コミックナタリー Power Push - よしむらかな「ムルシエラゴ」
よしむらかな×深見真×成田良悟“信頼できる”マンガ家が描く、“普通の人がいない”百合アクション その魅力を大いに語る
ちゃんと殴られてあげる黒湖は優しい(成田)
成田 でも「ムルシエラゴ」ってすごく伏線がばら撒かれてますよね。黒幕が実は複数人いるんじゃないかと思わせる部分がある。1回目読んだときには気付かなくても、2回目読んだときに「ああ、こういう伏線だったのか」と気付いたりして。だからどこがどう繋がるんだろうとか、ラスボスはもう登場してるのかもとか、想像しがいがあって楽しいんですよ。
よしむら ありがとうございます。どちらかというと伏線を撒いているというよりかは布石を撒いている、という状態に近いかもしれません。チャンスがあれば回収しよう、ぐらいの感じで。回収の仕方も用意はできているんだけど、チャンスが来なければ放置します、といったイメージです。
深見 成田先生のお話を聞いていて、さすがだなと思いました。僕は読むときは整合性とかあまり気にせず読んでいるので(笑)。自分の中では「薔薇色の牢獄編」がベストヒットなんです。
──どういった辺りが?
深見 黒湖の顔芸も好きなんですけど、結構主人公として許されないところがいっぱいあったなと。「薔薇色の牢獄編」で問題を解決したのは、主人公の黒湖ではないですし。
成田・よしむら ははは(笑)。
深見 気付いてるのかな?という描写もあるんですけど、基本的にずっと本能に流されるままで何もしていない。すごいエピソードだなと思ったんです。
成田 確かに今思い返してみたら、あの話って黒湖は最後にフック(仕掛け)をかわす以外何もやってないですよね。一番のお手柄はひな子だった。
よしむら そうですね。ひな子は地味に潜入捜査もできる子だということがわかりました。
成田 私が「薔薇色の牢獄編」ですごくいいなと思うのは、千代が最後に黒湖を殴るじゃないですか。黒湖は危険なものを察知したら全部避けられると自分でも言ってるのに、千代の打撃だけは全部受けてあげてるんですよ。本当は避けられるけど避けない。ちゃんと殴られてあげるのが優しいなと思ったんです。黒湖に対して「優しいなあ」というのもどうかと思うんですけど(笑)。
よしむら ははは(笑)。一応悪かったと思っているんですよね。そこの描写に気付いてくださってうれしいです。
最大の伏線はひな子
成田 黒湖の殺す・殺さないの基準ってかなり独特なところがありますよね。
よしむら 基準というよりかは気分かもしれないです。いわゆる信念みたいなものはなくて、とにかく軽薄なんですよ、黒湖は。だから気分で殺そうかなと思ったら殺しちゃうし、なんか気分じゃないなと思ったらやらない。
成田 いじめっ子3人を殺したのは完全に気分ですよね。それまでは黒湖って女の子は殺さないのかなと思っていたから、「あ、気分次第で殺しちゃうんだな」って。
よしむら そうですね。でも、黒湖って別にサイコパスではないんですよ。自分がやっていることは悪いことだってちゃんとわかってるんですけど、でも自覚した上で殺してる。どちらかというとサイコパスはひな子のほうですね。
成田・深見 ああ……。
深見 時折、ギラっとした瞬間がありますもんね。
成田 「""DK""ドメスティックキラー編」の遊園地でのシーンとかそうでした。
深見 この物語の最大の伏線ってひな子ですもんね。絶対何かあるけど、そこはまだ隠してますから。
成田 そうですよね。黒湖にとっても「最後のお楽しみ」ってわざわざ口にさせてますし。それが「最後に殺す」という意味なのか、あるいはもう死ぬときは一緒だ、ぐらいの意味合いなのか。
よしむら もしくは最後に犯すのか。あるいは、もしかしたらひな子に殺されることを願っているのかもしれないです。
成田 なるほど……先の展開が気になります。
アクションシーンは駆け引きを意識
深見 僕は「ムルシエラゴ」のアクションシーンがすごくカッコいいなと思ってるんですけど、何か意識していることってあるんですか?
よしむら 何をやっているシーンなのかというのを、できるだけわかりやすくしたいとは思っています。僕、学生時代に空手と少林寺拳法を習ってたんです。
成田 おお、すごい。
よしむら 少林寺拳法の試合には「演武」というものがあって、僕は2人組で取り組む「組演武」を主にやっていたんですが。事前に打ち合わせして「俺はこういくからお前はこう返して」とか「俺はこのときにお前を投げるから、ちゃんと受け身を取れよ」って、わかりやすく言うと殺陣のようなものをやっていたんです。それを審査員の前で見せて、完成度であったりどれだけ気合いが乗っているかを採点される。その経験があるので、駆け引きみたいなアクションシーンはうまく入れられたらいいなと思っています。
深見 なるほど。
よしむら ただそういったシーンを入れようとするとコマもページ数も多くなってしまうんですよ。本当だったらもう少しバトルを長く続けさせたかったりもするんですけど、うまいこと妥協点を見つけながら描いてます。だけど達人同士の戦いだと、言ってしまえばどちらも隙がないんです。でもヘマをしないと勝負が決まらない……だけど達人同士だからヘマをしないという(笑)。だから黒湖は実力で倒すというよりも、周りにあるものとか状況を使って隙を作っていく方向性の戦い方にしようとは思っています。
深見 だから「ムルシエラゴ」って変わった武器とかが必要ないんですね。
よしむら 出したい気持ちはあるんですけど、銃とかに全然詳しくないんですよ。だから銃の図鑑を見ながら見た目がカッコいいヤツを描いていたりするくらいで。たぶん本当に銃に詳しい人たちからしたら「いや、これはおかしいよ」っていうものは散見されると思うんですけど、そこは許して下さい(笑)。
深見 僕は海外に実銃を撃ちに行ったりする程度には銃が好きなんですが、マニアが喜ぶくらいに細かくやろうとするとやっぱり覚悟がいりますよね。
成田 私もある程度は調べるんですけど、どんなに調べても本当に詳しい方にはかなわないなと思うので、ある程度のところで「よし、俺はこの辺でやめておこう」と妥協点を見つけています。
深見 あんまりリアルな描写に縛られて、面白くなくなってもマズいなという思いもありますしね。
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世にはびこる凶悪犯罪者に対応するため、超法規的措置によって選ばれた“公的”スローター(大量殺人者)、紅守黒湖。その監視官であり、無類の乗り物好きである相棒、屠桜ひな子。善悪の彼岸で繰り広げられるバイオレンス・アクションがここより始まる!
よしむらかな
和歌山県出身。「ぬらりひょんの孫」などで知られる椎橋寛のアシスタントを経て、2012年に「超究魔法少女ミーコ」で第1回YGマンガ賞を入選受賞。2013年にヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて読み切り「ムルシエラゴ」を発表し、同年連載化に至った。
深見真(フカミマコト)
富士見ヤングミステリー大賞を受賞し小説家デビュー。百合、銃器、格闘技などを愛する。小説「ヤングガン・カルナバル」シリーズを手がけ、テレビアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」では虚淵玄とシナリオを共同執筆。また週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載中の「王様達のヴァイキング」では、ストーリー協力などを務める。2015年より月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「魔法少女特殊戦あすか」の原作を担当。
成田良悟(ナリタリョウゴ)
第9回電撃ゲーム小説大賞にて金賞を受賞した「バッカーノ! The Rolling Bootlegs」にてデビュー。「デュラララ!!」や「越佐大橋シリーズ」といった人気作のほか、「Fate/stay night」のスピンオフノベライズ「Fate/strange Fake」(すべてKADOKAWA)など幅広く手がける。2015年10月よりヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載中のマンガ版「バッカーノ!」では、完全監修と銘打ち、原作・監修を担当している。
※プロフィール画像はよしむらかな描き下ろし