「王様ランキング」十日草輔インタビュー|祝・単行本発売!読者に感謝のQ&A

カゲの回想は涙を流しながら描きました

──主人公のボッジについては、こんな質問も届いています。「私は中等度難聴なんですが、毎回ボッジの耳が聞こえない描写がリアルで細かくて、感心してしまいます。十日先生のお近くにも難聴者がいらっしゃるのでしょうか」。

実は私も子供の頃から耳が悪くて、いつも検査に引っ掛かっていたのですが、うまくごまかしていました。でも大人になってから、はっきり耳が悪いことを理解しましたね。電車内で声が大きいと何度も注意されたり、会社ではみんなの声が小さくて聞き取れなくてイライラしたり。一番困ったのが電話でした。若い頃は電話を取らなくてはいけなかったので、何度も聞き直すのが恥ずかしくて恥ずかしくて……。恥ずかしがらずに、子供のうちに文明の利器に頼ればよかったと、今では思います。リアルと言われると恥ずかしいですね。自分のそういうコンプレックスの一面が見えるのかもと思っちゃいます。手話はまったくわかりませんのでネットで調べて描いています。手話の描写はちょっとだけリアル感を出したかったので。描写から実際にわかる人がいてびっくりしています。

ボッジは耳こそ聞こえないが、読唇術に長けており、相手が何を言っているかは理解できる。

──ボッジを「耳が聞こえず、言葉が話せない」という設定にした理由は何だったのでしょうか? マンガの主人公としては、描くのが難しい設定なのではないかなと思うのですが。

実はあまりセリフが思いつかないんですよね……。というのは冗談で、現実だと相手の表情から心理をつかむのは難しいですよね。じっと見れないし。でもマンガは読む人がページをめくれるから、1つのコマからいろんなことを想像して予想できる楽しみがある。裏切られたり、思い通りだったり。無意識にそういうのを楽しんでますよね。だから主人公がしゃべれなくても行動でわかるし、読者も楽しめる。結果、難しい設定というかハンデにはなりえないですよね。それと私自身がものすごいおしゃべりなので、無口な人に憧れもあると思います。口は禍のもとですから。

──「お話を描く上でいちばん『頑張れ!』って思ったシーンはどこですか!」という質問についてはいかがでしょうか。

幼いカゲが1人旅立つところです。ポイーズちゃんに代弁してもらいました。カゲの幼い回想では涙ボロボロ流しながら描きました。めちゃくちゃ感情移入してしまったので、思い入れも強かったんですね。

幼い日のカゲは、追っ手に狙われて危ないところを伯爵令嬢のポイーズに助けてもらう。

──第11話で描かれた、カゲの過去のシーンですね。カゲもそうですが、ボッジやダイダなど、子供たちが必死にがんばっているシーンが多くて、毎回感動してしまいます。作品の特徴としては、いわゆる“悪人”がいないという印象が強いです。物語を展開するうえで悪人がいないというのは難しいのでは?

それはあまり意識したことないのです。ただボッスの家来には、悪人はいないというのが最初からの前提でした。これから描くと思いますが、ボッスは人の闇を知っていますので、家来にするとき、人を見極めて決めていました。ですので、ボッス国を離れたら悪人がいっぱい出てきます。

絵柄が変わるのは、スピードとの勝負なので一番描きやすいものに

──単行本について、こういった質問も来ています。「ボッジ王子の絵柄が最初と今でずいぶん変わりましたが1巻の表紙をどうするかで悩んだりしましたか? 最初からコミックになってたら表紙も初期の頃からだんだんと変わっていったのではないかとちょっと思ってしまったので。自分はどの頃も全部好きです」。

絵柄が変わるのは、自分が描きやすい様に自然と変わっていくんですよね。マンガ描くのはスピードとの勝負なので、自然と一番描きやすいものになると思います。例としてボッジの髪型がもこもこするようになったのも途中で線が止められるんです。そこで頭の形を調整できる。初期の場合は、丸なので一発勝負みたいなのがあって、失敗すると顔の表情がまったく変わるので何度も描き直さなければならないんです。時間がかかるんです。

──今回、単行本化にあたって苦労したことはありましたか。

単行本作業と並行して連載を途切れないようにするのが大変でした。実際にはストックが3話あったので助かりました。

──1巻にはボッジの両親のお話である「彼が生まれた日」、2巻にはボッジとカゲの出会いをカゲの視点から描いた「そして二人は出会った」という描き下ろしが収録されました。ともに過去のエピソードになるかと思いますが、このお話を描こうと思った理由を教えてください。

「彼が生まれた日」は、父親・ボッスの心情を描きたかったというのがあります。皆さんの感想をネットで見ていて、ボッスが何を考えているかわからないという意見を多く見ていましたので、「ああっ教えたい」と。それにお母さんが出てくるタイミングも当分なさそうなので、出しちゃえという勢いもありました。「そして二人は出会った」は、出会ったときの2人の心情をもう少し丁寧に描いてみたかったのと、現在進めているお話に2人がほとんど出てこないことにやきもきしていました。やっぱりボッジとカゲの2人を描いている時は、私も楽しいのです。

あくまで軽い気持ちを大事にしていた

──この質問はいかがでしょうか。「現在のようにたくさんの読者や応援がなく、連載当初ほどの落ち着いた反響が続いていたら……今のように連載を続けましたでしょうか?『特に反響がなかったら更新を止めよう』と考えていましたか? それとは関係なく『最後まで描き切る』と決心していましたか?」。

マンガを描き始めるにあたって「これは練習」と位置付けて、続けることを第一としました。何より気張らないことを心に決めていましたね。結末も考えていなかったですし、「最後まで描き切る」というような決心はしてなかったです。あくまで軽い気持ちを大事にしていたんです。始めるときはやっぱりまったく反応がなかったり、ネガティブなこと書かれるのが怖かったです。ですので、逃げ道として軽い気持ちを大事にしていました。反応がまったくなかったら、やはり続けてはいなかったと思います。でも初めてコメントいただいて、だんだん読んでくれる人が増えて、もうそうなると楽しくて続いちゃいますよね。バズったのは描き続けて1年半後ぐらいだったと思います。本当におまけなんです。ですのでバズらなくても普通に続けていました。

第1話より。1巻発売時点で、Webでの累計PV数は4500万を超えている。

──マンガを描いていて、つらいことはありますか?

つらいことは近所からいい目で見られないことですね。40男が引きこもって何しているかわからない。まあいい目で見られないですよね。わかってはいるんですけど、外に出るときは憂鬱かな。マンガに関してはつらいと感じたことはないです。人付き合いもまったくなくなりますが、その分、気兼ねなくマンガに集中できますし、読んでくれる方がいますのでまったく寂しくもならない。孤独ですけど孤独じゃないんですよね。不思議ですけど。

──あとはこんな質問も来ています。「せんせいのネコチャンの名前を教えてください。イニシャルでもいいです」。おまけマンガなどに登場する、猫のことですね。

家猫のぶうちゃんと、野良猫のチビ子です。ぶうちゃんはチビ子の子供です。チビ子はそのとき3匹産んだんですが、残りの2匹は福島の両親に飼ってもらってます。3匹産んだ後に、避妊手術のため動物病院に連れて行ったんですが、そのときでしたかね……。名前を決めていなかったんですが、獣医さんに「名前を付けたほうがいいですよ」と言われて、すごく小さい猫だからチビ子と命名したのを覚えています。ぶうちゃんは太っているからではなくて、鼻息がぶうぶうしてたからです。

──おまけマンガを拝見していて、猫との生活はマンガを描くうえでの息抜きになっているのかなと思いました。ちなみにお仕事中の息抜きはなんでしょうか。

TVゲームです。昔はPS4でガッツリ遊んでましたが、今は時間がなくてPC内蔵の単純なゲームで息抜きしてます。最近ハマっているのは、TVゲームの麻雀ですね。役とかわからないのでリーチしかできませんけど。

──では最後に、読者の方々へのメッセージをお願いします。

感謝しかありません。ありがとうございます!