「乙女怪獣キャラメリゼ」|著者・蒼木スピカが赤裸々に語る、キラキラと怪獣愛のルーツ

目とハートにはこだわりがある

──キャラクターの内面的な部分についてお話いただきましたが、デザイン部分についても教えてください。特に黒絵は制服のリボンが大きかったり、髪の毛がツノみたいになっていたり、アイコニックな要素がたくさん盛り込まれていますよね。

第3話の扉ページより。

セーラー服とツノは、もう趣味ですけど(笑)。「誰かに描いてもらえるキャラクターっていいな」という気持ちがずっと昔からあって、絵が描けない人でも簡単に「これ黒絵ちゃんだね」ってわかるようなデザインにしたかったんです。あと、手は病気を発症してもすぐ隠せるよう袖を長くしたりとか、黒絵のキャラクター設定と矛盾にしたデザインにはならないよう気を付けて作りました。

──逆に、そういうパッと見ではわかりにくい部分で「ここ実はこだわっているんです」っていうのあります?

うーん、目はいつもこだわって描いてますね。目が生きてる絵が好きで、時間がなくてもそこだけはちゃんと描こうといつも心がけています。トーンを使わなくても、キラキラ輝いてるように描きたいと思っていて。

──確かに改めて読み返すと、物語中のセリフでも「やっと目…みてくれた」とか「結構…優しい目してるじゃん」とか、目が重視されている感じがありますね。あと黒絵の目の中に、ハートが描かれているのが、1周回ってなんだか新鮮というか……。

南新汰とハルゴンが見つめ合うシーン。キャラクターの心が動く場面では、目に注目だ。

往年の表現ですよね(笑)。実はあらゆるところにハートマークを入れているんですけど、「これはラブコメなんですよ」ということをすごく主張したくて意識的にそうしてるんです。女子高生が怪獣になっちゃう設定って、人によってはけっこう「かわいそう」とか「残酷な設定だ」って捉える人もいて。私自身、その気持ちがわからないわけではないので、ハートという往年のコミカルな表現をデザインに落とし込むことによって、怪獣に変身しちゃうっていう……リアルに考えたらすごくシリアスで重い設定が、ちょっとでもポップになればいいなと思っているんです。

担当 キャラクターデザインで言うと、真夏さんだけは僕から細かくリテイクを出しましたよね。

黒絵のことを“ハルゴンの巫女”と呼ぶ、怪獣マニアの令嬢・真夏。

あー! そうですね。担当さんからずっと「この子変な子にしてください」と言われていて。髪型も10パターンくらい考えたり、普通にかわいいアイドルだったのが怪獣オタクのお嬢様になってしまったり(笑)。

担当 男子も読める少女マンガというのを意識したときに、恋をサポートしてもくれるし、怪獣にも理解がある、こういうポジションの子は必要だなと思っていて。

──メインヒロインではないけれども、大事なキャラですよね。黒絵だけだと見えない魅力が、この子がいることによって見えてくる。

男性読者に人気が出たらいいなと思っていたんですが、男の人はみんな怖がっちゃって、あんまり……みたいですね(笑)。

ゴジラは犬みたいでかわいい

──今作で苦労しているところというとどこですか?

第1話より、ハルゴンの初登場シーン。

やっぱり怪獣はすごく大変ですね。絵を描くようになってけっこう経ちますけど、怪獣を描いたのは生まれて初めてだったので(笑)。ちゃんと描き込まないと成立しないし、遠近感を出すのにも苦労して……。第1話の、ハルゴンが初めて登場する見開きのところも、すっごく描き込んだのを1回全部消したり、何度も直したので思い入れがあります。読者の方がここで驚いてくれるので、そういう意味でもお気に入りのシーンではありますね。苦労するぶん、描き上げたときの達成感みたいなものはあるので、楽しんでやっている部分でもあります。

──お母様が怪獣好きだとお聞きしたんですが、子供の頃から怪獣映画とかは観られていたんですか?

小さい頃はよく観ていました。うちの母親は特に「ゴジラ」「モスラ」「ガメラ」とかが大好きで。山で一緒に“ガメラごっこ”をして遊んだ、みたいなことも聞いたことがあります。よく覚えているのが、「ゴジラVSデストロイア」を映画館に観に行ったときのこと。「ゴジラ死す」というキャッチコピーが付けられている映画なんですけど、母親が観る前から情緒不安定で、ラスト20分くらいで急に「もう観てらんない!」とか言って出て行っちゃって(笑)。私は「えーっ?」と思いながらも最後まで観たんですけど……。

──(笑)。ちょっと真夏さんぽいですね。

影響を受けているところ、あるかもしれないですね。あと、お母さんがゴジラをずっと「犬みたいでかわいい」って言っていて、それを聞いていたらだんだん犬みたいに見えてきて、私もかわいいなと思い始めて(笑)。

──ええっ、犬ですか。

犬っぽくないですか? 顔もそうですけど、表情とか。あんなにでっかいのに、「私が助けてあげなきゃいけない!」みたいな気持ちになる。母性じゃないですけど。そうやって洗脳されて育ったからか(笑)、怪獣は怖いというより、普通にかわいらしい生き物として見てしまうところがあって。怪獣って生まれた境遇がかわいそうだったりもするし、そういうセンチメンタルな部分は少女マンガに生かせるな、という気持ちもどこかにあったんでしょうね。

──ちなみにお母様って「乙女怪獣キャラメリゼ」は読まれてるんですか?

毎回読んでくれてますね。「これ本当にあんたが描いてんの?」という感じのことを言ってくれます。最初、怪獣のマンガ描くって言ったときはすごく喜んでました。「見せてあげる、いろんなの!」みたいな感じで資料をたくさん出してくれて(笑)。

──それは心強い(笑)。

担当さんも怪獣にお詳しいので、いつも助けられています。黒絵が飼っている犬がジャンボキングって名前なんですけど、名前の候補は怪獣の中から2人で出し合いましたね。連載開始前にも怪獣映画の上映イベントに連れて行ってくれたりとか……。いつも感謝しています。

ジャンボキングのデザインは、蒼木スピカが以前飼っていた犬をモデルにしているそうだ。

担当 実はタイトルも、お母さんが最初のアイデアをくれましたよね。

そうでしたね。うちの母が「『乙女な怪獣○○は今日も××』なんてどう?」みたいな感じで、急に送ってきたんです(笑)。そのままだとラノベみたいでイマイチだけど、“乙女怪獣”はいいかもしれないなと思って。でもその後、“キャラメリゼ”の部分を決めるのにはけっこう悩みました。担当さんともお互いにたくさん候補を出して。

担当 “乙女怪獣”がけっこういかついので、意味がなくてもいいから、少女マンガっぽい要素を足そうという話をしましたね。

最終的に“カラメリゼ”に落ち着いたんですが、少し言いにくかったので、それを“キャラメリゼ”にしましょうと。

──カラメリゼというと、砂糖を焦がしたものですよね。

女の子が怪獣になっちゃったり、恋をしていても時折苦い思いをしたり。“甘いけどほろ苦い”みたいな。つまり……ちょっと「ママレード・ボーイ」的なことなのかなって思うんですけど(笑)。

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蒼木スピカ(アオキスピカ)
蒼木スピカ
2010年4月、手書きブログにて那貴りんご名義で発表していたマンガ「SPREE★KILLER」がCOMIC BOX ジュニアで連載化。同作はその後COMIC Be(ともにふゅーじょんぷろだくと)に移籍し、単行本が2巻まで発売されている。2013年5月には月刊プリンセス6月号(秋田書店)にて「デビ☆ロック」の連載がスタート。2015年9月に同誌で始めた「薔薇監獄の獣たち」の連載中、現在の名に改めた。「乙女怪獣キャラメリゼ」は2018年2月、青年誌である月刊コミックアライブ(KADOKAWA)で始動。活動の幅を広げている。