バディ……それは理屈を超えた“癖”
──個人的には、ウィステリアとマルバスのお互い孤独だからこそ寄り添っている部分に惹かれるところがあるのですが、公式サイトのインタビューでも語られていたように、星野さんとしては2人は依存しあう関係でもないし、この関係に名前はつけないようにしたんですよね。
星野 そうですね。例えば完全に2人が別の道に別れてしまったとしても、それで2人が絶望するとか、死ぬとか、そういうことはないと思うんです。1人でもマルバスは今までと変わらず生きていくし、ウィステリアもなんだかんだマルバスがいなくても自分の力だけで生きていける。ただ、2人でいたほうが絶対いいし、2人でいたほうが力が出る。そういうところが依存ではないかなと思います。「あなたがいなきゃ生きていけない」ではなくて、でも、「あなたとの出会いが世界を変えた」という……すごくカッコいいキャッチコピーを(アニメで)つけていただいたんですけど、まさにその通りだなと。
──ウィステリアもマルバスも個々の芯の強さは感じます。
星野 はい。芯の強さがあるから、寂しさを抱えていても共倒れはしないという関係なんだと思います。
──ちなみにこの作品にはウィステリアとマルバス以外にもバディがたくさん出てくると思うのですが、そのあたりは意識して描かれているものなのでしょうか?
星野 そうですね、バディものがものすごく好きっていうのがあって。それは理屈を超えた“癖(へき)”として書いてるところがあります……(笑)。
小西 あ、だからバディが多いんですか? なるほど(笑)。
星野 そこは“癖”として出てしまっている部分はだいぶありますね。理屈じゃないんだ、計算でもないんだ……っていう(笑)。
──なるほど、星野さんの“癖”はそこだったんですね(笑)。
アフレコでは“生きている”ということを大事にしたい
──小西さんに伺いたいのですが、マンガ原作のアニメ化ということで、ご自身がこの作品に関わるうえで「ここは大切にしたい」と感じている部分はありますか。
小西 ええ……難しいなあ。全部ですね。原作がある作品っていうのは、それぞれ皆さんが想像する声や色でマンガを読まれていると思うので、この作品とキャラクターを任せていただいたからには、アニメを観た人たちが納得していただけるような形で、動いてしゃべって生きている姿を見せたいなという思いはあります。それは僕1人でできることではないので、アニメーションや音楽の力もあってこそなんですが。その中の1つの歯車として、皆さんに認めていただけるマルバスになればいいなという思いでやっていますね。
──例えばウィステリア役の竹達(彩奈)さんと何かお話されることはあるんですか?
小西 どの現場もそうですけど、僕の場合ですが役者同士でディスカッションしてやるっていうのはあまりないです。皆さんそれぞれプロですから、台本を読まれて自分なりに自分の演じるキャラクターを読解して表現されています。仮に打ち合わせをしてもいいと思うんですけど、用意されたものではなく、リアルタイムの掛け合いになったほうがよりいいかなと思うんです。ちゃんとそのときの言葉を聞いて返してあげる。“生きている”っていうことを大事にしたいと思いますね。
──素晴らしい向き合い方だと感じます。
小西 でも言葉だけでは表現できない部分はもちろんあるので。アニメーションの絵だったり、曲だったり、そういったすべてが総合芸術として1人のキャラクターを作っていると思うんです。なのでオンエアを観たときに「わっ、すごい!」と思う瞬間がたくさんあるんです。スタッフの皆さんががんばってくださったおかげですよね。
──星野さんも先にアフレコを見学して、その後アニメもご覧になったということでしたが、実際に映像を観ていかがでしたか?
星野 先に第1話と第3話を観せていただいたんですが、本当に自分でも新鮮で。「ああ、こういう世界だったのか」と我ながら気付くところがあって。本当に世界そのものを広げていただいたと思います。あと、単純に面白く観てしまって(笑)。原作者とか関係なく、いち視聴者として「おお、面白いな」みたいな(笑)。
小西 「これ誰が原作描いてるの?」って(笑)。
星野 (笑)。でもそれもいいことなんじゃないかなと思っていて。“自分が作った作品”という思いが乗っかることもなく、素で「面白かったな」って感じたのは、いい意味で作者の皮が取れた状態で楽しめたからなので。それぐらい皆さんにもオススメできる作品になっています。
あのシーンは自分でも泣きながらネームを描いた
──それではこれまで放送された第1話から第3話までの間で、好きなシーンを教えてください。
小西 全部……と言いたいところなんですが、僕はウィステリアとマルバスの屋根裏部屋のシーンが一番好きなんですよね。「3回ノックしたらやって来る」という。あれが1カ月続くわけですけど、2人でどんな話をしてたんだろう?と思って。あそこは好きでしたね。
──ロマンチックなシーンでもありますよね。
星野 私もどうしても全部と言いたいところなんですけど……。第2話にはちょっとコミカルなシーンがあって、第3話だとちょっとしっとりするシーンがあって。そこのギャップも注目してほしいなと思います。
小西 第3話はずるいですよね。あの話はずるいです。
星野 あの2人に触れたあとのマルバスのセリフが……。あのシーンは自分でも泣きながらネームを描いたところだったので(笑)、ぜひ最後のマルバスのシーンまで観ていただければと思います。
──私も大好きなシーンです。それでは最後に、アニメではこれから原作でも人気の「ブラックベル家篇」に突入します。それぞれ見どころなど教えてください。
小西 まずは魅力的なキャラクターが続々と出てきます。ブラックベル家の話なので、ダイアナとナベリウスが中心になって話は動いていくんですが、あの2人の関係性もとっても素敵なので、見どころの1つだと思います。皆まで言えないのがつらいんですけど……ダイアナも大変です。星野先生はウィスだけじゃ物足りないんです、大変にするの(笑)。ダイアナも相当大変ですから(笑)。
星野 試練を与えてしまった(笑)。
小西 先生はいろんな人にいろんな試練を課していくから。恐ろしい。鬼ですよ(笑)。
星野 (笑)。
小西 でもそこにナベリウスがいる意味っていうのはありますし。2人の関係も含めてとっても素敵なお話だと思いますね。
星野 ありがとうございます。「ブラックベル家篇」では、ウィステリアとマルバスにある意味で似た関係のバディがもう1組出てくることで生まれる話の広がりがあったり、マルバスとしても一番対等にやり合える相手が出てくるので、ウィステリアともまた違った掛け合いの妙を感じていただけるのではないかと思います。あとはウィスが大きく踏み出すエピソードでもあり、そこにマルバスもちゃんと乗っかるという、かなりボルテージが上がるような熱さがあります。そのストーリーを皆さんと一緒に楽しめたらうれしいです。
小西 あとはスノウもね……彼も重要ですから。
星野 彼は1人でいいセリフ持って行きますから(笑)。そこも注目してほしいです。
プロフィール
星野真(ホシノマコト)
2017年に少年サンデーSに掲載された「彼の星よりも高く」でデビュー。2019年から2021年にかけて週刊少年サンデー(すべて小学館)で「ノケモノたちの夜」を連載し、単行本は全8巻が刊行されている。2023年1月からは同作のTVアニメが放送中。サンデーうぇぶりでは特別連載として「ノケモノたちの夜 フレイムナイト」が発表されている。
小西克幸(コニシカツユキ)
4月21日生まれ、和歌山県出身。勝田声優学院に11期生として入学後、野村道子に誘われ賢プロダクションに所属。主な出演作として「鬼滅の刃」(宇髄天元役)、「ジョジョの奇妙な物語Part5黄金の風」(ディアボロ役)、「デカダンス」(カブラギ役)など。アニメへの出演のほか、海外映画、海外ドラマの吹き替え、ナレーションなど活躍の場を広げている。2015年に第9回声優アワード助演男優賞を受賞。特技は殺陣。
※記事初出時、一部キャプションに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。