないんですよ。こっちが投げようとすると、自分たちのほうから飛んでしまう。だから、動きとしておかしくなってしまうんですよね。
富田 こだわった分、本当にいいアクションシーンが撮れたと思います。その中でも、斬人のメンバーを演じたJO1の子たち(與那城奨、大平祥生、金城碧海)はアクションのセンスがよかった。ダンスをやっているおかげか、動きを覚える能力に特化しているなあと感じました。
堀口 あと僕としては、やっぱり体格の小さい人たちのほうが全体に動きはいいなと思いました。どうしても大きくなればなるほど、動きが鈍くなってしまうんですよね。
一連の動きを長尺で見せても、絶対に飽きさせない自信があった
品川 先ほど堀口さんから寝技の話がありましたけど、リアルさを追及すると若い世代には刺さらないだろうなとも思うんですよね。僕自身は、自分が昔に観ていた映画「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズみたいな、ベタなケンカシーンもそれはそれで好きなんですけど、情報量が多い時代に生きる今の人たちは、もっとテンポの速いものを求めるわけです。僕だってTikTokやYouTubeで格闘技の試合を観るときは、早送り再生していますし。だから、実際には人間離れしているかもしれないけど、観ていて楽しいスピード。リアルな格闘技と、フィクションの暴力の中間みたいな表現をしないとダメなんだろうなと思います。
富田 その辺りに関しては、僕も共通認識として持ってました。というか、僕のスマホのデータフォルダが、品川さんから送られてきた参考動画で溢れていたので認識せざるを得ない(笑)。
品川 すいません(笑)。「あの技をやりたい」「この技をやりたい」というものをどんどんと送っていたら、とんでもない量になってましたよね。
富田 僕もね、「ビー・バップ・ハイスクール」の頃のアクションテンポも好きなんですよ。ただ、品川さんの言う通り、今はとにかく情報量が多い時代。細かい動きが認識しにくくなっても、手数を多くして、画面の情報量を増やすようにしたんです。
品川 富田さんが長めにアクションを用意してくれたり、僕がなんか少し足してくださいとお願いしたりもありましたよね。富田さんとしては、おそらく「監督が削ってくれるだろう」と考えたんだと思うんです。でも、僕は「全部使う」プラス「ここに動きを足してください」で進めていったから、延々と長くなっていくという。
富田 あまりいらっしゃらないんですよ、そういう監督さんは。細かいカットバック(カットを交互につなぐこと)などがあったりするので、必要な部分以外は削ってしまう方が多いんですけど、品川さんの編集を見たら思った以上に一連の動きで流しているので、ビックリしました。
堀口 そういった作り方をしていたんですね。
品川 普通はもっと、切ったり短くしたりすることを前提に作ることが多いんでしょうけど、僕は今回、一連の動きで見せても絶対に飽きさせないという自信があったので。それに役者さんたちに寒い中、練習させているわけですからね。いろんな場所にぶつかったりこすったりしながら努力させているわけだから、1秒でも長く使ってあげたかった。
富田 うん、それはよくわかります。
品川 映画を観てもらえばわかりますけど、ケンカのシーンでは本当にだんだんと疲れていますから。リアルでフラフラになっているんですよ。髪の毛も自然と乱れていくし、顔も汚れていく。その泥臭さも画面に映ってくれればいいなと思いながら撮りましたね。
たった30分でバク転をマスターした醍醐虎汰朗に驚愕!
品川 今回、俳優さんたちが「マンガのキャラクターとそっくり」と言ってもらえるんですけど、キャスティングの段階ではそこまでこだわってなかったんですよ。もちろん「似そうだな」と思う子もいたんですけど、メイクさんとどうイジり回してもまったく似ないという子も実はいて。というのも、マンガに出てくるサングラスや髪型とかって、そのまま再現しようとするとカッコ悪かったりするんですよ。やりすぎる手前で止めておいたり、むしろ別の形にしたほうがしっくりきたりする。その兼ね合いが難しかった。
堀口 キャラクターで言うと、僕は「斬人」総長の丹沢敦司が印象に残りましたね。あんなに体が小さいのに、あんなに強いのはすごいなと(笑)。しかも、なんか女の子みたいだし。
品川 あっちゃん(丹沢敦司)を演じている醍醐虎汰朗くんについては、「ハイキュー」の舞台版を観にいったときの感動が大きかったんですよ。彼がスパイクを打つシーンは美しかったし、その後に降りてくる様子もキレイ。それを観て、丹沢をやってもらおうと思ったんです。とにかく身体能力がすごいんですよ。
富田 彼は教えたら、たった30分でバク転ができるようになりましたからね。本当にキレイに回ってましたから。センスがあるんでしょうね。
品川 あっちゃんは今、堀口さんが言ったように、小さいのに強いじゃないですか。それって僕の中では、とてもマンガ的でいいなと思うんですよ。たぶん醍醐くんはマンガに出てくるあっちゃんよりも小さいと思うんですけど、彼の身体能力があるから強いのかもと思わせちゃうというね。
富田 ほかの役者さんたちにも、体を鍛えてもらったりしました。
品川 だから裸のシーンも入れて、ちょっと筋肉を見せたりもしている。本番前にパンプアップさせてね。みんながんばってくれたので、そういった肉体美も見てもらいたいですね。
プロフィール
品川ヒロシ(シナガワヒロシ)
1972年4月26日生まれ、東京都出身。1995年に庄司智春とお笑いコンビ・品川庄司を結成し、2005年には「M-1グランプリ」の決勝に進出した。2009年に映画「ドロップ」で長編監督デビュー。以降「漫才ギャング」「Zアイランド」、WOWOWオリジナルドラマ「異世界居酒屋『のぶ』」「ドロップ」などを手がけた。監督最新作「OUT」は11月17日に公開。2024年には、アメリカを拠点とするPeople of Culture Studiosと吉本興業が共同製作する長編ゾンビ映画「Among the Dead」の撮影を控えている。
品川祐 (@shinashina0426) | Instagram
富田稔(トミタミノル)
1981年6月16日生まれ、大阪府出身。2012年、日本俳優連合アクション部会が主催する「第1回ジャパンアクションアワード」で最優秀賞を受賞する。2018年には、映像作品におけるアクション指導やトレーニング、スタントマンの派遣などを行うMOAI&Co.を設立。これまで「牙狼〈GARO〉」シリーズや「衝撃ゴウライガン!!」などの特撮ドラマ、映画「ザ・ファブル」「劇場版おっさんずラブ~LOVEorDEAD」などでアクション監督を担当し、8月25日公開の「Gメン」ではスタントコーディネーターを務めた。
MOAI&Co. (@moai_stunt) | Instagram
堀口恭司(ホリグチキョウジ)
1990年10月12日生まれ、群馬県出身。5歳で松涛館流空手を始め、高校は栃木の作新学院高等学校に進学し、空手部でインターハイに出場する。高校卒業と同時に山本“KID”徳郁のジム・KRAZY BEEに入門し、山本の内弟子に。2009年に第6回東日本アマチュア修斗オープントーナメントのフェザー級で優勝し、プロデビューを果たす。主な戦歴は2010年の修斗フェザー級新人王、2013年の第9代修斗世界フェザー級王座、2017年のRIZINワールドグランプリ バンタム級トーナメント優勝、2018年の初代RIZINバンタム級王座、2019年の第7代Bellator世界バンタム級王座、2020年の第4代RIZINバンタム級王座。2016年からはアメリカの名門ジムであるアメリカン・トップチームに移籍し、フロリダを拠点に活動している。