コミックナタリー PowerPush - ナタリー×an 教えて!センパイ~あの頃のバイト生活~

東村アキコの場合

蟹捌くのがマンガ家の中で一番上手い自信あります

──たくさんのバイトを経験されてますが、いくつか掛け持ったりもしていたんですか?

割烹のときはそれだけだったけど、絵のモデルや似顔絵描き、古本屋は並行してやってました。ほぼ毎日何かしらバイトを入れてましたね。だからめっちゃ稼いでましたよ。

──月にいくらくらい?

仕送りは月9万円もらってて、バイトの稼ぎが……20万近くあったかな? 日航ホテルでお茶したり、海外旅行に行ったり、いまより豪遊してました。

──学校の課題などもあって忙しかったかと思いますが、どうしてそんなにバイトをしてたんですか。

東村アキコ

暇なのも貧乏なのもイヤだったんです。学業にもあんまり燃えてなかった。でも貯金や何かしら目標があるという訳でもなくて、いちばんの理由はバイト自体が楽しかったからですかね。バイト先で友達もできたし。ちょっとしたスキルが身に付くのも面白いんですよね。割烹でバイトしてたとき、食べ方を知らない観光客のために、松葉ガニをイチから捌いてお客さんにサーブしてたんですよ。だからいまだに蟹捌くのは、マンガ家の中でいちばん上手い自信があります。

──頼もしい(笑)。

いまでもネットで蟹を買って、猛スピードで捌いていく飲み会をよくやります(笑)。うちの仕事場ってアシスタントさんが10人くらいいて、皆がときどき過去のバイトスキルを発揮する瞬間があって面白いですね。“ねぎっこ”って呼ばれてるベテランアシスタントがいて、その子はおつかいに行かせると完璧なんです。なんでかっていうとずっと東急ハンズでバイトしてたからなんですね。

──ああ、なるほど。

ハンズとコンビニは最強です。ねぎっこがいると、スクリーントーンや紙の在庫も絶対に切れないんですよ。

バイトをいろいろしてきた人のほうが付き合ってて楽しい

──完璧な在庫管理がされていると。

普通、よそのマンガ家のとこだと「先生ー!○番のトーンがもうないですー!」みたいなことが締切前に絶対あるんだけど、うちは彼女のおかげでまったくないですね。そういうふうに、やってみればちょっとしたことでも引き出しが増えるんだから、皆どんどんバイトしてみたらいいと思います。

──ちょっと珍しい職種を経験したほうが、のちのち話題のネタになったりしますよね。

うん。自分の中になかったものをやったほうが楽しいと思いますよ。カフェや雑貨屋の店員になりたいと言ってる子より、「肉屋で働いてたから知ってるんですけど、頼めば豚の背脂持って帰れるんですよー」と言ってる子の方が面白いじゃないですか。

──背脂(笑)。

実際にうちのアシにそういう子がいるんです。普段はおとなしいのに、近所の肉屋に行った帰りに「先生これ……」っていきなりシート状の背脂差し出してきて(笑)。全然見たこともない形状の物体だったから慄いてたら、「これ、野菜炒めに入れるとすごい美味しくなるんです……」って言ってきたんです。あれは衝撃だったなあ。やっぱりバイトをいろいろしてきた人のほうが、人間力がある感じがして付き合っていて楽しいですね。できることなら、いまからでもまたバイトしてみたいです。

──いまからならどんなバイトがしたいですか?

内職っぽいのがいいですね。まさにこないだ、そういう機会があったんですよ。あ、私、去年再婚したんですけど……。

──ご主人、ファッションデザイナーの方でしたよね。

そう、アパレルでお洋服作ってるんですけど、この間増税の影響で流通がめちゃくちゃになったとき、旦那が納品するはずの服がギリギリまで届かなくなったんです。「これの仕上げ作業をして明日伊勢丹に持っていかないと、もう俺はクビだ!」って、うちの仕事場に泣きついてきたんですよ。

──それでアシスタントさんたちと内職を?

自分の原稿の締切も近いのに、皆で糸切ったり金具やタグを付けたり……徹夜でやり遂げました。本当に細かい作業だったけど、今年いちばん楽しかったかもしれないなあ。

──集団での内職って、文化祭の準備のような楽しさもありますよね。

ずっと単純作業してると、精神世界が普段ないモードに入って面白いですね。アシスタントも皆、またやりたいって言ってました。機会があれば絶対、そういうバイトをまたしたいです!

東村アキコ
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「an」特設サイトではナタリーとの連動企画として、一般ユーザーから寄せられたバイトに関する悩みや相談にゲストが答えるコーナーを掲載。東村アキコにはインタビューとあわせて、さまざまな質問に答えてもらった。

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東村アキコ(ヒガシムラアキコ)

東村アキコ

1975年10月15日宮崎県生まれ。1999年、ぶ~けDX NEW YEAR増刊(集英社)にて「フルーツこうもり」でデビュー。2001年、Cookie(集英社)で「きせかえユカちゃん」の連載を開始。ファッショナブルな登場キャラクターとライブ感のある話作りで人気を集める。2006年、モーニング(講談社)にて自身がデビューするまでの様子を家族のエピソードとともに描いた「ひまわりっ~健一レジェンド~」の連載を開始。代表作には、「ママはテンパリスト」「主に泣いてます」などがある。Kiss(講談社)にて連載している「海月姫」は第34回講談社漫画賞を受賞し、同誌では「BARAKURA」「東京タラレバ娘」も連載中。またCocohana(集英社)にて「かくかくしかじか」、モーニングにて「メロポンだし!」を連載している。ナタリーのマスコットキャラクター「ナタリー信子」と「マシュー」は同氏による描き下ろしである。


2014年12月26日更新