マルバスの声を聞いて「これが原作の声だ」
──今は皆さん揃ってアフレコを、という形ではないんでしょうか?
小西 分散での収録ですね。僕は一緒のシーンが多いウィステリア、ダイアナ、ナベリウスと録ることがほとんどでした。
──星野さんは収録の様子を見ていかがでしたか?
星野 猛烈に楽しかったです。楽しんでていいのかって感じなんですが(笑)。
小西 声優さんが芝居をした声を聞いて、先生の中ではイメージとどれぐらいギャップがあったんですか?
星野 いや、本当にぴったりでした。私、本を読むときに音も一緒に再生するタイプなんですけど、マルバスに声をあててもらうまでは、なんとも言えない謎の声が聞こえていたんです。アフレコを聞いてからは「ノケモノ」を読み返すたびに小西さんのマルバスの声が流れてきて、今は「これが原作の声だ」と思っています。
小西 ありがとうございます(笑)。(インタビュアーに向かって)大きく書いておいてください(笑)。
──(笑)。
星野 あと、アフレコ中は監督が間に入って私の意見をいろいろと尊重してくださっていました。作中に「私はウィステリアだけの味方だ!」っていうセリフがあるんですけど、原作では最後にびっくりマーク(!)がついてるんです。小西さんはそこをあえて抑えて言っていて。そこで監督から「ここ、原作とは違いますが大丈夫ですか?」と聞かれたときに、「私は原作が正解だと思ってないし、小西さんも絶対に意図があって抑えている演技だと思うから、演じられている方の解釈が正解じゃないですか?」と伝えて。監督もそれを受け止めてくださって「それで行きましょう」と。私は「原作ではこうだったからこう変えたい」とは思わないんですよね。そのときの演者さんの気持ちが乗った解釈だと思うので、「これは小西さんが正解です」とお伝えしました。
小西 うれしいですね。
意外と人間っぽい、熱血野郎なマルバス
──今回は小西さんとの対談ということで、星野さんはマルバスをどんなキャラクターとして捉えて描いていたのか、改めてお伺いしたいです。
星野 さっきも言及させていただいた通り“趣味こそ本気で取り組む主義”なので、本当は好きなものに対するこだわりは強い奴なんだなと思っています。でもそれを自分では忘れていたり、「ロンドン編」で垣間見えてくるように意外と熱血野郎だったりするんです。本人はクールにしてるんですけれども、ちょっとカッとなると手が出ることもあって。少年マンガっぽい見た目の主人公ではないんですけど、けっこう青臭い、熱いところがあるキャラクターだと思っています。
小西 意外と人間っぽいですよね。ウィステリアと出会って、ちょっとずつ血が通うようになった感じがします。
星野 最初に彼のキャラが固まるまでは、少し偉そうに「フン、小娘が……」みたいな性格だったんです。けどだんだん「いや、こいつは意外と突けばしゃべるやつなんじゃないか」と思ってきて。青年っぽいところが出てきたところで、何か固まったような気がします。
──ちょっと本筋とズレるんですけど、小西さんはもしマルバスのように不老不死になれたらどうしますか?
小西 なりたくないですね(即答)。
星野 あははは(笑)。
小西 未来がどういうふうに進化していくんだろうっていうのは見てみたいなあとは思いますけど。でも毎日生きていかなきゃいけないわけじゃないですか。知り合いも減っていく中で、その時間をたった1人で過ごさなきゃいけないってなったら、やっぱりしんどそうだなと。最初こそ「不老不死だぜ、イェーイ!」って楽しいかもしれないんですけど、だんだん1人ぼっちになって、心が死んじゃうと思います。だからマルバスも心を閉ざして、自分の時間を止めたと思うんですよね。
──だからこそ冒頭であんなに「退屈だ」と嘆いていたと。
小西 だから低く……重厚にやったんですけど。そうしたら「若く」というディレクションがあったわけです(笑)。
出会いそのものにも代償がある、必ずしもプラスなことだけじゃない
──星野さんはこの作品を描くときのテーマや核としていた思いはどのようなものだったのでしょうか。
星野 マルバスにも言わせたセリフではあるんですが、誰にでも寂しさはあるということ、でもその寂しさやつらいことは無駄ではなかったよ、ということでしょうか。嫌なことがあったときに「それも糧になったじゃん」とか「プラスになったよ」とは言われたくないけど、でもいろんなものの結果ゆえに今の自分があると感じるときってあるじゃないですか。だから寂しさといろんな過程を大事にした結果、いい出会いもあるよということを描きたかったのかなと思います。
──だからこそ、ウィステリアには最初にちょっとひどいことをさせて……。
小西 神父がさせてるんですよ! あいつ、売ってるんですよ、人を!
──そうですね(笑)。
星野 マルバスとウィステリアはお互い出会えたところで、ある種1つのゴールを迎えたとは思うんです。ただ、やっぱり種族的な隔たりみたいなものはあって。そうは問屋がおろさないじゃないですけど、何かの代償のように、戦いや争いがつきまとう部分はあると思うんです。現代でも例えばカップルとか、ほかの家族の問題ならその人たちの中だけで解決すればいいのに、なんだかんだでガヤが「やんややんや」と言うじゃないですか。
──現代は特にそうですね。
星野 それはやっぱり避けられないことだよなと。それが作品の中では大きなバトルという形にはなるんですけど、誰かが外から何か言ったり、何か軋轢が生じることは避けられないんですよね。ある意味ウィスたちもそれなりの代償を払わなきゃいけないという。出会いそのものにもやっぱり代償があるというか。必ずしもプラスなことだけじゃない。そういう部分は作品のテーマとして込めています。
小西 でもやっぱりウィスの目は戻してあげたいですね。このマンガに触れてしまって、自分がマルバスになってしまったから、よりそう感じます。マルバスは自分を通してウィスにも景色を見せているわけだけど、2人で世界のいろんなものを見に行こうって約束したわけじゃないですか。それは見せてあげたいなって、すごく思うようになりました。
星野 ああ……すごくうれしい……。これはヤバい言葉ですね……。今かなりジンと来ちゃいました。小西さんは本当にマルバスのことをわかってくださってるなって。彼だったら絶対いつかウィスの目を戻してほしいと考えているんじゃないかなと思うんです。実はそのへんに関しては特別連載のほうでちょっと触れている部分があるので、ぜひそちらをご覧いただければと思います。
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バディ……それは理屈を超えた“癖”