コミックナタリー PowerPush - 巴亮介「ミュージアム」
絶望だらけのサスペンスホラー FROGMANが蛙男を考察
蛙のかぶりものをした奇妙な“蛙男”が、「私刑」と称し次々と猟奇殺人を起こしていくサスペンスホラー「ミュージアム」。ヤングマガジン(講談社)にて連載され、重厚な話運びもさることながら、「ドッグフードの刑」「母の痛みを知りましょうの刑」などのショッキングな描写も話題を呼んでいる。
コミックナタリーでは2巻発売を機に、「ミュージアム」の特集記事を展開。謎を呼ぶ殺人犯・蛙男のことを少しでも知るべく、蛙と言えばあの人、「秘密結社 鷹の爪」(以下「鷹の爪」)で知られるFROGMANを直撃した。全く作風が異なるからこその読み解き方から、蛙男についての考察までを聞くとともに、FROGMANに蛙男のイラストを描き下ろしてもらった。
取材・文・撮影/坂本恵
映画的、なおかつ小説的な作品だと感じました
──「ミュージアム」は蛙男と呼ばれる謎の人物が、次々と猟奇殺人を起こしていくというサスペンスでして、まさに蛙男の名を持つFROGMANさんにご登場いただいた次第です。
ああ、そういうことだったんですね。全く作風も違うから、なんで僕なんだろうと思ってました(笑)。だから最初はこの作品、コメディなのかなと思いましたよ。でも表紙がなんか怖いし、おかしいなと思って……。
──ギャグ作品を生み出してきたFROGMANさんが、真逆のサスペンスをどう読み解くのかというところもお伺いしていきたいです。
ええっと、読ませていただいて、すごく映画的で、なおかつ小説的だと感じました。実は僕、あんまり普段マンガ読まないんですよ。
──それは意外です。
マンガもアニメも実は疎いんです。それでもすんなり入っていけましたね。マンガって、最終的な着地点は決まっていても、途中行き当たりばったりだったり、構成がおざなりになっているものも多くありますよね。無理やりな設定で「実はこうでした」って展開するものとか。でも「ミュージアム」は伏線がちゃんと張られていて、しっかりした構成だなって感心しました。推理小説や刑事小説を読んでいるようでしたよ。あと先ほど話したように、やはり映画っぽい。巴さんも相当映画がお好きなんだろうなという気がします。
──FROGMANさんはサスペンスもお好きなんですか?
好きですよ。「クライング・ゲーム」とか「セブン」とか。自分で描こうとはあんまりしないですけどね。なんか不幸な人とか不幸な境遇みたいなものを描いてると、自分もだんだん鬱々してきちゃうので。いつかはそういうものも作りたいなとは思いますけどね。でもいま僕がやってるFlashアニメではちょっと作りづらいんで。
──「鷹の爪」の吉田くんが猟奇殺人するわけにはいかないですからね。
それ、何やってもギャグにしか見えない(笑)。
蛙は、脆弱さと凶悪さを兼ね備える生き物
──「ミュージアム」で惨劇の中心にいる蛙男は、強烈なキャラクターです。
またこの蛙男は、人物像がまだはっきり見えてないじゃないですか。これが「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターみたいな、本当に悪趣味のダークヒーローなのかどうなのかというところも気になる。憎みきれない人物なのかどうか……。
──まだ蛙男の内面的な事情は描かれていないですね。
そうなんですよね。悪いながらも魅力的な個性を発揮するといいなと思うんですけど、もしかしたら本当にただのろくでなしかもしれないですよね。ちらっと出てきた素顔が相当気持ち悪いんで、大丈夫かな……と不安に思ってるんですけど。でもこれまで周りの登場人物もすごく魅力的に描かれているんで、蛙男がどんなに面白い奴なのか、というのは期待ですね。
──ビジュアルもかなりインパクトがありますし。
蛙って不思議ですよね。すごく脆弱な部分と、凶悪な部分を持っているじゃないですか。最近はものすごい勢いで蛙の種が絶命してるんですよ。化学物質や病原菌にも弱かったりして、どんどん駆逐されていってる。でもその一方で、繁殖力が強かったり、ある虫にとってはこの上ない凶悪な生き物だったりしてね。この蛙男という犯人像も、紫外線アレルギーだったりする病弱な面があるかと思えば、殺人という残忍なこともする。そういう彼の性格も共通するところがあるよね。
──まさに蛙男が蛙の性質を持っている、と。
もともと蛙の持っている独特の気持ち悪さみたいなものもあるしね。この蛙男というキャラクターそのものが、この犯人像にすごく被っている、オーバーラップしているという気はします。
別に蛙、好きじゃないです
──FROGMANさんって、やはり蛙がお好きなんですか?
いや、別に、全然好きじゃないですよ。
──え、そうなんですか! あの、お名前の由来を伺ってもよろしいですか?
いくつか理由はあるんですけど、昔実写をやってたときに、ロケ現場を見つけたりとか弁当手配したり、交渉ごとをしたりという、いわゆる水面下で撮影の段取りつけたりすることをずっとやっていたんです。英語で水中工作員のことをフロッグマンって言うんですが、そこから「蛙男」を屋号として使いはじめたんです。
──なるほど、水中工作員から来てるんですね。
そうなんです。だから蛙の置物とか、蛙のグッズをいろいろ頂いたりするんですけど、別に好きなわけじゃないんですよ(笑)。蛙絡みでいろいろコラボもしたりしましたけどね。「ケロロ軍曹」とのコラボマンガ描いたり。
巴亮介(ともえりょうすけ)
1983年12月6日生まれ。神奈川県横浜市出身。第61回ちばてつや賞ヤング部門において「GIRL AND KILLER─オンナと殺し屋─」で大賞受賞。2009年、ヤングマガジン53号(講談社)に同作が掲載されデビューを果たす。2013年7月より、同誌にて「ミュージアム」を連載中。
FROGMAN(ふろっぐまん)
1971年、東京都出身。映画やドラマの制作スタッフとして十数年のキャリアを積んだ後、島根県へ移住し「蛙男商会」名義で個人制作のFlashアニメを発表。エッジの効いた作風と制作手法が口コミで話題になる。2006年に地上波で放映された、「秘密結社 鷹の爪」を含む「THE FROGMAN SHOW」でブレイク。2014年春には「秘密結社 鷹の爪」シリーズ最新作となる映画「鷹の爪7」が公開される。
映画「鷹の爪7」 2014年春公開
タウンワークのマスコットキャラクター、ジョブーブが、鷹の爪団とともに人知れず世のために戦う友情冒険ジョブ物語。タウンワークとのコラボならではのPR作戦も計画中。
(C)DLE