コミックナタリー PowerPush - 「先生のおとりよせ」
中村明日美子×榎田ユウリ 旧知の2人がマンガと小説でコラボ
マンガと小説をリレー形式でコラボ
──小説とマンガが交互に載っている作品というのは珍しいですよね。
榎田 やっぱりマンガのほうが読みやすいし早く読めると思うから、私もマンガみたいなテンポで読んでもらえる文章を心がけてみました。普段、私が書いている文章とはかなり違うテンポじゃないかなと思うんですけど。字の大きさを変えてみたりしたのも、やっぱりマンガと一緒にやるっていうのが影響してるんじゃないかな。地の文も1人称的な語り口にして説明的な描写を減らしたり、ボケとツッコミも多めに盛ってみたり。
中村 私は割と普段通りに描いたんだけど、絵が描けるぶん、食べ物の描写はマンガのほうがやりやすいのかもしれない。そういう意味では小説のほうが表現に苦労されたと思いますね。
榎田 ただ、同じページ数でも盛り込める情報量は小説のほうが多いんですよね。だから小説のほうがいろんなエピソードが書けるし、ストーリーの推進力が強い。それで明日美子さんが出した細かなキャラをちょっと使わせていただいて、主人公の過去や家庭環境にフォーカスしたりしました。同じことをマンガでやろうと思うと、たぶんすごいページ数が必要になってしまうので。
中村 あとは2人とも締め切りを守るタイプなので、うまくやれたのかなとも思う。
榎田 それもあるかも。前の話が完成してないと次に行けないので、お互いに締め切りを守らないと大変なことになってしまう。マンガのネームが来ないとこっちも1文字も書けないんだけど、明日美子さんは仕事がすごく速くて優秀でしたね。
中村 褒め殺しですか(笑)。
──先の展開について2人で相談することはありましたか?
中村 それは、わざとしないようにしてました。その方が面白くなりそうなので。作品内で紹介する食べ物も、別に相談しなかった。
榎田 それぞれ勝手に、自分の好きなものを選んで書きました。掲載の許可が取れないこともあるので、編集さんは本当に苦労されていましたね。
中村 やっぱり自分が普段おとりよせしてて、おいしかったものは選びがちでしたね。そのせいでジャンルが偏るわー、みたいなこともあったけど。
榎田 まあお菓子とかは自分も好きだし、作品を読む人も好きだと思うので、外せないなというのはありました。
中村 でも榎田さんは最初から「くさやは絶対やりたい」とかも言ってた(笑)。取り上げる食べ物は編集部で試食会をするんだけど、くさやの場合はちょっと臭いが問題になるかもしれないから、榎田さんが家で焼いてきたのを、持ってきてもらって。
榎田 そうそう。自分の家で焼きました。すごくスモーキーな感じになったね。あと、いまは焼いてほぐした商品も売ってるんですよね。それも一緒におとりよせして、両方食べた。
中村 編集部のえらい人に「いまからくさや食べてもいいですか?」って確認してから。でも試食の時はやっぱり「私はちょっと無理です」って人がいましたね。
榎田 おいしいのにねえ(笑)。
──作中で紹介したおとりよせで、とりわけ印象に残っているものはありますか?
中村 私は「とうふ味噌漬」(銀座若菜)がおいしかったな。
榎田 私は「カップソフトクリーム」(シックス・プロデュース)が好きだったなあ。
中村 あとは紫野和久傳の「れんこん菓子 西湖」。これはやっぱりおいしかった。
榎田 永楽屋の琥珀柚子は、作品で紹介した後も自分で食べてるし、差し入れとかに持っていくのにも使っています。とても好評で、重宝してる。日持ちもするし。
中村 私はけっこう、地方で食べたことがあって「これはおとりよせできるのかな?」って調べたものを取り上げましたね。永楽屋とかも京都で食べて、こっちに戻ってきてからおとりよせした。あと、郷土色がある食べ物もやりたいなと思っていた。おとりよせというのはやっぱり自宅にいながらにして別の地方のものを食べられるのがいいので。東京に住んでいても、食べ物を通して遠くと繋がれる。
榎田 そうそう。でもなぜか日本の中でも北側に偏ったね。
中村 なんか偏ってるねえ。
榎田 主役キャラの片方が、青森出身のせいかな。
中村 その設定も、榎田さんが作中でなぜかいきなり津軽弁を喋らせたいと言ってそうなったんですよね(笑)。
榎田 郷土のものって、数年前まではおとりよせがしにくい場合も多かったんだよね。私も昔、「焼きまんじゅう」を買うために原嶋屋さんに直接電話して注文してたんです。でも、いまはネットの通販サイトやおみやげサイトから注文できるようにもなってて、いっそうに便利に。
出版社からコラボ話を持ちかけられた美少女マンガ家・中田みるくと官能小説家・榎村遥華。一見、全くそりが合わない2人だが、実は共通点があった! そう、「おとりよせ」である。実在する「おとりよせグルメ」を軸に、マンガと小説のリレー形式で進む、グルメマンガ業界に革命を起こす新感覚グルメ作品。
中村明日美子(ナカムラアスミコ)
1月5日神奈川県生まれ。2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。現在、BE・BOY GOLD(リブレ出版)にて「薫りの継承」を不定期連載中。
榎田ユウリ(エダユウリ)
7月16日東京都生まれ。2000年、榎田尤利名義にてクリスタル文庫「夏の塩」(光風社出版)でデビュー。榎田ユウリ名義の一般小説・ライトノベルと榎田尤利名義のBL小説とで、数多くの人気シリーズを持つ。角川文庫より「妖奇庵夜話」シリーズと「カブキブ!」シリーズを刊行中。
※奇の正式表記はおうへんに奇