なかじ有紀が画業40周年を迎えた。1982年のデビュー以降、自身が中学から大学まで通った神戸を舞台に和気藹々とした男女の青春劇を描いてきたなかじ。初期の代表作「小山荘のきらわれ者」、料理人を目指す少年少女のグルメラブコメディ「ハッスルで行こう」、同じ青年を好きになった男女の「ビーナスは片想い」、最新作「xxxな関係」など、40年の長きにわたりかわいい絵柄と生き生きとしたキャラクターでファンを魅了している。
コミックナタリーでは、画業40周年を記念してなかじにインタビューを実施。青春群像劇の名手に、デビューから現在までを語ってもらった。特集の最後にはなかじの年表も記載しているので、インタビューと併せてチェックしてほしい。
取材・文 / 三木美波
大学生活とマンガ家の二足の草鞋「体力はありました!」
──1982年の「聖一郎・愛・哀・eye」でのデビューから40周年、おめでとうございます!
ありがとうございます! 昨年末、担当さんに言われるまで40周年だと気付いておらず……。もうそんなになるんですね、自分でもびっくりです。
──デビュー時に高校生だったなかじさんですが、いつ頃からマンガを描き始めたんですか?
小6のときです。ノートに毎日のように描いてましたよ、本当に大量に(笑)。今もこっそりそのノートは持っているんですが、門外不出です! 「積荷を燃やして」と遺言しようと思ってます。
──「風の谷のナウシカ」(笑)。巨神兵レベルの危険度なんですね。マンガ家を志したのは?
中学3年生のときで、初投稿もこの頃ですね。デビュー以降も高校時代は描きたくてしょうがなくて、お仕事以外にもこっそりノートに描いて、クラスメイトの皆さんに読んでもらっていました。そこで生まれたのが「学生の領分」の匡(たすく)くん。当時はハーフではなく外国人という設定でした。
──「学生の領分」はなかじさんのLaLa本誌デビュー作ですね。確か初めての単行本も「学生の領分」?
そうです。マンガ家としての40年間はいろいろありましたが、一番思い出深い出来事はやはり初めて店頭に自分の単行本が並んだとき。本屋さんに本当にあるのか、覗きに行きました。
──「学生の領分」の隔月連載を経て、初期の代表作「小山荘のきらわれ者」がスタートします。神戸の下宿を舞台にした「小山荘のきらわれ者」は、元気で前向きな学生たちの恋と青春を描くストーリーで、今に続くなかじ有紀作品の真髄がすでに現れていると思いました。多くのキャラクターの恋模様を描く楽しさはどこにあるんでしょうか?
主人公の周りにたくさんキャラクターがいれば、その人物たちがどうやって関わっていくのか? バックボーンは? 性格は?と妄想しやすいんです。そうやって話を広げていけるのが楽しくて。
──なるほど。話を広げるといえば、物語の初期段階では主人公の相手役にほかに好きな人だったり淡い憧れを抱く人だったりがいる展開も、なかじさんの描く群像劇に深みを出していると感じていまして。「小山荘のきらわれ者」のヒロイン・安古(あこ)も初めは奥田先生に恋をしていましたし、「ハッスルで行こう」のヒロイン・彩も夏己に憧れを抱いていました。それに夏己は彩の親友・千帆を憎からず思っている、など恋の矢印がいろいろな方向に出ていて。こういった展開を描く理由は?
なんとなくですが……。好きな人がいるほうが、どんな人物か読者にわかっていただきやすいと思うんです。そのキャラクターの歴史が見えるので。あと、恋は障害があったほうが燃えるので(笑)。
──確かに(笑)。「小山荘のきらわれ者」の連載時、なかじさんは大学生だったと伺いました。大学生活とマンガ家の二足の草鞋を履いての数年間、どんな生活だったんですか? かなり体力が必要だと思うのですが。
体力はありましたね! 大学でサークル活動までして、学生生活を満喫していました。3回生のとき、ゼミの発表が私で、アシスタントさんが入っている修羅場にもかかわらず授業で抜けなければならなかったときは大変でしたね。しかもその後アシさんも授業で抜けるという……。
実家のイタリアンでも取材「ハッスルで行こう」
──若い現場だったんですね。1988年に最終回を迎えた「小山荘のきらわれ者」ですが、2014年に約26年ぶりの続編「リターンズ」として帰ってきました。続編が始まったきっかけを教えてください。
当時の担当さんがお話を持ってきてくださったんです。びっくりしたけどうれしかったです。
──彰吾や成介のその後を見られて、ファンも懐かしかったと思います。話を戻しますと、「小山荘のきらわれ者」完結後、「カラフルBOX」「RED」「隣のDOUBLE」などが始まりました。「隣のDOUBLE」はキリがいいところで主人公が愛久美から双子の藤也と桜太に変わりましたよね。タイトルも「隣はSCRAMBLE」になって。
当時のLaLaは“毎月新連載”的な謳い文句があったんです。なので「隣のDOUBLE」を再スタートさせるときも「隣のDOUBLE II」ではなく、新しいタイトルにしようと。そしてどうせなら主人公を双子に変えてしまおう!と。
──当時の雑誌の方針だったんですね。その後「ハッスルで行こう」が始まります。私、ヴィタメール(ベルギー王室御用達のチョコレートブランド)を初めて見たときに「『ハッスルで行こう』に出てきたお菓子だ!」とうれしくなって、すぐアルバイトで働き始めた思い出があって。
えー! うれしい! ヴィタメール、美味しいですよね。グラサージュ(表面に艶やかな光沢を出すチョコレートコーティング)を初めて食べたのもヴィタメールだったなあ……。
──「ハッスルで行こう」は料理の知識だとか、調理学校の描写がとてもしっかりしていて。そういった土台があるからこそ、コックになりたい少年の成長ストーリーがより引き立つように思いました。なかじさんはご実家がイタリアンレストランを営んでいるということですが、取材はご実家で?
はい。「ハッスルで行こう」は我が家を含む3店舗に取材させていただいたんです。それから調理師学校に体験入学したり、コックさんのお友達やうちの父・弟にたびたび協力してもらったり。体験入学は楽しくて、チャンスがあれば参加してましたね。
──「京*かのこ」は和菓子がテーマでしたが、それもやはり取材を?
京都で2店舗取材しました。どちらのお店も美味しくて美味しくて……!
──あはは(笑)。取材に裏打ちされた描写があることで、作品に説得力が増しますよね。あと、なかじさんの作品は登場キャラクターの服装がとてもかわいく、いろんな作品にファッションモデルが出てきたりと、ファッションの描写にも気合いを感じます。登場キャラクターの服装はどのように決めていますか?
若い頃は、自分の持ってる服や着たい服でした。次にいろんな雑誌からピックアップしてコーディネートしてました。最近はWebで探すことが多いです。マンガだと色や質感が伝えづらいので、形がかわいい服を選ぶのがポイントですね。
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何かに抗ってジタバタしてる男の子が好き