コミックナタリー Power Push - よしむらかな「ムルシエラゴ」
よしむらかな×深見真×成田良悟“信頼できる”マンガ家が描く、“普通の人がいない”百合アクション その魅力を大いに語る
本当の趣味は心の奥底に(成田)
──成田さんも作品を作る上で、自分の趣味を形にしようと思ったことはありますか?
成田 私は結構、趣味と商売は分けて考えてるところがあるんです。
よしむら ああ、なんて立派なんだろう。
成田・深見 (笑)。
成田 でも私が「デュラララ!!」を書こうと思った最初のきっかけは、「首から上がない女の子が主役なんて素敵でしょ?」というところだったんですよ。それを当時の電撃文庫の編集長に話したら、「ちょっと何を言ってるかわからないから、とりあえず書いてきて」って言われまして。「ボツにするかどうかは読んでから決める」と(笑)。それが「デュラララ!!」の始まりでした。
深見 不死身の女の子って解剖したくなりますよね。「超わかる」って思ってました。
成田 ああ、はいはい。……いや、私も「はいはい」って言っちゃってますけど(笑)。そこは趣味というよりビジネスライクで書いたところですよ。本当の趣味は心の奥底にと(笑)。
深見 成田先生、「趣味と商売は分けて考えてる」とおっしゃってましたけど、結構ダダ漏れだなと思ってますよ。
成田 あっ、本当ですか!? えー! 隠してるつもりだったのに(笑)。
──ははは(笑)。今回の座談会のメンバーの中でもよしむらさんと深見さんは作られている作品もそうですし、公言もされているので百合好きというイメージがありました。成田さんも百合はお好きなんですか?
成田 好きですよ。私は人外娘が好きなんですけど……。
よしむら あとメカクレ(髪型や眼帯などで目が隠れているキャラクター)ですよね。スクエニのパーティーのときも、成田先生の第一声が「僕はメカクレ女子と人外娘の百合が大好きです!」だったんですよ。
成田 あはは、そんな話もしましたね(笑)。自分の作品に百合好きな趣味が反映されているところがあるとしたら、「デュラララ!!」に出てくる(折原)九瑠璃と舞流の双子の関係性とかですかね。そこでは自分の嗜好が漏れているかもしれない。あの双子はどっちかというと現実の百合とかとは違うと思うので、「こんなんただのファッション百合じゃん!」と百合好きの人に言われたら「はい、そうです。ごめんなさい。でもこういうのも好きなんです」と返すしかなくなると申しますか(笑)。そういえば友人から聞いたんですけど、深見さんが「PSYCHO-PASS サイコパス」の脚本を担当したときに隙あらば百合描写を入れようとして、監督に毎回赤字を入れられていたって話、本当なんですか?(笑)最終回には事後描写なんかもありましたけど、あれは「ここまでがんばってきてくれたから、最終回ぐらいはいいか」とOKをもらえた、っていう噂を聞いたんですが……。
深見 真相をここで語ることはできませんが、基本的にはストーリー原案と脚本を担当した虚淵(玄)さんの手のひらで踊らされていたんですよ(笑)。僕としても初めてのアニメの脚本だったので、「ここで百合を書いておかないと、昔から作品を読んでくれている人が納得してくれないかもしれない」という思いはありました。
「ムルシエラゴ」には普通の女性キャラがいない(成田)
──ところで成田さん、深見さんは「ムルシエラゴ」の中で好きなキャラクターなどいますか?
成田 みんな好きなんですけど……。思ったのが、「ムルシエラゴ」のキャラクターって普通の人がいないんじゃないかなって。6巻で、蘇芳(皆子)さんが犯人を突き刺すシーンがありますよね。あのシーンを見て、「さあ、犯人を警察に突きだそう」ではなく自身の手で突き刺してしまうあたり、蘇芳さんも結構狂ってるんだなと思って。でもふと考えたら、「ムルシエラゴ」に出てくる女性キャラで、「この人はまだ誰も殺してないから普通に逮捕でいいじゃないですか」で済ませるキャラって思い浮かばないなと。
よしむら そうですね、たぶん刺さないのは八葉ちゃんぐらいかもしれないです。
成田 あとは……浮菜でしたっけ、あの盗撮やってた子も一見やらなさそうですけど、ビビって刺さないだけで、「刺しても警察には黙っておくよ」と言われたら刺しそうな気がします(笑)。黒湖と仲がいい女性陣って、黒湖が目の前で人を殺しても引かない子が多いですよね。
──ああ、どの子も平然としている印象です。
成田 目の前で黒湖が人を撃ち殺しても、「キャー素敵!」となるわけでもなく、「ヒー! 人殺し!」となるわけでもなく。淡々と見ている子が多いので、これは類は友を呼ぶ的なことなのかなと感じました。
よしむら そういう気のある人たちが集まるのかもしれないですね。
──深見さんは気になるキャラクターはいますか?
深見 黒湖は主人公だからみんな好きだと思うんですけど、黒湖以外だったら千代が好きですね。千代はちょっとヒモ体質っていうか……いるじゃないですか、ダメな男に貢いでるタイプ。千代も若干そうだと思っていて。その“ダメな男”に貢いでるタイプの対象が、“ダメな女”になるだけでこんなにうれしくなるんだなって思いました(笑)。
よしむら・成田 (笑)。
成田 私はそんな黒湖に唯一なびいていない、朽葉さんも好きなんですよ。無口なクール系の女の子に見せかけて、実は結構負けず嫌いなところがいい。
よしむら そうですね。彼女はだいぶ根に持つタイプですね。
深見 朽葉さんもよしむらワールドの住人だから、百合属性なんですか?
よしむら そうですね……たぶんです、たぶん。
深見 誰とくっつくんだろう。
よしむら まだ彼女たちの末路については決まっていないので、お楽しみに、ということころでしょうか。
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世にはびこる凶悪犯罪者に対応するため、超法規的措置によって選ばれた“公的”スローター(大量殺人者)、紅守黒湖。その監視官であり、無類の乗り物好きである相棒、屠桜ひな子。善悪の彼岸で繰り広げられるバイオレンス・アクションがここより始まる!
よしむらかな
和歌山県出身。「ぬらりひょんの孫」などで知られる椎橋寛のアシスタントを経て、2012年に「超究魔法少女ミーコ」で第1回YGマンガ賞を入選受賞。2013年にヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて読み切り「ムルシエラゴ」を発表し、同年連載化に至った。
深見真(フカミマコト)
富士見ヤングミステリー大賞を受賞し小説家デビュー。百合、銃器、格闘技などを愛する。小説「ヤングガン・カルナバル」シリーズを手がけ、テレビアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」では虚淵玄とシナリオを共同執筆。また週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて連載中の「王様達のヴァイキング」では、ストーリー協力などを務める。2015年より月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)にて「魔法少女特殊戦あすか」の原作を担当。
成田良悟(ナリタリョウゴ)
第9回電撃ゲーム小説大賞にて金賞を受賞した「バッカーノ! The Rolling Bootlegs」にてデビュー。「デュラララ!!」や「越佐大橋シリーズ」といった人気作のほか、「Fate/stay night」のスピンオフノベライズ「Fate/strange Fake」(すべてKADOKAWA)など幅広く手がける。2015年10月よりヤングガンガン(スクウェア・エニックス)にて連載中のマンガ版「バッカーノ!」では、完全監修と銘打ち、原作・監修を担当している。
※プロフィール画像はよしむらかな描き下ろし