コミックナタリー PowerPush - 映画「娚の一生」
祝・実写映画化!西炯子が明かす創作の原動力とは
ラブシーンはここぞ、というときのみに
──映画化にあたって、監督や脚本家さんに意見や要望は出されたりしたんでしょうか。
脚本を見せていただいた段階で、こうじゃないか、ああじゃないかというような意見は何カ所かさせていただきました。実は最初、もう少しラブシーンが多かったんです。でもちょこちょことラブシーンが入っていると、ここぞというときに効かなくなってくるので、あまり前半では入れてほしくないということは意見しました。
──確かに、ラブシーンは話題の足キスシーンだけでしたね。
実はその前に軽くキスしたりするシーンがあったんですけど、脚本の段階でそれは、2人が既に合意しているように見えたんです。でも早い段階でつぐみが受け入れてしまっていたら、それは困る。最初は受け入れがたいという気持ちでないと、ラストに効いてこないかなと思ったので。
──原作者の目線というよりは、脚本家の目線でも意見されていたんですね。
そのほうが近いかもしれませんね。あとは、脚本で原作にあったセリフで削られている部分がいくつかあったんです。その中で自分がこのセリフ大事だなと思っているところや、これは言葉としてとてもいいなと思っているセリフがいくつかあったので、ちょっと強引に押し込んで入れてもらいました。
──それはどんなセリフだったんでしょうか。
「君は頭はいいけど想像力が足りない」というセリフがあって、実は私、これが好きなんです。なんてことないセリフなんですけれども。私、何か印象に残る言葉を残しておかなきゃ、という意識がいつもあるんですよ。映画館を出てしばらく経ったあと、「そういや映画にあのセリフあったなあ」っていうのが何カ所か残っていることが大事だろうなと思ったんです。「綺麗な映画だったなあ」だけじゃなくて、「この言葉ちょっときたわ」とか「ちょっと刺さったわ」って後から思い出すシーンやセリフってあるじゃないですか。なので、このセリフを捨てるのはちょっと、というものは入れてくださいとお願いしましたね。
祖母と恋バナした印象的な出来事
──撮影現場にも行かれていましたが、雰囲気はいかがでしたか?
まずロケ地が、私が思い描いていたイメージにすごく近かったんです。まあ日本の農村ってどこも似たような場所なのかもしれませんが(笑)。あのロケーションを見ただけで、これはもう大丈夫だと思いました。私にとって祖母の家というのは、町の感じも含めて非常に好きな場所だったので。
──思い入れのある場所だったんですね。
やっぱり正月や盆となると、嫁方の実家に長居するじゃないですか。お嫁さんって旦那さんの実家だとゆっくりできないものですけど、母方の祖母宅に行くと母がまずだらっとしちゃってるから、子供もついついだらっとしちゃって、何日でもいられるもんなんですね。……ああ、思い出しました。ずいぶんと大人になって、私が30代のときに、祖母と女性として話をする機会があったんですよ。
──大人の女性同士として。
ええ。恋愛のことで母と、揉めたというほどでもないんですけど、祖母に「お母さんにこう言われたんだよね」ということを話したら、私の母はカツコというんですが、「それはカツコが悪い」って女として踏み込んできてくれて。「お前の気持ちのほうを大事にしないと、ゆくゆく後悔するよ」と。まさかおばあちゃんと恋バナできるとも思っていなかったので、印象的な出来事でした。それで祖母の存在も、より一層特別になりましたね。
──完成した映画をご覧になられて、どんな感想を抱かれましたか。
最初の感想としては、「あ、こうなったんだ」と。私の作品とはまた別物の、映画のそれとして「こうなったんだ」という感想でした。自分のマンガも、描いてしばらくは感想とか持てないんです。「やったー!事務仕事終わった!」くらいの感じで。数年経って読んだときに、「あれ、これ結構よくない?」って思うくらい。実は最近「姉の結婚」も少し読んで、結構面白いと思いました(笑)。
──「姉の結婚」も完結して半年ほど経ちますね。
「この人どうなるの」「わあ、この人嫌だわあ」と思いながら、いま読者としてようやく読めてる感じです。映画も自分がスタッフの端っこにちょっといる感じだったから、「やっと完成したか」っていう思いのほうがまず最初で。多分DVDになって2回目、3回目を見たときに、ようやくいち観客として感想が持てるんだろうなって思います。
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- 映画「娚の一生」2015年2月14日(土)全国公開
- 映画「娚の一生」
東京で忙しくキャリアを積み、辛い恋愛をしていた女性・堂薗つぐみ(榮倉奈々)は、なにもかもに疲れ、仕事を辞めて祖母が暮らす田舎の一軒家でひっそりと暮らし始める。期せずして迎えた祖母の死をきっかけに、そこで52歳独身の大学教授・海江田醇(豊川悦司)と出会う。
生前、祖母から鍵を預かっていたと言う海江田。つぐみに好意を抱いたと、強引にその家の離れに住み込むことに。最初は歳の離れた男性の求愛に戸惑いを感じるつぐみだったが、次第に心を開いてゆく——。
原作:西炯子「娚の一生」(小学館 フラワーコミックスα刊)
監督:廣木隆一
主題歌:JUJU「Hold me, Hold you」(ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ)
キャスト
堂薗つぐみ:榮倉奈々
海江田醇:豊川悦司
秋本岬:安藤サクラ
園田哲志:前野朋哉
友生貴広:落合モトキ
今日子:根岸季衣
小夜子:濱田マリ
民夫:徳井優
坂田佳代:木野花
中川俊夫:向井理
あらすじ
東京の大手電機会社に勤める堂薗(どうぞの)つぐみは、長期休暇を田舎の祖母の家で過ごしていた。そんなある日、入院中の祖母が亡くなってしまう。つぐみは、そのまま祖母の家でしばらく暮らすことに決めるが、離れの鍵を持っているという謎の男が現れて…!? 晴耕雨読的女一匹人生物語、第1巻!!
西炯子(ニシケイコ)
鹿児島県出身。高校在学中、JUNE(サン出版・当時)でデビュー。月刊flowers(小学館)にて発表された「娚(おとこ)の一生」が「このマンガがすごい!2010」(宝島社)オンナ編で第5位を獲得したほか、「THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!」(フリースタイル)で第6位を受賞。同作は2015年に映画化も果たした。そのほかの代表作に「ひらひらひゅ~ん」、「STAY」シリーズ、「亀の鳴く声」「電波の男(ひと)よ」「姉の結婚」などがある。2015年2月現在、「カツカレーの日」「お父さん、チビがいなくなりました」「たーたん」「恋と軍艦」などを連載中。