コミックナタリー Power Push - 森薫「乙嫁語り」
レッツ乙嫁クッキング! 森薫と作るかんたんおいしい中央アジア料理
中央アジアを舞台に結婚をめぐるドラマを驚異的な筆力で描き出し、マンガというメディアの豊穣さを更新し続けている森薫「乙嫁語り」。その第3巻には、これでもかと現地の料理が登場するエピソードが収録されている。
コミックナタリーではこのおいしそうな中央アジア料理を味わうべく、森薫の自宅キッチンを襲撃。森本人から作り方を伝授してもらうことにした。絵こそ描いたものの作るのは初めて、という森だが、はてさて、お味の行方やいかに。
取材・撮影/唐木 元
作るのは初めてですから、私マンガ家ですからね
──今日は「乙嫁語り」3巻に登場する中央アジア料理の作り方を教えてもらうため、森薫さんのお宅にお邪魔しています。いきなりですけど森さん、おかしいですよ? なんで家にステンレスの調理台があるんですか。これ厨房用ですよね。
いいじゃないですか、欲しかったんですよ! 私ほら、業務用って書いてあると「うわあああああああ」って盛り上がってしまうタチなので。
──はあ、特殊車両とか軍用車両もお好きでしたもんね……って、ちょっと待った。ラーメン屋みたいな寸胴があるんですけど?
これは実家から持ってきたんです。その……、母も業務用が好きだったもので。男兄弟でみんなものすごい食べたので、おでんとかカレーは全部これで作ってました。
──プロユース好きはお母様ゆずりでしたか。さて、今日作ってくださる料理を教えてください。
今日は第16話で描いた料理から、ニンジンの焼き飯(ポロ)、五目肉うどん(ラグマン)、そして羊とキジの串焼き(ズィフ・カワプ)の3品を作ってみましょう。
──そういえば作中では、登場する料理をぜんぶ日本語で表記されていますね。あれはどうして?
中央アジアも地域によって訛りがさまざまですから、たとえばポロならポロウとかピラウとかプロフとか、呼び方もいろいろなんです。一概にポロ、と呼んでしまうと地域を限定してしまうかなと。だったらいっそ全部日本語に翻訳してしまったほうが確実だと思って。
──そういった厳密さのあらわれだったんですね。なるほど。
あと始めに言っておきますが、作画にあたって資料はけっこう集めたので、レシピはたぶん大丈夫です。ただ作るのは初めてですから、私マンガ家ですからね、たとえどんなものができあがったとしても……わかってますね?
──おいしくいただくことを誓います(笑)。
よし、じゃあポロから行きましょう。これはお祝い事や親戚の集いなどで食べられる、晴れの日のごちそうです。
ポロの材料(4人分)
羊肉500g、ニンジン1/2本、黄ニンジン1/2本、タマネギ1個、米500g。干しアンズ、干しぶどう、ズラン、アクムチ、以上適量
黄ニンジンは中央アジア産のニンジンの雰囲気を出すため使いましたが、もちろん普通のだけでもOKです。羊肉も、気分が出るかなーと思ってスペアリブを用意してみましたけど、普通のラム肉でまったく問題ありません。
──ズランというのは何ですか?
漢字で書くと孜然、中国語でクミンのことで、中央アジアの羊を使う料理ではとにかくもう、このスパイスが決め手です。インド料理で使うクミンとは産地の違いでちょっと風味が違うので、ここはできればこだわって、ウイグル産のズランを手に入れてみてください。中華食材のお店で売っています。
──アクムチは?
何種類かのコショウ類をミックスしたスパイスなんですが、手に入らなかったので、今日はホワイトペッパーで代用します。
──干しぶどうは緑色なんですね。
ええ、ウイグル産のグリーンレーズンが気分です。味も普通のレーズンよりさっぱりした甘みで、そのままつまんでも美味しいですよ。干しアンズとともに甘さを足してくれる重要な役者ですね。
──作中でもポロに何を足すかで論争になってましたね。
何で甘みを出すかとかトマトを入れる入れないとか、その家ごとに違うので。ただ作中でアリが言ってたハミ瓜、あれは誰もが「ありえねー」って言うだろう例として出したもので、ほんとに入れてる地域はたぶんないと思います(笑)。
──お皿でフタをするのにはびっくりしましたが。
屋台やお祭りのときなんか、1メートルくらいある大きな鍋で作るんです。そうすると1メートルもあるフタを用意するのがたいへんなので、適当な大皿を何枚か乗せてフタにしちゃうんですね。そのままそのお皿に取り分けてしまうのが現地流です。
ポロの作り方
- 1. 米は洗ってザルに上げておきます。
- 2. ニンジン、タマネギを太めの千切りに。
- 3. 羊肉はかなり大きめのブツ切りに。今回はカット済みのスペアリブを使用しました。
- 4. 中華鍋にカップ1/2のサラダ油を熱します。油はねを減らすため、ふたつまみほどの塩を入れ、羊肉を煮るように炒めていきます。
- 5. 肉の色が変わったところでタマネギ、ニンジンを投入し、ズラン、アクムチ、塩コショウで味を付けます。
- 6. ニンジンがしんなりしたところで、材料が浸るくらいの水を加えて10分ほど煮込み、羊肉の旨味をスープに移します。
- 7. 羊肉をいったん取り出したら、米を入れて均し、ひたひたになる程度に水を加減します。
- 8. 汁気が引いてきたところでカットしたアンズと干しぶどうを入れます。皿かアルミホイルで落としぶたをし、火力をやや弱めて炊き上げます。
- 9. 汁気が完全になくなり米に芯がなくなったら火を止めます。取り分けておいた羊肉を戻してさっくりと混ぜ、適度に蒸らして完成です。
美しい20歳の娘・アミルが嫁いだ相手は、弱冠12歳の少年・カルルク。遊牧民と定住民、8歳の年の差を越えて、ふたりは愛を育む事が出来るのか……(第1部)。エイホン家の居候英国人・スミス。旅を続ける彼が出会ったのは、5人の夫と結婚して、5人とも先立たれた美しく幸薄き"乙嫁"・タラス……(第2部)。悠久の大地・中央アジアの生活文化を圧倒的な筆致で描き上げる、人気絶好調シリーズ。連載は現在"アラル海編"の第3部へ!
森薫(もりかおる)
1978年生まれ。2002年に月刊コミックビーム(エンターブレイン)より「エマ」でデビュー。“メイド好き”として知られており、「エマ」ではメイド喫茶やコスプレなどで見られるアイコンとしてのメイドではなく、1800年代、ビクトリア朝時代のイギリスにおけるメイドを歴史考証に忠実に描いた。好評を博した同作は、2005年にアニメ化。2006年には番外編も展開され、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞するに至った。2008年10月よりFellows!(エンターブレイン)にて待望の新作「乙嫁語り」を連載中。