ガールズバンド・MyGO!!!!!(マイゴ)を新たなメインキャラクターに据えたアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」。メディアミックスプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」にとって新しい挑戦となった同作が、去る9月14日に全13話の放送を終えた。
コミックナタリーでは「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の特集を、全3回にわたって展開。第7話までの内容をもとに見どころを掘り下げた第1回のコラム、「BanG Dream!」シリーズのシリーズ構成・脚本を務める綾奈ゆにこと、「響け!ユーフォニアム」シリーズで知られる武田綾乃の対談を掲載した第2回に続き、第3回では第8話以降の内容も踏まえながら、作品の魅力をご紹介したい。
文 / 杉山仁
バリエーション豊かな音楽と赤裸々な歌詞が融合し、心の内をさらけ出す
まずは改めて、これまでの「BanG Dream!」シリーズとの違いを簡単におさらいしておこう。「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」は、ボーカルの高松燈、ギターの千早愛音、要楽奈、ベースの長崎そよ、ドラムの椎名立希からなるガールズバンド・MyGO!!!!!(マイゴ)の活動を描いたアニメ作品。メンバーはそれぞれ羽丘女子学園や月ノ森女子学園、花咲川女子学園といった、シリーズに登場したさまざまなバンドメンバーが在籍する学校に通っており、おなじみのライブハウス・CiRCLEの系列店として今年スマホ向けゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」に登場したRiNGを拠点に活動している。RiNGは、現在Poppin'Partyの戸山香澄たちがバイトをしている場所であり、シリーズのさまざまなバンドも利用するため、作品の世界線はこれまでの「BanG Dream!」シリーズの延長線上にある。
とはいえ、この作品がこれまでと大きく異なるのは、「キラキラドキドキしていない」ことだろう。シリーズのファンならご存知の通り、「キラキラドキドキ」とは、Poppin'Partyの香澄がバンドに感じた憧れや魅力を表現した言葉であり、「BanG Dream!」プロジェクト開始当初から親しまれてきた、まさにシリーズのアイデンティティとも言える言葉だ。つまり、「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」は、従来の「BanG Dream!」にはない要素を追究した作品だということ。同作ではこれまで以上にキャラクターの心の内側をリアルに描くことで、少女たちの葛藤や人間模様、その中で浮かぶバンド活動の楽しさを伝える作品に仕上げられている。
もちろん、「キラキラドキドキしていない」からといって、ただ鬱々としているわけではない。各メンバーが自分の居場所を求めて迷う青春ならではの風景や、その心の動きを細かく掘り下げる一方で、バンドや音楽の楽しさを伝えるシーンも数多く描かれている。迷ったり間違ったりするからこそ美しい、青春の機微がこれまで以上に丁寧に描写されている。
こうした作品の雰囲気は、映像 / カメラワークやMyGO!!!!!の音楽性などにも表れている。たとえば、第3話の冒頭からはじまるボーカル・燈の回想シーンでは、すべてのカットが燈の一人称視点で表現されており、まるで燈の思い出を追体験するような工夫がされている。そうすることで、MyGO!!!!!のメンバー数人にとっての前身バンドであり、燈がバンドの楽しさとつらさの両方をはじめて知ることになったCRYCHIC(クライシック)にまつわる出来事を、視聴者も臨場感のあるカメラワークで体験することができるような効果を生んでいる。俯きがちだった当時の燈の様子を、会話をしながらも線路を見つめる目線の動きなどで表現したシーンは、後に変化していくことになる彼女の心の様子を魅力的な形で伝えてくれるようだ。
また、音楽面でも、MyGO!!!!!の楽曲にはこれまでの「BanG Dream!」シリーズにはなかった新しい要素が加えられている。シリーズの楽曲は最初期からElements Gardenが担当しており、バンドごとにある程度クリエイターを固定したチーム制を敷くことで、それぞれに異なる音楽性が追究されてきた。例えばPoppin'Partyならば、シリーズ全体の雰囲気ともつながるポップなガールズバンドのイメージ。ギター2本とベース、ドラム、キーボードという楽器編成も、そうしたバンドの雰囲気に合わせて選ばれている。
一方で、Roseliaはゴシック風のテクニカルなハードロック、Afterglowはややパンキッシュな要素も加えた疾走感のあるロックンロールを追究。王道アイドルポップ風のPastel*Palettes、DJ担当を加えて多幸感いっぱいのサウンドを鳴らすハロー、ハッピーワールド!、EDMの要素を加えたヘヴィロックを鳴らすRAISE A SUILEN、バイオリンを加えたロックサウンドが特徴的なMorfonicaなど、すべてのバンドの音楽性が差別化されている。
MyGO!!!!!の場合は、ボーカルとギター2本、ベース、ドラムという非常にシンプルな楽器構成で、下北沢などを筆頭にした日本のロックバンドシーンを連想させるような音楽性になっているのが興味深い。1st Singleの「迷星叫(まよいうた)」やアニメのオープニングテーマ「壱雫空(ひとしずく)」などはまさにMyGO!!!!!の音楽性を代表するような楽曲で、2本のギターとリズム隊が絡み合い、そこに印象的な声質を持った羊宮妃那演じる燈の歌声が1つになって疾走していく様子が心地いい。
一方で、アコースティックで落ち着いたアニメのエンディングテーマの「栞」、ダンサブルな四つ打ちギターロック「影色舞(シルエットダンス)」、第10話の挿入歌「詩超絆(うたことば)」などのポエトリーリーディングを加えた楽曲もあり、バリエーションが幅広い。こうしたサウンドが、喜びと悲しみの間を漂うような赤裸々な歌詞と合わさることで、MyGO!!!!!らしい心の内をさらけ出すような雰囲気を生んでいる。
また、燈、そよ、立希の前身バンド・CRYCHICの楽曲でもある「春日影」は、作中でCRYCHICとMyGO!!!!!の両方のバージョンで演奏されており、それぞれ歌い方も微妙に異なっている。映像 / 音楽面ともに細部へのこだわりが、作品全体を魅力的にしているように思える。
問題を乗り越えふたたびステージに立つ! 8話以降のストーリー
アニメの後半第8話以降は、紆余曲折ありながらも初ライブを乗り越えた5人が、ふたたびバラバラになるところから物語がはじまる。初ライブでアドリブ的に「春日影」を演奏して無事会場を盛り上げた5人は、ライブを観るため会場に足を運んでいたCRYCHICの発起人・豊川祥子を傷つけてしまう。この出来事をきっかけに、そよがバンドから距離を置くようになり、5人の活動は頓挫することになる。後半の物語では、そんな日々の中でメンバーそれぞれが自分自身を見つめ直し、ふたたびバンドとして再生していく様子が描かれていく。
中でも印象的なのが、第10話「ずっと迷子」だ。この放送回は、「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の特徴であるこれまで以上に踏み込んだ心理描写の魅力が全13話中屈指の深さで伝わってくる回。バンドがバラバラになってしまう中、後悔を続ける燈はプラネタリウムでアイドルユニット・sumimiのギターの初華と出会う。「歌って伝わる気がするよね。上手に言えないことも、言葉以上に、気持ちが」という彼女の言葉に背中を押され、燈は1人でもライブをすることを決意。音楽に改めて真剣に向き合うようになる。そして、そんな彼女が改めて、自身の思いをメンバーたちにも真正面からぶつけることで、壊れかけていたバンドがふたたび1つになっていく──。バンド再生への道のりが、非常に重いトーンで描かれている。中でも一緒にライブをやることを一度は断った愛音を、学校の屋上まで追いかけて「いっしょに迷子になろう」と伝えるシーンは、傷付くのを怖がっていた燈が、自分の気持ちを誰かにはっきりと伝えた瞬間と言える。ふたたびステージ上に集まったメンバーたちが泣きながら演奏するライブシーンも、「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」ならではのものだった。
もう1つ象徴的なのは、第11話で描かれる、バンド名を「迷子のバンド」に決める瞬間だろう。この11話では、これまで謎に包まれた存在でもあった楽奈が、実はシリーズでお馴染みの閉店してしまったライブハウス・SPACEのオーナーの孫娘であることが明かされ、彼女もほかの4人と同様、失った居場所を探している1人であることがわかる。
また、愛音がそよに「私、もうそよさんと呼ばないから」と伝えて「そよりん」と呼びはじめるなど、メンバー同士の距離がさらに縮まっていく回でもある。その最たる例と言えるのが、メンバーの家に全員で泊まり込んで新曲を作るという一連のお泊まり会だ。5人は新曲の制作作業を進めつつ、プライベートな時間を共有することで、バンドとしてより絆を深めていく。CRYCHICの影を追っていたそよと立希がお互いの本音を腹を割って伝え合うなど、クライマックスに向けてバンドがいよいよ本格的に1つになっていく様子が印象深い。
そんな中、衣装制作と新曲制作のためにふたたび集まったメンバーに対し、燈が言った「傷つかずに一生(バンドやるの)は、無理。(略)それでも、みんなと一生バンドやりたい。何回転んでも、迷っても」という言葉をきっかけに、「迷子のバンド」がひとまずのバンド名に決定した。
それぞれに自分の居場所を求めて悩んでいたメンバーたちは、まさに迷子というべき存在で、バンド活動を通じて、少しずつ成長していく。「キラキラドキドキ」への憧れとは違う、等身大な歩みが描かれる「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」を象徴するようなシーンだった。
そうして迎えた第12話では、いよいよMyGO!!!!!としてライブに出演し、「迷星叫」や「迷路日々(メロディ)」、第7話でも歌った「碧天伴走(へきてんばんそう)」を披露。正面をまっすぐ見つめて堂々と歌う燈を筆頭に、メンバー全員が臆することのない演奏で会場を湧かせていく。過去を乗り越えつつ、一緒に新しい一歩を踏み出していくような雰囲気が印象的なシーンだった。「迷路日々」でロングトーンに合わせてカメラが会場に飛び込んでいくような演出も、ライブの臨場感を伝えるようだ。
燈が観客に向けて叫んだ「迷子でも進め!!」という言葉をきっかけにして、ライブ終了後には、いよいよバンド名がMyGO!!!!!に決定。メンバー全員の気持ちをそのまま代弁するかのような言葉に、5人分の「!」を加えた彼女たちだけのバンド名が誕生した。
また、最終話となる第13話には、祥子が結成した謎の覆面バンド・Ave Mujicaも登場。ラウドでゴシック風のヘヴィミュージックを演奏するバンドとして、シリーズにまた新しい魅力を加えている。Ave Mujicaはアニメに先がけてリアルバンドとしても活動をはじめており、今後の展開が非常に気になる最終話となった。
「キラキラドキドキ」じゃない。新しい「BanG Dream!」の誕生
第13話までの全編を通して感じられたのは、「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」という作品が、人気シリーズとなって久しい「BanG Dream!」において新しい可能性を切り開くような作品になっているということ。これまでの作品ではあまり焦点が当たることのなかったキャラクターたちの心の奥深くを描き、悩んだり葛藤したりする姿を曝け出すことで、また違った角度から「バンド」の魅力を伝えてくれる。こういった雰囲気は、シリーズのこれまでとはいい意味でまったく異なっている。「キラキラドキドキ」を描くのではなく、「悩みや葛藤まですべて」を描写することで、シリーズにまた新しい魅力を加えてくれるのが、「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」という作品なのだ。
また、さまざまなメディアミックス展開が行われている「BanG Dream!」らしく、MyGO!!!!!の活躍はアニメだけにとどまらない。以前から行われていたキャスト陣によるリアルライブでのライブパフォーマンス、今回のアニメ作品などに続いて、9月16日からはリズム&アドベンチャーゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」にも参戦。MyGO!!!!!のメンバーたちがプレイアブルキャラクターとしてゲーム内に登場し、同タイミングでオリジナル楽曲の「影色舞」「迷星叫」(3Dライブモード追加)、「歌いましょう鳴らしましょう」(イベント新楽曲)と、カバー曲「swim」「猛独が襲う」がプレイ可能となる。MyGO!!!!!の楽曲がラインナップに加わることで、「ガルパ」にも新たな魅力が加わっていくはずだ。