コミックナタリー Power Push -「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」

原作サイドからはどう見えた? 枢やな担当編集が語る「生執事」

古川さんのセバスチャンはアニメより原作に近い

──今回のミュージカルで、特に原作のイメージ通りだというキャストさんはいらっしゃいましたか?

古川雄大演じるセバスチャン。

「原作の」という言い方をすると、セバスチャン役の古川雄大さんが一番イメージに近いですね。これはちょっと前置きが難しいんですけど、「黒執事」ってアニメ化を仕掛ける時期が、原作が一般的に溜まると言われているタイミングよりも相当早かったんです。なのでアニメにおけるセバスチャンを元だと思っている人、マンガのセバスチャンが元だと思っている人が半々くらいなんですよ。そういう意味で、アニメの情報を抜いた原作のセバスチャンに一番近いアプローチをしていたのは、古川さんかなと思います。

──アニメよりも、原作のセバスチャンに近いと。逆に、松下優也さんのセバスチャンはどうでしたか?

舞台第1弾が上演されたのは2009年、まだお客さんが2.5次元というものに慣れていない時期でした。アニメが大ヒットしていましたし、舞台スタッフさんたちには、「キャラが違う」というガッカリ感を絶対に生まないようにという意識が高かったんです。マンガになくてアニメにある要素、喋り方や声質は、アニメセバスのものを徹底的に松下さんの中に入れてもらう、という指示があったと記憶しています。それがすごくいい方向に出て、「黒執事」のミュージカルは原作・アニメファン両方の期待を裏切らないというところでものすごく評判が高かった。

──アニメのセバスチャンをしっかりと踏襲されていたんですね。

熊剛氏

ええ。ところが古川さんのセバスチャンは、アプローチが違ったんですよね。初代のトレースではなかった。枢さんの言葉を借りれば、「私が大事にしてたセバスチャンの人外感、獣感を随所に匂わせてくれた」。誤解を恐れずに言うと、4足歩行をしているところさえ想像できそうだったんです。それはまさにアニメ化される前、「赤執事編」のときに描いていたセバスチャンを思い出すくらい、というか。特に冒頭、召喚されてシエルの前に現れるときなんて、「漏れる獣の息」と言うんですかね。「ハァー……」と言いながら古川さん演じるセバスチャンが現れるんです。ものすごい新鮮だったんですけど、枢さんが「新鮮じゃない、そういえばこうだった」と。昨年松下さんも演じられた「地に燃えるリコリス」と脚本は同じなのに、こうも違うのかと驚きました。どっちがいいというわけではなくて、とにかくハッとさせられましたね。

佐々木さんのドルイット子爵は、新たな領域に行こうとしている(笑)

──ほかのキャラクターについてもお伺いしたいのですが、シエルは熊さんから見ていかがでしたか?

福崎那由他演じるシエル・ファントムハイヴ。

「黒執事」のミュージカルで一番の醍醐味だなと思うのは、やはりシエルというキャラクターです。ちょっと時間が経つと大きく育ってしまう10代前半という年齢で、しっかり演技ができる小さな美少年を、舞台スケジュールに合わせて見つけ出して、貴重な1年間をシエルのために捧げていただく。それってものすごくレアじゃないですか。

──シエル役の福崎那由他さんは14歳です。

等身大の幼い子供を演じられる子役はいっぱいいますけど、シエルはストーリーの中心になるキャラクターなわけです。かつ性格も大人で、一番豪華な服を着て。それをこれくらいの年齢の男の子に演じてもらうって、相当難しいことですからね。かつ福崎さんは1回目の「地に燃えるリコリス」にも出ていますが、1回目と2回目で同じ人間なのか、というくらい違う。

──1年で、とても変わりましたね。

ビジュアル的なかわいさと存在感でお客さんを魅了していた方が、1年経つと今度は役者としてのテクニックで魅了するという。声質も全然変わりましたし、そういうのも含めて、舞台を追っている人の楽しみ方は倍になりますよね。僕も過去のシエルを演じた方々の活躍をテレビや映画で見たりすると、1ミクロンもそうじゃないけど「俺が育てた」って勝手に思っちゃいますもん(笑)。西井幸人さん(2010年の「ミュージカル黒執事 -The Most Beautiful DEATH in The World- 千の魂と堕ちた死神」に出演)も、映画館で見るたびに「僕の西井くん」って心の中では思ってますから(笑)。

佐々木喜英演じるドルイット子爵。

──ははは(笑)。あと佐々木喜英さん演じるドルイット子爵は、なかなか強烈なキャラクターでした。子爵は「豪華客船編」でだんだんと激しくなっていきますけど、原作の「赤執事編」では、まだここまで濃いキャラクターではなかったですよね。

ドルイット子爵は、メディアミックスで進化したキャラクターなんです。「赤執事編」では登場シーンも少ないですし。カッコいい王道なキャラデザインをグレルに使わなかったので、枢さんには「一番正統派なイケメンのビジュアルと服をこのキャラに使ってほしい」とお願いしたんですよ。で、当時アニメのアフレコに行ったら、テストで「とりあえず自分の思ってるドルイット子爵をやってみて」と言われた鈴木達央さんが、超ハイテンションフルマックスで演じられていて(笑)。僕たちもあんなに高い声だと思ってなかったんですよ。

──それを見られた枢さんは、どんな反応だったんでしょうか?

普通は「そのキャラ、そんなに声高くない設定なのでもうちょっと低く」とか、方向性を指示するのが原作者チェックなんですけど、枢さんは「面白過ぎる!だったらその方向で、行けるところまで行ってください」とお願いして。逆に原作のほうが感化されて、ドルイット子爵は準レギュラーキャラに昇格したんですよね。で、舞台の役者さんたちもアニメ版を取り入れて、近づけてくださっているんです。それを突き詰めていった結果、佐々木さんはどこか違う領域に行こうとしているという(笑)。

Contents Index
コミックナタリー 枢やな担当編集・熊剛氏インタビュー
ステージナタリー セバスチャン役・古川雄大インタビュー
「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」発売中 / アニプレックス
「ミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-」
[Blu-ray+DVD] 8640円 / ANSX-10025
[DVD2枚組] 7560円 / ANSB-10025
本編ディスク(BD/DVD)

東京公演の模様を収録(約160分)

特典映像ディスク(DVD)

稽古場から中国公演まで密着したドキュメント映像/突撃キャストインタビュー企画「アバーラインとハンクスの事件簿」を収録(約135分)

枢やな「黒執事(23)」 / 2016年5月27日発売 / 607円 / スクウェア・エニックス
枢やな「黒執事(23)」

ロンドンで大流行りのミュージックホールに、カルト教団の疑いがかかる。ホールに潜入したセバスチャンとシエルは、名門寄宿学校を追われた元監督生と、飄々とした占い師・ブラバットと出会う。ブラバットはセバスチャンを一目見た瞬間、「人間では無い」と言い当てる…! 大ヒット執事コミック、新章「青の教団編」スタート!!

枢やな(トボソヤナ)
枢やな

1984年1月24日埼玉県生まれ。2004年月刊Gファンタジー(スクウェア・エニックス)にて「9th」でデビュー。2005年、同誌にて「Rust Blaster」を初連載する。2006年からは「黒執事」を連載し注目を集め、2007年にドラマCD化、2008年にテレビアニメ化、2009年に舞台化、2014年に実写映画化を果たした。

熊剛(クマタケシ)

2001年、エニックス(現:スクウェア・エニックス)に入社。同年より月刊「Gファンタジー」編集部に配属される。これまでの主な担当作品に「デュラララ!!」「魔法科高校の劣等生」「ZOMBIE-LOAN」、テレビアニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」(副シリーズ構成として参加)がある。


2016年5月18日更新