コミックナタリー PowerPush - 映画「娚の一生」

祝・実写映画化!西炯子が明かす創作の原動力とは

結婚については考え終わった

「カツカレーの日」1話より。

──「姉の結婚」はタイトルからしてそうなんですが、「娚の一生」にも「結婚」という言葉がたくさん出てきます。昨年の11月から月刊flowersで連載している「カツカレーの日」も結婚の話から始まりますし、西さんは結婚に対してものすごくこだわりがあるのではと思ったのですが。

ああ、ここのところ、結婚って何かなってずっと考えていましたね。でも、実は考え終わったんです。

──え!? 考え終わったというのは、結論が出たということですか?

結論は出てないんですけど、考えなくなったんですよ。結婚ってなんだろうって思って「わー!」ってなっちゃう時期がだいぶ長く続いていたんですけども、それが終わったんです。ここ2、3年の間で。それまでは結婚に関心があったんですよ。一番の関心ごとだから描いていたんです。関心のないことは描けないので。結婚が自分最大のテーマだったんだと思います。

──考えぬいた結果、どう落ち着いたんでしょうか。

年齢的なところで自分が諦めをつけたわけでもなんでもなく、はしかが治る感じですかね。はしかが治るのに理由はないじゃないですか。

──なるほど、時間が経って落ち着いたと。

そうそう。死ぬまではしかなわけではないので(笑)。はしかはいずれ収束していく、あれと同じ感じ。自分の意識の中からだんだん消えていった感じです。

──結婚に対してものすごい関心があったというのは、西さん自身に結婚願望があったということですか?

あると思っていたんですけど、10数年考えて私、結婚はそんなにしたくないんじゃないかと思ったんです。したくないのにしなきゃならん、したほうがいいんじゃないだろうかと思い込んでいたんですね。そこに自分の実像と乖離があって苦しかったんだと思うんです。でも最終的に、しなくてもいいなって、自分の気持ちに素直になれましたね。

喪失という状態に対して自分がどう乗り越えていくか

──新作の「カツカレーの日」も主人公が結婚のためにお見合いを繰り返すところから始まりますが、構想のきっかけはなんだったんでしょうか。

映画「娚の一生」より。(c)2015 西炯子・小学館/「娚の一生」製作委員会 (c)西炯子/小学館フラワーコミックスα

やっぱりテーマはいままでと同じで、私にとって一番の幸せは何かを追求することです。だからわかりやすい例として主人公はお見合いを繰り返して、その中で自分の幸せを見つけようとしている。でも実は青い鳥というのはね……という話になる予定です。

──西さんの主人公の女性は、ずっと幸せを探し続けているんですね。

そうなんです。最近文庫版が出た「薔薇姫」のあとがきにもサンキュータツオさんが書いてくださったんですけど、「西炯子の登場人物は、とにかく失っている」と。何かをいつも失い続けていて、それでも得るという希望を最後は見出して終わるから救いがある、みたいなことをおっしゃっていて、ズバリだな、と。喪失という状態に対して自分がどう乗り越えていくかというのが、たぶん私の大きなテーマのひとつなんだろうと思うんです。失ったと思うところが物語のスタートで、それをどういう形で回復するか、得ていくかというプロセスを描くのが私のマンガなのかなって。

──では、西さんがすべて満たされてしまったら、創作欲求もなくなってしまうということですか。

そういうことかもしれない。でも最近、私何も持ってないのに満たされてるって思うことがあったんです。「これが幸せの究極の形?」なんて思ったりして。別に家族がいるわけでも彼氏がいるわけでもない、リア充から遠ざかってて、仕事場の1階と寝室の2階を往復するだけの生活なんですよ。でも「幸せかな、これが」ってふと思っちゃって、恐ろしい(笑)。「私、なんの欲もなくなってる! 修行僧だ、いかんいかん」って。

──はははは(笑)。

「娚の一生」カット

幸せになっちゃった、私。どうしよう(笑)。でも昔、知り合いの編集者に予言のように投げかけられた言葉があって時々思い出すんですけど、「お前が何も不足がなくなって幸せになったときに描くマンガを見てみたい」って。これから5年後10年後、ここから先の原動力が何になるのか。いまがギアチェンジする時期なのかもしれない。いままでギア7速くらいで走ってたんだけど、まあ4速くらいでジワジワ走行するためには、別のドライブテクニックが必要になってくる。エンジンの燃やし方も違うし。

──幸せになった西さんが、今後どんな作品を描かれていくのか楽しみです。では最後に映画「娚の一生」の見どころをお願いします。

そうですね。豊川さんと榮倉さんのお顔とプロポーションを余すところなく見ていただきたいですね。それにうっとりしながら映画館を出ていただけたら。

──ありがとうございました。

映画「娚の一生」2015年2月14日(土)全国公開
映画「娚の一生」

東京で忙しくキャリアを積み、辛い恋愛をしていた女性・堂薗つぐみ(榮倉奈々)は、なにもかもに疲れ、仕事を辞めて祖母が暮らす田舎の一軒家でひっそりと暮らし始める。期せずして迎えた祖母の死をきっかけに、そこで52歳独身の大学教授・海江田醇(豊川悦司)と出会う。

生前、祖母から鍵を預かっていたと言う海江田。つぐみに好意を抱いたと、強引にその家の離れに住み込むことに。最初は歳の離れた男性の求愛に戸惑いを感じるつぐみだったが、次第に心を開いてゆく——。

原作:西炯子「娚の一生」(小学館 フラワーコミックスα刊)

監督:廣木隆一

主題歌:JUJU「Hold me, Hold you」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)

キャスト

堂薗つぐみ:榮倉奈々
海江田醇:豊川悦司
秋本岬:安藤サクラ

園田哲志:前野朋哉
友生貴広:落合モトキ
今日子:根岸季衣
小夜子:濱田マリ
民夫:徳井優
坂田佳代:木野花
中川俊夫:向井理

西炯子「娚の一生(1)」 / 発売中 / 463円 / 小学館
西炯子「娚の一生(1)」
あらすじ

東京の大手電機会社に勤める堂薗(どうぞの)つぐみは、長期休暇を田舎の祖母の家で過ごしていた。そんなある日、入院中の祖母が亡くなってしまう。つぐみは、そのまま祖母の家でしばらく暮らすことに決めるが、離れの鍵を持っているという謎の男が現れて…!? 晴耕雨読的女一匹人生物語、第1巻!!

西炯子(ニシケイコ)
西炯子

鹿児島県出身。高校在学中、JUNE(サン出版・当時)でデビュー。月刊flowers(小学館)にて発表された「娚(おとこ)の一生」が「このマンガがすごい!2010」(宝島社)オンナ編で第5位を獲得したほか、「THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!」(フリースタイル)で第6位を受賞。同作は2015年に映画化も果たした。そのほかの代表作に「ひらひらひゅ~ん」、「STAY」シリーズ、「亀の鳴く声」「電波の男(ひと)よ」「姉の結婚」などがある。2015年2月現在、「カツカレーの日」「お父さん、チビがいなくなりました」「たーたん」「恋と軍艦」などを連載中。