コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第15回 ななじ眺「あるいとう」「パフェちっく!」
手癖では描けないマンガへの挑戦
神戸北野を舞台に、主人公・くこの成長を描く「あるいとう」が、ついに完結。最終11巻が11月25日に発売された。これまで「パフェちっく!」や「コイバナ!―恋せよ花火―」など、ライトな読み味の王道ラブコメを描いてきたななじ眺が、悩みを抱える女の子の人間ドラマを描いた意欲作だ。
完結を機にコミックナタリーは、ななじにインタビューを実施。自身が「アラフォーの挑戦」と話す「あるいとう」への思いや、執筆中に起きたさまざまな出来事について聞くとともに、完結から2カ月、早くもマーガレット2016年1号(集英社)にてスタートした新連載「ふつうの恋子ちゃん」についても語ってもらった。
取材・文 / 坂本恵
だって、私も王道好きですからね!
──「あるいとう」の連載、おつかれさまでした。まずは連載を終えられたお気持ちを伺えますか。
テーマがすごく重かったし、自分で選んだ道とはいえ、いろいろつらかったので、楽にはなりました。
──荷物が1個降りた感じなんですね。「あるいとう」は、「強く朱(あか)るくたくましく」生きようとする主人公・くこが、自身のことや人間関係に悩みながら成長していくという物語でした。ななじさん自身、悩まれたことも、いろいろとあったんでしょうか。
こんな重いテーマを、私が描けるのかなって。描きたいって思っていたのに、本当に描けるのかなってずっと思いながら描いてきました。言っちゃうと、売れる内容じゃないというか、読者さんを選ぶだろうなというのもわかっていたので……。生活、大丈夫かなって(笑)。でも旦那も「今は好きなことやりなさい」って言ってくれたので。
──ヒット作があると、好きなことにチャレンジしようという気持ちも芽生えてくるものなんでしょうか。
「パフェちっく!」は王道のラブコメで、その後に描いた「コイバナ!」も割と王道だったので、そろそろ違うものを、という気持ちもあったんです。まあ王道とは言っても、「パフェ」だったら壱の過去の女性である伊織が出てきたり、「コイバナ!」だと佐々っていう男の子が実はバイだったり、単純に明るいだけではないお話も挟んではきたんですけど。そっちをもっと描きたくなって、王道をちょっとお休みしてもいいかなという気持ちはあったんです。手癖で描いてしまっている自分に気が付いてしまったこともあって。こんなシーンだったら、まずハッとした顔のアップがあって、目のアップがあって、とか。
──それってまさに、「あるいとう」に出てくる「衣舞んせき」ですね。少女マンガが大好きな衣舞(いぶ)が、くこの恋愛を王道の恋愛マンガのパターンに重ねあわせて分析し解説してくれる、というメタ的なネタですが。
そうそう、そんな感じです。ちょっと引いたロングがあって、アップがきたら「このパターンは……」って衣舞が解説する。そういうのを手癖で描いちゃってることに気が付いて、よくないなあっていう気持ちもあって、この「衣舞んせき」は自分への戒めとして描いてましたね。
──すごいテクニックだなと思いました。
まあ、あとはミスリードを誘うというんですかね。「衣舞がこう言ってるんだから、違う展開になるんじゃないの」とか、逆に「今まで衣舞の言ってることが当たってるから、やっぱりそうなるのかな」とか、読者さんにそう思わせるような存在でもありました。
──王道パターンを分析しつつも、衣舞が王道を否定していないのがいいと思いました。「王道かー」と言いつつ、そこに愛があるというか。
だって、私も王道好きですからね!(笑)
「30越えたら好きなの描けばいい」って
──でも王道ラブコメは少しお休みして、シリアスめのお話を描きたいというお気持ちがあった。
そうですね、少し重い、しっとりしたものを描きたくなった。それは「あるいとう」の前に描いた「せんぱい」っていう読み切り(「あるいとう」3巻収録)からなんですけど(参照:「コイバナ!」ななじ眺の新作読み切り「せんぱい」掲載)。これがまあ、見事にアンケートの結果が悪かったんですね(笑)。恋が叶うわけでもなく、読み味がすっきりしているわけでもないし。
──でも、こういう作品が好きという読者さんもいっぱいいらっしゃると思います。
ハマった人にはハマったらしく、Twitterで感想を書いてくださった方もいらっしゃったし、作家仲間からも感想が来たりしました。これは、手癖では絶対に描けなかったものなので、自分の中で大事な作品ですね。あと担当さんから、「30越えたら好きなの描けばいい」って言われたのも大きかったです。
──「あるいとう」はマーガレットに掲載されている作品の中では大人っぽい作品だったと思うんですが、読者層のことは考えましたか?
マーガレットに載せてもらってるんだから、マーガレット読者さんのウケとかも考えなきゃとは思いつつ、でもそれを考えてたら「あるいとう」じゃなくなるし、とか結構悩みましたね。「あるいとう」って小難しいんですよね(笑)。そんなキャピって感じのときめきシーンもそんなにないし。だから最後までずっと葛藤はありました。でも、担当さんが「それはもう考えなくていいよ」っておっしゃってくれて。
──実際、読者の幅は広がったんでしょうか。
男性の読者さんが増えましたね。それまではほとんど女子で、たまに彼女のを借りて読んだっていう男の子はちらほらいたんですけど。「あるいとう」は、男女問わず、全国各地からわざわざ神戸でのイベントに来てくださる方もいらっしゃって。ありがたいですね。
──「あるいとう」の舞台は神戸でしたね。タイトルも神戸の言葉で「歩いている」の意味でした。
もう散々言われましたよ、「伊藤さんはどこに出てくるの?」って(笑)。
──ははは(笑)。「ある伊藤」ですか。
でも実は、伊藤さん出てくるんですよ(笑)。授(さずく)の苗字が伊藤なんです。物語の終盤、授がライブに出るときに、ライブハウスの前に名前が書いてある看板が立てかけられてるんですけど、それを描くときに「そう言えば授の苗字って決めてなかったなあ」と思いついて。これだけ「ある伊藤さんの話」みたいに言われてるし、「あるいとう」はくこだけじゃなくて授の話でもあるし、じゃあ伊藤にしとこうって(笑)。
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ななじ眺(ナナジナガム)
2月19日生まれ。兵庫県在住。マーガレット(集英社)にて19歳でデビュー。2000年より同誌にて連載された「パフェちっく!」(全22巻)は、台湾でドラマ化も果たした。2007年からは「コイバナ!―恋せよ花火―」(全10巻)を連載。2011年より神戸北野を舞台にした「あるいとう」を連載する。そのほか東日本大震災チャリティーマンガ本「PARTY!」を主宰したり、出身地である兵庫県加西市の風土記「根日女伝承」をテーマにしたマンガ「ねひめのとき」を執筆したりと、多方面で活躍中。2015年よりマーガレットにて「ふつうの恋子ちゃん」を連載中。
2016年1月22日更新