コミックナタリー PowerPush - ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社」

大根仁がふたたび狩撫麻礼を撮る!円熟の境地に捧げる慈愛とリスペクト

この作品でいちばん大事なのは、依頼人を浮き上がらせること

──キャストはどのように決まったのでしょうか。

村木を演じるオダギリジョー。

「湯けむりスナイパー」も「やりすぎコージー」も担当していた、五箇公貴さんっていうテレ東のプロデューサーがいるんですけど、あるとき彼に会ったら、彼は「舟を編む」って映画の仕事の最中で。それで「舟を編む」に出ているオダギリジョー君の演技がすごく良いって話になって。主人公の村木は、中年でも若者でもない中途半端な歳で、シニカルでもなくて力の抜けた感じのキャラなんですが、オダギリ君だったらできるかもしれない、ってイメージが繋がったんですよね。

──村木は淡々としていて彼の趣味嗜好が見えるような描写はほとんどありませんが、役の演出はどのようにされたのでしょうか。

村木は主役ではあるけれど、この作品にとっては依頼人を浮き上がらせることが一番大事なんです。なのでオダギリ君とは、喜怒哀楽のはっきりした芝居や、セリフにトーンをつけるような演技にはしたくないっていう意思疎通をしたかな。

──ちなみに村木も所長もメグミも、過去については描かれていませんね。

画像左より所長役の石橋蓮司、メグミ役の小泉麻耶。

このマンガはレギュラーの登場人物が3人だけなのに、彼らの過去にはほとんど説明がない。所長にはベテランの風格があるけど、彼がそれまでずっと探偵をしてきたかっていうとそれもグレーだし。なんか過去に一物ありそうな人たちが集まってる感じですよね。キャスティングはそこも意識したかな。所長役の石橋蓮司さんは別にルックスで選んだわけではなくて。所長は面倒くさい依頼事に対して、温かい目線なんだけどどこか俯瞰視するような冷めたところもある。それでプロフィールや性格において深みのある、色々な表情ができる人ってことで蓮司さんにお願いしました。

──メグミ役の小泉麻耶さんに関してはいかがですか。

メグミは原作でもあんまりキャラクターが明らかにされてないんだけど、ちょっとキャバ嬢っぽい感じが非常にアクセントになっていて。そこから探偵事務所でバイトしつつ風俗のバイトもしてる、というオリジナルの設定を思いついて、小泉麻耶に決めました。なぜ彼女かというと、「暗闇から手をのばせ」っていう映画で演じたデリヘル嬢役がとてもよかったんですよ。

僕みたいにちょっと枯れた中年層が、深夜にビールを飲みながら

──ちなみにドラマの第1話は、単行本1巻収録の「最後の晩餐」というエピソードです。余命少ないヤクザの親分が戦後の浅草にあった中華料理屋で食べたワンタンの味が忘れられず、店の行方を探してほしいという依頼の話ですが、これを第1話に持ってきた理由は何かあるんですか?

「リバースエッジ 大川端探偵社」より。

最初に読んだときから、この話が「リバースエッジ 大川端探偵社」の軸だなって感じてました。作品の本質というか、いまの狩撫さんのテンションが凝縮されてる気がしたんですよね。「最後の晩餐」はジャンクなものの魅力を題材にした話だけど、マンガもまたジャンクなものじゃないですか。それをワンタンという大衆料理に転用して、うまく伝えているなと。しかもそのジャンクさは深夜ドラマにも共通するところで、深夜ドラマを観て何か大きな感動を得ようとか、教訓めいたものを得ようとかってことは別に思わないじゃない? ジャンクでいいからちょっと満足したいっていうのが深夜ドラマなわけで、幾重にも大事なことが凝縮されてるって思ったんですよね。

──どんな視聴者層を意識されていますか。

もちろん色んな層に届けたいと思ってはいるけど、まずは自分ですかね。僕みたいにちょっと枯れた中年層が、夜遅く帰ってきてビールでも飲みながら「何かねーかな」って気分でTVを点けたとき、ちょっとの時間、満足できるものが作りたいんですよ。深夜にふと何か引っかかるような、そういうドラマを作りたいなと。それは「湯けむりスナイパー」でも「モテキ」でも「まほろ駅前番外地」でも一貫しています。

「リバースエッジ 大川端探偵社」より。村木が事務所の長椅子で居眠りしている場面。

──第1話を拝見しましたが、村木が予知夢を見るというオリジナル要素が加わっていますね。

依頼人や依頼事の断片的な予知夢を見るっていう設定なんですけど、あれ何だろうね(笑)。

──何だろうねって、書かれたのご自分じゃないですか(笑)。

一応お約束の展開として毎回入るんですけど、その能力が何であるかっていうのは最後まで特に説明しません。まああと原作は連載中ですから、ドラマの最終回はオリジナルの脚本を書きました。狩撫さんだったらどんな最終回にするかなあ? って考えながら。狩撫さんにも一応見てもらって、「いいんじゃないか」ってOKをいただきましたよ。やっぱり狩撫節は、僕の血肉となってますし。

──大根さん流の狩撫節、とても期待しています。

うん、楽しみにしててください。ところでコミックナタリーのインタビューだから話すけど、「リバースエッジ 大川端探偵社」にはプロトタイプみたいな作品が存在するのね。今の「リバースエッジ 大川端探偵社」が始まる前に、週刊漫画ゴラク(日本文芸社)に1話掲載されたことがあるんだ。

──どんな内容なんですか。

大根仁

「湯けむりスナイパー」のキャラクターをそのまま使って、「リバースエッジ 大川端探偵社」を描き始めたんだよ。源さんが村木で、番頭さんが所長で、君枝ちゃんがメグミ。作画も「湯けむりスナイパー」の松森正さんが担当してて。結局作者のどちらかがピンと来なかったのか、すぐ終わっちゃって。で、たなか亜希夫さんで仕切り直したのが今の「リバースエッジ 大川端探偵社」っていう。

──お恥ずかしいことに、それは知りませんでした。

まあ知ってる方がおかしいよね(笑)。あれは見た瞬間、こんなの絶対単行本にならないぞ、と思って切り抜きして取ってある。多分デスクをひっくり返せば出てくると思う。

──すごく気になります。というところで、今日はそろそろお時間が来てしまいました。

えーと最初に20代、30代にはまだ早いって言いましたけど、こういったタイプの作品に慣れておくのもいいかもしれない。もし今はピンとこなくても、そのうちわかるときが来る。人間ね、ずーっとジャンプ読み続けるわけじゃないんですから。起承転結や盛り上がりやクライマックスやバトルがあるものだけがマンガではないと。そうだなー、落合(博満)ぐらいになると、「打とうと思えば打てるけど、別に打たなくてもいいや。次の元木(大介)に打たせるか」って打席もある。そんな味わいかな。伝わらないか(笑)。

ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社(4)」 / 2012年9月28日発売 / 637円 / 日本文芸社
ひじかた憂峰 / たなか亜希夫「リバースエッジ 大川端探偵社(4)」
作品紹介

東京浅草……隅田川沿いの雑居ビルに、小さな探偵社があった。そこを訪れる奇妙な依頼人たち──。なまはげ、痴女、声萌え、元80年代アイドル……。探すのは、人生というパズルの欠片。伝説の名作「ボーダー」を生んだ黄金コンビが描き出す、漂流列島・JAPAN。

ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」

ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」

テレビ東京系
毎週金曜24:12~放送
(※テレビ大阪は翌週月曜23:58~放送)
脚本・演出:大根仁 ほか
出演:オダギリジョー(主演)、石橋蓮司、小泉麻耶 ほか

(c)「リバースエッジ 大川端探偵社」製作委員会

大根仁(おおねひとし)

大根仁

1968年生まれ、東京都出身。演出家、映像ディレクターとしてさまざまなドラマやビデオクリップを手がける。代表作は「演技者。シリーズ」「週刊真木よう子」「湯けむりスナイパー」など。2010年夏に放送されたドラマ「モテキ」のヒットによりその名を広く知られるようになる。2011年、映画監督デビュー作となる映画版「モテキ」が公開され大ヒット。2013年1~3月には脚本・演出を務めたドラマ「まほろ駅前番外地」が放送され、深夜ドラマでは異例のギャラクシー賞を受賞した。

ひじかた憂峰(ひじかたゆうほう)/ 狩撫麻礼(かりぶまれい)

1947年、東京都出身。マンガ原作者。1979年に狩撫麻礼の名義でデビューする。デビュー作は大友克洋が作画を担当した短編「East of The Sun,West of The Moon」。代表作は、たなか亜希夫作画「迷走王ボーダー」、かわぐちかいじ作画「ハード&ルーズ」など多数。1996年以降は狩撫麻礼名義での作品発表はなく、複数のペンネームを使い分けて活動している。ひじかた憂峰名義では、松森正作画「湯けむりスナイパー」、たなか亜希夫作画「ネオ・ボーダー」「リバースエッジ 大川端探偵社」を執筆。「湯けむりスナイパー」は大根仁が監督を務め、2009年にドラマ化を果たした。2014年4月からは再び大根が監督するドラマ版「リバースエッジ 大川端探偵社」が開始する。

たなか亜希夫(たなかあきお)

1956年生まれ、宮城県石巻市出身。1982年に「下北沢フォービートソルジャー」でデビューを果たす。代表作に「クラッシュ!正宗」「迷走王ボーダー」「かぶく者」など。現在はイブニング(講談社)にて「軍鶏」、漫画アクション(双葉社)にて「ネオ・ボーダー」、週刊漫画ゴラク(日本文芸社)にて「リバースエッジ 大川端探偵社」を連載中。「ネオ・ボーダー」「リバースエッジ 大川端探偵社」はどちらも、原作を狩撫麻礼の別名義であるひじかた憂峰が手がけている。