コミックナタリー Power Push - 作画:アルコ 原作:河原和音「俺物語!!」
作画に徹する中で生まれた 原作者・河原和音との化学反応
河原さんのネームに「このあとどうしよう……」って独り言が
──アルコ先生は「俺物語!!」で初めて原作付きの作品を執筆なさっていますが、おひとりで作品を作っていたときとの違いはありますか。
まず楽ですよね(笑)。スケジュールも立てやすいじゃないですか。作画って「このくらいの時間があれば大丈夫」っていうところを事前に決められれば、あとは作業の時間なので。私はネームで悩むことが多かったんですよ。河原さんはネームのほうがスラスラできるっておっしゃってました。河原さんはすごく早いんですよ。「青空エール」の前に、「俺物語!!」のネームをやってくれてるみたいです。
──先のストーリー展開についても、ある程度お聞きしているんですか。
いや、私もネームが来るまでどんな話になるのかわからないんです。別マでちょうど今やっている修学旅行編も、「この後、どうなるんだろう……!」って思いながら描いています(笑)。ときどき河原さんのネームに、「この後どうしよう……」って独り言みたいに書いてあるんですよね。
──(笑)。河原先生と作品について話されたりも、特になく?
全然ないですね。お会いしても、どうでもいい話をして帰ってくる(笑)。
──主人公の猛男は、少女マンガの登場人物らしからぬビジュアルで異彩を放っています。
猛男っていうキャラクターは、河原さんにしか描けなかったんじゃないかなって思うんです。思考回路は単純なんですけど、河原さんにしか生み出せない。前に河原さんが、猛男というキャラクターができたのは1巻の、鉄骨を支えて大和と砂川を避難させるシーンだっておっしゃっていて。ああいう思考回路にはわたしはなかなか辿り着かない。
──最初の読み切り版での「大和が幸せになってくれれば、自分のことは二の次でいい」というシーンですね。
そういう心根がまっすぐなキャラクターって自分だと描きづらくて。どうしても卑屈になっちゃうんですよ。河原さんの作るキャラクターってみんな素直でいい人なんです。
──河原先生はアルコ先生との「俺物語!!」2巻の巻末対談で、猛男について「終電車」というアルコ先生の読み切りに出てくる、ゆりあのようなキャラクターを描きたいとおっしゃっていました。
そうですね、独りでも強く生きていける感じが好きだとおっしゃっていただいて。でも、ゆりあは弱点をカバーするために強くあろうとしているキャラですが、猛男はそうではなくて、もともと達観しているキャラなんだと思います。
──猛男は第1話の時点で自由に動かせていたんでしょうか。
うーん、2巻の猛男が火事現場から飛び出てくるところからですかね。連載になってから第1回目のお話です。私、猛男を描くときはもう完全に猛男になりきっているんですよ。なのであのときはまさに自分も火の中から出てきたみたいな感じで描いていました(笑)。
猛男になりきるといい絵になる
──猛男になりきるというのは、下絵の段階で?
ペン入れのときですね。下絵はカメラマンみたいな感じで構図を決めながら描いているので、まだ私っぽいんですよ。で、ペン入れのときはキャラクターになりきって思うままに描く。
──猛男は電車内で吊革ではなく、ポール部分を掴んでいたりと、体の大きい人が本当にやりそうなことをしていますが、そういった部分も想像ですか?
猛男になってますから! 体が大きければ不便なことも多いでしょうし、いろいろなところにぶつかったりもすると思うので。だから、猛男が火傷したときは自分も火傷したような気持ちになってますし、走ってる画を描くときはホントに苦しくなって、ゼーゼー言ってます。多分、自分が息止めてるだけなんですけど(笑)。でも、そういう感覚があるときのほうが描いていて、いい絵になるんですよね。
──猛男がまじめな表情を見せたり、あるときは筋肉隆々なタッチで描かれていたりと、モノローグ部分の絵も「俺物語!!」の特徴的なシーンだと思うのですが、意識的に画作りをするというよりは、猛男になりきって描いているんでしょうか。
そうですね。この作品に関しては、私の描いた絵が読者にどういうふうに見えるかっていうのは二の次でいいと思っているんです。河原さんが書いたモノローグを読んで猛男になっている私の気持ちをその通りに絵にすれば、描きたい顔になってくれるので。猛男に関しては本当に迷わないんです。
──なるほど。猛男のビジュアルに関して言うと、1巻はまだシャープな感じでしたよね。それが段々と丸みを帯びてきて。
1巻の時点では、まだ少女マンガを捨てきれていなかったんですね(笑)。最初は細かったんですよね。ただこれも意図して柔らかいフォルムになってきたっていうよりは、自然とこうなっちゃったんですよ。特に大和との恋が深まっていく場面なんかは、丸っぽく、柔らかくなってるなって自分でも思います。
──巻数を重ねるごとに、自然に絵柄が変わっていくものなんですね。「俺物語!!」はアルコ先生の最長連載となりました。
こんなに同じキャラを描いたことがないので、1巻と最終巻の絵がちゃんと同じな作家さんってすごいと思います。例えば咲坂伊緒さんなんて、「アオハライド」も「ストロボ・エッジ」も、最初と最後で全然絵が変わらないですもんね。
砂川を理解するのは本当に時間がかかった
──では、大和や砂川は描いてみていかがですか。純真無垢、クールで物静かとそれぞれに個性がありますが。
大和は猛男と近いんですよね。思ったことが行動や口に出るような素直なタイプ。でもこのキャラクターもよく考えたら難しいんです、私だったら絶対生み出せなかったと思う。
──それはどういったところが。
ひねくれた目線で見ると、大和ってヘタすると読者の反感を買ってしまいそうなリア充なキャラクターじゃないですか。でも河原さんのネームだと全然嫌な感じはしないんですよ。あざとさも感じない。ただ、大和は猛男がいないと成立しないキャラだとも思いますね。ひとりじゃないから成り立っている。砂川は本当に難しかったです。8巻くらいまでは慣れなくて、本当にどうしたらいいかわからなかった(笑)。
──8巻ということは、本当につい最近ですね。
そうですね。悠紀華ちゃんが出てくるあたりは、本当に描きにくかった。砂川が悠紀華ちゃんにどういう態度を取っていいかもわからないし……。先ほど猛男についてキャラになりきっていると話しましたが、それは大和も砂川も同じなんです。キャラクターを描くときは、どうしてそこに立っているのかとか、どういう気分でいるのかっていうことを考えているんですけど、砂川は同時に色々なことを考えているので、今ここで一番重要なことがどれなのかっていうのが読み取りづらいんですよ。
──思考回路が複雑だと。
いろんなことを咀嚼して答えを出すようなキャラクターなので、猛男とかとはテンポが違う。本当に時間がかかるタイプでしたね。
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大和がバイト先で出会ったパティシエの一之瀬さんに「凛子と別れてくれ!」と迫られた猛男。自信をうしないかけた猛男だけど、大和を渡したくない気持ちに気づき、一之瀬さんに立ち向かっていく。いよいよパティシエ・コンクール当日……全てが決まる運命の日に何かが起きる!?
「俺物語!!」が表紙&巻頭カラーで登場。
映画「俺物語」に出演する、猛男役の鈴木亮平、大和役の永野芽郁、砂川役の坂口健太郎と、河原和音、アルコの座談会も収録されている。このほか、渡辺カナ「ハンキー・ドリー」もスタート。
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2015年10月13日(火)10:00~
2015年11月13日(金)23:59
※応募はスマートフォンからのみ受付
- 映画「俺物語!!」 / 2015年10月31日ロードショー
- 映画「俺物語!!」
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キャスト
鈴木亮平、永野芽郁、坂口健太郎、鈴木砂羽、寺脇康文ほか
アルコ
7月26日石川県生まれ。1999年、別冊マーガレット9月号(集英社)掲載の「雨ノチ晴レ」でデビュー。以降、同誌にて短編を中心に執筆を行い、2005年に出世作となる「ヤスコとケンジ」の連載を開始。兄ケンジと妹ヤスコを中心に巻き起こる珍騒動が人気を博し、2008年、松岡昌宏、広末涼子ら豪華出演陣によるドラマ化で大きな話題を集めた。2011年10月、別冊マーガレットsisterに河原和音原作による読み切り「俺物語!!」を執筆。同作は別冊マーガレット2012年5月号より連載化され、2015年4月にはアニメ化、10月には実写映画化を果たした。