コミックナタリー PowerPush - 「先生のおとりよせ」
中村明日美子×榎田ユウリ 旧知の2人がマンガと小説でコラボ
おとりよせの世界は奥が深い!
──ただ、おとりよせって生ものとかはあまり買えないイメージがありますよね。
中村 でも、スポンジケーキとかじゃなければ、だいたいのものがおとりよせできますよ。
榎田 凍らすことができないものはダメですね。くさやも冷凍されて届くし。ケーキだと、タルトとかパイとか、冷凍してもいいものなら大丈夫。だからチーズケーキはけっこう充実してる。やっぱりチーズケーキってみんな好きですしね。「先生のおとりよせ」でもチーズケーキを紹介しようかと思ったんだけど、数が多すぎてどれにしたらいいか、絞りきれなかった。全部を試食するわけにもいかないですしね。ケーキって、おとりよせするとホールで届いちゃうし。
中村 ハムとかもそうで、どれを食べても「おいしいね」って感想になっちゃうので選びきれない。
榎田 結局、すでにある程度の人が知っているであろう味は、わざわざ紹介しなくてもいいだろうと思いましたね。食べてみて「うん、普通においしいね」っていうだけだと作品の題材として扱いにくいので。
中村 そうそう。だから試食会の時に「おいしい」だけじゃなくて、もっと具体的なことを言ってもらって、出たコメントを全部メモして、作中でキャラクターが食べた感想として言わせてます。
榎田 編集さんが言ったものとか、わりとリアルな台詞を使ってますね。
中村 コメント力が求められる。「枯れ草の匂いがする」とか(笑)。
榎田 「おいしい」っていうのはわかってるから、それがどんなふうにおいしいのかっていうのを書かなきゃいけないんですよね。これが大変だった。グルメレポーターの人の苦労がちょっとわかった気がする。
中村 カップソフトクリームの回とか、巨乳ネタっぽくやりながらも、めちゃ真剣に描いてましたね。そもそもカップソフトクリームも、いくつか取り寄せた中でちょっと食感が変わってて、他と違うおいしさがあるなと思って選んだんです。
──おふたりは普段からそうやって、いろんな食べ物をおとりよせしているんですか?
中村 そうですね。やっぱりいまは、おとりよせできるものがすごく多いし。でもこの企画が動いてからはもっと積極的になった。「盛岡温めん」(戸田久)とかも、前からおいしいのは知ってて、おとりよせできないかなと思って探したり。
榎田 デパートの地方物産展とか、地方のアンテナショップとかがあると「いいのないかな?」ってすごく真剣に見たりして。で、何個か買って、おいしかったらおとりよせできるか調べる。そういうことを、この企画が始まってからは、よくやるようになりましたね。
中村 あと、おとりよせの面白さというなら、博打っぽい感じもありますよね。
榎田 ハズレも、たまにはあるからね。
中村 ハズレというか「こんな業務用みたいなサイズで来られても!」ということもあるし(笑)。小さなお店とかは通販に不慣れな感じがよかったりする。必ずおまけをつけてくれるお店もあるし。
榎田 あと、ファミリー感が溢れる感じの、手書きの手紙をくださったところもありましたね。通販に慣れてるところは、クールで手際がいい感じ。
──そういうおとりよせのノウハウも面白いですね。今回の作品だと、食べ物を楽しむことを中心にして、ノウハウは盛り込まないという方針だったのでしょうか?
榎田 いや、そういうことを書こうとは、全く思ってもみなかったよね?
中村 うん。今そう言われて「なるほど、それを描く手もあったのか」と思った(笑)。
──もし次回作があるとしたら、どんなものをやりたいという思いはありますか?
中村 今回は恋愛の話にできなかったので、今度こそ、恋愛を絡めたこういうのをやってみたい気はしますね。
榎田 まあ今回は残念ながらそういう展開にならないですけど、読んでいただいた皆さんの脳内で自由にやっていただけたらいいんじゃないかなと思いますね。どっちを攻めにするのか受けにするのか、難しいけど(笑)。
中村 うん。それをリレーで共作しながらやったら面白いと思うんだよなあ。先がわからない感じで。もし次があるなら、どういうふうに恋愛話を共作するのか、ちょっと試してみたい。
榎田 嫌いな人と一緒にものは食べられないので、そういう意味ではきっと、食に関する物語は恋愛感情を描くのと近いかなとは思う。今回はあんまり色っぽい話にはなりませんでしたが(笑)、おいしいものが好きな人だったら誰でも楽しんでいただけるんじゃないかなと思ってます。
出版社からコラボ話を持ちかけられた美少女マンガ家・中田みるくと官能小説家・榎村遥華。一見、全くそりが合わない2人だが、実は共通点があった! そう、「おとりよせ」である。実在する「おとりよせグルメ」を軸に、マンガと小説のリレー形式で進む、グルメマンガ業界に革命を起こす新感覚グルメ作品。
中村明日美子(ナカムラアスミコ)
1月5日神奈川県生まれ。2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。現在、BE・BOY GOLD(リブレ出版)にて「薫りの継承」を不定期連載中。
榎田ユウリ(エダユウリ)
7月16日東京都生まれ。2000年、榎田尤利名義にてクリスタル文庫「夏の塩」(光風社出版)でデビュー。榎田ユウリ名義の一般小説・ライトノベルと榎田尤利名義のBL小説とで、数多くの人気シリーズを持つ。角川文庫より「妖奇庵夜話」シリーズと「カブキブ!」シリーズを刊行中。
※奇の正式表記はおうへんに奇