コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第15回 ななじ眺「あるいとう」「パフェちっく!」
手癖では描けないマンガへの挑戦
神戸を描くなら震災のことは避けては通れない
──見事に繋がりましたね(笑)。「あるいとう」は神戸の街並みがリアルに、丁寧に描かれているとも思いました。
やっぱり地元を愛してらっしゃる方もたくさんいるってわかっていたから、嘘は描けないというのもありましたし、震災(阪神・淡路大震災)のあたりの描写は絶対に嘘描いちゃいけないって思ってたから、すごく調べましたね。
──第1話がマーガレットに掲載されたのが2011年4月5日でした(参照:ななじ眺の新連載は神戸・北野が舞台の「あるいとう」)。
1話を描いているときにちょうど東日本大震災が起きたんですよね。
担当編集 そのときのマーガレットの表紙が「あるいとう」だったんですけど、印刷所さんも混乱しててなかなか校正が出てこないって大騒ぎだったのを覚えてます。
そうそう。でも神戸を描くなら震災のことは避けては通れないし、絶対描かなきゃいけないテーマだから、その話を出すことは決めてたんです。そしたら実際に震災が起きて、悩みながらの第2話だったのかな。「描いていいんやろか、このまま」って感じで。でも2話目の16ページまで描いたときに、今度は脳梗塞で倒れて……。休載することになって、連載再開しようってなったのが震災から1年くらい経ったときかな? 2012年の年明けすぐくらい。もちろん全然誰も、傷なんか癒えてないと思うんですけど、続けようってことになったんですね。東北のほうに支援で行ったときも、被災された方とお話ししていて、「実はこういうお話を描こうとしてるんですけど、どう思いますか?」って聞いたら「ぜひ描いてください」って。「忘れられるのが一番嫌です」って言ってくださって、背中を押してもらいました。
──偶然にも震災と、ななじさんがご病気されてしまった時期が重なったわけですが、作風を変えて挑戦してみようというときに1年お休みをするというのは、どういうお気持ちでしたか?
まず、もうマンガ家として復帰できるかどうかもわからなかったから。下手したら麻痺も残ってたし。もうめまいもすごくて。めまいは一生残るだろうって言われてたから、我慢しながら描くしかないって言われてたんです。本当すごかったです。自分は動いてないのに、全部がずっと動いてるように感じて。葉月めぐみちゃんと一緒にやってたチャリティ雑誌(参照:「君届」番外編も!マーガレット作家によるチャリティ本)も出すのを延期したくらいで。でも入院中、めっちゃリハビリがんばって。
「あるいとう」は手のかかる子だったけど、この子も宝物
──連載再開前と後で、絵の違いが全然変わらないというか、本当に一緒のクオリティで。壮絶なめまいがあったとも思えないほどでした。相当な努力をされたんだろうなと思います。
画材とかいろいろ病室に持ち込んで。個室だったので部屋の隅に、折りたたみ机を置いて、ちょっとした絵を描くスペースを作って、地べたで描いたりしてましたね。もうめまいに慣れるしかないって言われてたから。看護師さんにも「また歩いてる」って笑われるくらい、ずっと廊下を何周も何周もしてました。たぶん看護師さん的にはそんなにやらんでええでって感じだったと思いますけど(笑)。
──まさに「歩いとう」ですね。
はい、歩いてました(笑)。最初にペンを持ったときは、すごく怖かったですけどね。描けるのか、っていう。もちろんめまいしながらだし、すっごいゆっくりだったんですけど、でもゆっくりでも、同じだけの絵は描ける、やれる、と思って。
──2話目の16ページ以降からですよね。本当に、全然変わらないです。
絵が描けなかったらせめてネームだけでも、と思ってました。何がなんでもやろうと思ってたから。最終巻で乱さんが言った言葉で「右手がダメなら左手で 手がダメなら 足ででも 口ででも 絵を描き続ける」ってありますけど、本当にそんな気持ちだったんです。だってマンガが好きだから!!
──ひしひしと伝わってきます。倒れてしまった絵描きの乱さんが、病院で言ったセリフですね。「あるいとう」を描いている間、本当にいろんなことがあったと思うのですが、ななじさんにとってどんな作品になりましたか?
自分の作品って、どれも全部子供みたいな感じなんです。どれが上で、どれが下とかもなくて。「あるいとう」は、ちょっと難しい子でしたね。手のかかる子でした。でも、この子も宝物です。
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- 第1回 河原和音
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- 第3回 神尾葉子
- 第4回 中原アヤ
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- 第6回 あいだ夏波
- 第7回 やまもり三香
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- 第12回 椎名軽穂
- 第13回 小村あゆみ
- 第14回 いくえみ綾
- 第15回 ななじ眺
- 第16回 八田鮎子
- 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
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ななじ眺(ナナジナガム)
2月19日生まれ。兵庫県在住。マーガレット(集英社)にて19歳でデビュー。2000年より同誌にて連載された「パフェちっく!」(全22巻)は、台湾でドラマ化も果たした。2007年からは「コイバナ!―恋せよ花火―」(全10巻)を連載。2011年より神戸北野を舞台にした「あるいとう」を連載する。そのほか東日本大震災チャリティーマンガ本「PARTY!」を主宰したり、出身地である兵庫県加西市の風土記「根日女伝承」をテーマにしたマンガ「ねひめのとき」を執筆したりと、多方面で活躍中。2015年よりマーガレットにて「ふつうの恋子ちゃん」を連載中。
2016年1月22日更新