コミックナタリー PowerPush - 巴亮介「ミュージアム」
女性も楽しめる!? サスペンスホラー 目利きの書店員が読みどころを解説
蛙男が「私刑」と称し猟奇殺人を繰り返す話題作「ミュージアム」が、本日4月4日に発売された3巻にて完結を迎えた。単行本ではヤングマガジン(講談社)の連載分から、最終話に15ページを加筆している。
コミックナタリーでは2巻発売時に引き続き、再び特集記事を展開。サスペンスホラーや猟奇殺人ものを敬遠しがちな女性読者にも楽しんでいただけるよう、これまで「ミュージアム」をプッシュしてきた書店員の座談会をセッティングし、女性視点ならではの読みどころを聞いた。
取材・文/岸野恵加
女性ならではの読みどころ談義!書店員座談会
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コミック・ラノベ・雑誌統括。勤続年数14年。マンガはジャンルを問わず何でも読みます。人と話すことが大好き。
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少年・青年系コミック担当。勤続年数10年。ミステリー、サスペンス系を好んで読みます。
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コミック担当主任。書店歴7年目。少年マンガから女性コミックまで浅く広く読んでいます。好きな作家は荒木飛呂彦、羽海野チカ、幸村誠、鳥飼茜など。
グロくてもストーリーの面白さに引っ張られテンポよく読める
──今日は「ミュージアム」3巻の発売を記念して、女性書店員の皆さんにお集まりいただきました。ヤンマガ連載作、そしてグロテスクな描写も多いということで、なかなか女性が手に取るにはハードルが高い作品かなとも思うのですが。
八尾 私は普段はあんまりこういう血まみれのは読まないんです。「母の痛みを知りましょうの刑」なんてもう、読んでて痛くて痛くて……。
遠藤 耳が飛ばされた時点で「ぎゃー痛い!」って叫びたくなりましたね。
鎌倉 蛙男が感情を込めるんじゃなくて淡々と実行してるのが本当に怖い。自分だったら意識保てる自信ないですもん。耳と鼻が切断されちゃったのに「やめてくれ!」とか言う余裕なくないですか?
八尾 確かに(笑)。でも描写のグロさに目を背けたくなりつつも、それよりストーリーの面白さに引っ張られる自分がいましたね。謎が次々に明らかになって、テンポよく最後まで読めた気がしています。
鎌倉 うんうん。私はこの作品、小説だったら逆に読めなかっただろうなって思ったんですよ。例えば「母の痛みを知りましょうの刑」だったら、文章にすると「耳を切り落とし、『まだ足りない……』、次は鼻を切り落としたが『まだ足りない……』。あげくの果てにはのこぎりで頭を……」みたいになるんでしょうけど、考えただけでもう。
八尾 余計想像が膨らんじゃって無理かもしれないですね(笑)。
鎌倉 それがマンガだと、のこぎりで頭を切断するといっても直接的に断面は描写されてないし、「ずっと美しくの刑」の冷凍死体とかも、想像すると怖いけどビジュアル的にはわりとあっさり描かれてますよね。グロいといってもある程度オブラートに包まれてる。だからそれほど抵抗なく、ストーリー自体に集中できた気がします。
遠藤 グロテスクなものを見せることが目的ではないっていう、作者さんの意志が伝わってきますよね。
鎌倉 あと読む側の耐性もついてると思うんですね。10年前だったらまた全然違ったと思うんですけど。「進撃の巨人」がこれだけ売れる時代ですし、最近はマンガもグロい表現が当たり前にあるので。多少残虐であろうとも、普通に物語として受け止められるようになってるなって、読んでて思いました。
私刑のネーミングセンスがいい
遠藤 私は江戸川乱歩とかミステリーが好きなので、もともとそんなに残虐な表現に抵抗はないほうかもしれないです。「均等の愛の刑」とか、どうやって蛙男が1人で人間を真っ二つにしたのか気になっちゃいました。血も流れてないし。血抜き、どうやってやったんだろう。
鎌倉 “血抜き”ってミステリー用語ですか? さすがですね(笑)。この死体の入った箱を開けるシーン、同僚の「果物だったらわけてよね」っていうセリフとかリアルで、余計にゾッとしちゃいました。
遠藤 私刑のネーミングセンスもすごく独特で好きですね。「ドッグフードの刑」「母の痛みを知りましょうの刑」とか全部秀逸ですけど、一番笑っちゃったのは、占い師の人が殺された「針千本のーますの刑」。
八尾 笑っちゃったんですか?(笑)
遠藤 そうそう。「この人インチキ占い師だったんだ!」って(笑)。
八尾 ネーミングセンス、いいですよね。講談社さんから送られてきた店頭用のオリジナル販売台にも、私刑の名前がずらりとプリントされてて印象的でした。
遠藤 うちは幸いにもそれと一緒に複製原画がいただけたので、1巻と2巻を一緒に並べてます。売れ行きは安定していいですね。3巻が出たらもうひと押しできる手を何か考えたいなって思ってます。
八尾 うち(三省堂書店)のチェーンの他店なんですけど、蛙男のお面を紙粘土で作って飾ってる店舗がありました。すごいインパクトありましたよ。
鎌倉 へえー! うちは30~50代くらいの男性客が多いので、ヤンマガコミックスは比較的普段からよく動くんですが、「ミュージアム」2巻が出たばっかりの頃、在庫を切らしてしまってて。その間に「置いてますか?」ってお問い合わせを受けたのは、20代の女性だったんですよ。だから女性の方にもじわじわ支持が広がっていってるのかなと思います。
「アンフェア」に近い感覚を覚えた
八尾 私、初めて「ミュージアム」を読んだときに、なんだかドラマの「アンフェア」を観てるときに近い感覚を覚えたんです。芸術性を求めた殺人であったり、主人公を追い詰めていく様がすごく「アンフェア」に重なって。
遠藤 わかる気がします。「アンフェア」好きな女の人って多いですよね。
八尾 そうなんです、私もすごく好きで。だから「ミュージアム」も女性にウケるんじゃないかなと。警察組織にノーを突きつけられたりしながらも、正義を貫く主人公がいて、そこに付いていく後輩がいて……っていう図式も「アンフェア」に近い気がする。
鎌倉 「ミュージアム」の後輩の男の子、いいですよね! 殺害現場で吐いちゃうメガネの……。
遠藤 西野くん。
鎌倉 そう、弱いけど優しいし。危険を冒しても「何でも言って下さい」って先輩に資料持ってきたり。
八尾 「ザ・後輩」って感じ。犬みたいでカワイイ(笑)。間違っても蛙男は好きになれないですよね。この隙間から出てる歯が怖い……。
遠藤 うん、本当に気持ち悪い。
鎌倉 素顔がイケメンだったらまた全然違う、狂気のアーティスト的な印象になったんでしょうね。もったいないなあ(笑)。
あらすじ
悪魔の蛙男、絶望“最終刑”完遂!! 超戦慄猟奇サスペンスホラー、“殺しの美術館”、衝撃大完結ッ!!! 禁断の最終話を15ページ、緊急加筆ッ―――!! ヤンマガ連載時には見れなかった“悪魔の最終劇”を大解禁!! 巴亮介、単行本未収録“若BUTA”シリーズ!! 「僕らは親友と言う体で」総計80ページ、同時収録ッ!!!
巴亮介(ともえりょうすけ)
1983年12月6日生まれ。神奈川県横浜市出身。第61回ちばてつや賞ヤング部門において「GIRL AND KILLER─オンナと殺し屋─」で大賞受賞。2009年、ヤングマガジン53号(講談社)に同作が掲載されデビューを果たす。2013年7月より、同誌にて「ミュージアム」を連載。