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ニコニコ動画の気になる話題に注目 「百姓貴族」配信記念、荒川弘インタビュー
特集 百姓貴族
コミックナタリー読者に向けて、ニコニコ動画からセレクトしたおすすめの作品を紹介する「ニコ×ナタ(コミック版)」。今月は農業エッセイ「百姓貴族」の一部無料配信に併せて、作者の荒川弘にインタビューを敢行した。「鋼の錬金術師」「銀の匙 Silver Spoon」で知られるヒットメーカーは北の大地でどのように育まれたのか、作品の魅力とともに彼女の人となりに迫る。
また2ページ目には小池一夫と虚淵玄の対談が行われたニコ生番組のレポートと、「あいうら」を連載中の茶麻インタビューも掲載。併せてチェックしてほしい。
荒川弘インタビュー
トイレで、ラーメン屋さんで読んでほしい
──2月21日からニコニコ静画で「百姓貴族」の無料配信が始まりました。ご自分のマンガが液晶画面で読まれるというのは、紙と違った感慨があったりしますか。
いやもう、読んでいただけるならどんな形でも構いません。パソコンが読みやすいという方もいらっしゃると思いますし、もちろん。
──書店によく行くようなマンガファンとは違った読者層にも読まれそうです。
これまでまったく接点のなかった方にも読んでいただけたら嬉しいですね。何の気なしにリンクを伝って出会いがある、というのがネットの強みでしょうから。こういう本があるって情報は知っていても、本屋に行くのが面倒だったりして出会いが終わってしまう可能性も考えると、ネット配信という展開は楽しみですね。
──そうした新しい読者に「百姓貴族」のセールスポイントを教えてください。
軽ーく読めるところ。ラーメン屋さんでながら読みしてほしいような作品です。いや待てよ、フンの話が出てきますので、食事中はダメか(笑)。朝の出社前にトイレで1本ずつ読んだり、そんな感じで気楽に読んでいただければ。
──気楽なエッセイスタイルですが、荒川さんにとっては初めてのジャンルですよね。
ええ。ただ「鋼の錬金術師」のおまけページみたいなノリでやってくれと担当さんに言われたので、割とすんなり。8ページだから起承転結つけやすいですし。
まだ誰もやってない、おいしい更地を見つけたぞ、と
──そもそも「百姓貴族」を始めるに至った経緯を教えてください。
編集さんと仕事関係なくくっちゃべってた時に「実家が農家で、うちの親父がこうでさ~」って話したら、こっちは普通に喋ってるのに、どっかんどっかんウケて。それで「あ、農家の生活って知らない人からしたら笑えるんだ」と気づいたんです。しかも農業エッセイは誰もやってないじゃないか、おいしい更地があるぞ、と(笑)。
──農業エッセイですので動物がたくさん出てきますが、動物を描くのは難しくないですか。
うーん、会心の出来っていうのはめったにないけど、牛とかずっと見てきたからね……なんとなく描けてるくらいの感覚ではいます。でも感覚で描いてるから、たまに図鑑見たら「あ、違ってた」みたいな(笑)。みんな馬が難しいって言うけど、私は猫が難しいんですよ。骨格が独特だからかな。
──資料なしはすごいですね。農家時代に動物たちのスケッチとかしていたんでしょうか。
絵は小さい頃から、カレンダーの裏とか、とにかく紙があれば描いてたらしいです。記憶に無いんですが、本家の婆さんがうちに来たとき、私が落描きしてるのを見るなり「この子マンガ家になるわ」って言ったらしいんですよね。その通りになったからすごいなと思うんですけど。とにかく何かしら描いてましたね。
──でも第1話に登場した、農家の1日を表すタイムスケジュールを見る限り、農家の子には絵なんて描いてる時間が無さそうですが。
寝なきゃいいんですよ(笑)。というのは冗談ですが、冬になれば畑仕事がなくなるので、冬に描くことが多かったかな。あとは雨が降った日。畑入れないからマンガ描ける、ラッキー! って。だから雨の日はいまだにウキウキして好きですね。
牛乳は湯水のようにあるし、「お米? 買ったことないわ」
──そんな農家時代も、いま荒川さんにとって「百姓貴族」と「銀の匙 Silver Spoon」という作品のネタ元となって役立っています。
「百姓貴族」はあくまで笑ってくれりゃいいやと思って、テーマとか何もなく、笑えるネタをぽんぽん出していってます。「銀の匙」は1巻で農業高校の基本編を見せておいて、それから主人公の成長に必要なネタを出していくっていう方針。だからおいしいエピソードでも、主人公や周りのみんなの成長に絡められなければ、使わないんです。
──そういう棲み分けがなされていたんですね。その「銀の匙」も、ニコニコ静画で第1話が配信されています。
よかったら、どちらも読んでいただけると嬉しいです!
──どちらの作品にも、農業の専門的な情報が出てきますが、あれはリサーチをして?
そうですね、学術的な話が出てくるところは専門の人に聞いています。荒川家の常識ならいくらでも描けるんですけどね(笑)。まず牛と畑を両方やってる農家があまりいないみたいです。うちの近所では普通にあったんですが、アンケートやお手紙を見ると、なかなか両方はいないって。
──かなりの重労働なんだろうとは想像できますが。
連日何トンも野菜を箱詰めしてヘロヘロで、ようやく寝れるぞってときに、近所の漁師さんが「鮭獲ってきた」ってどかんどかん置いてったことがあって(笑)。母親が「あーもう!」って言いながら夜中に鮭を捌いてたり。
──ははは、でも新鮮な鮭がタダでもらえるというのも、贅沢な話です。
そうですね。やっぱり百姓って大変なイメージがあるけど、食べ物に関してはまさに貴族ですよね。牛乳は湯水のようにあるし、「お米? 買ったことないわ」って。
「起こっちまったものはしょうがねえべ」という精神
──そうした農業体験はご自身の人格や作品に、どのように反映されていると思いますか。たとえば「鋼の錬金術師」には“等価交換”というアイデアが登場しますが。
努力すればしただけ美味しいものができるあたり、等価交換かもしれない。あのマンガの中で言えば大自然の存在は「真理」と同じかも。農家って大自然のご機嫌を伺ってる職業なんです。自然の摂理をお借りして、作物も家畜もデカくなる。
──投入した労力より大きな恵みをもらっているということですか。
反対に収穫時期に台風来ちゃって成果ゼロっていうこともある。天災を前にしたら、一生懸命働いてきたことも精一杯手をかけてあげたのもどうにもならない。「大自然はどうしようもねえな」と。
──それこそ去年は大震災もあって、農家の方も大きなダメージを負ったと思うのですが。
でも農家って、諦めじゃないですけど、「起こっちまったものはしょうがねえべ」っていうところがある。政府や企業の人は「想定外」「想定外の何々」って言ってたけど、大自然に想定を付けるほうがおかしいんですよ。「誰が悪い、これが悪い」って責めてたって、畑は草生えてくるし、作物はデカくなるし、家畜は腹減ったって鳴くし。動かなきゃいけないし。
──そういったタフネスが荒川さんにも宿っているのかもしれませんね。
そうですね、(何か失っても)あとはあるものでどうにかするしかないし、そこからどうスタートするか、っていう。そういう部分は私にもあります。そこは農家で育ったおかげかもしれないですね。
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