「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」YOASOBIインタビュー|“超全身全霊”で臨んだ主題歌「UNDEAD」、そのこだわりを紐解く

アニメ「〈物語〉シリーズ」の新作「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」の配信が7月6日にABEMAでスタートした。 “映像化不可能”と謳われた西尾維新の小説を、シャフトが巧みな映像表現でアニメ化してきた「〈物語〉シリーズ」。2009年放送の「化物語」から始まり、今作でTVアニメ放送開始から15年目を迎える。「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」の主題歌「UNDEAD」を手がけたYOASOBIのコンポーザー・Ayaseも「〈物語〉シリーズ」の大ファン。主題歌発表時には「超全身全霊で作りました」と作品への愛とリスペクトを発信していた。

コミックナタリーでは「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」の配信を記念し、YOASOBIの2人へインタビューを実施。「意味なく入れているフレーズは一切ない」とAyaseが言うように、「UNDEAD」の歌詞には「〈物語〉シリーズ」への愛とリスペクトがふんだんに盛り込まれている。Ayaseはどのように「〈物語〉シリーズ」、そして西尾維新の原作小説を解釈し、楽曲として形にしていったのか。そんなAyaseの並々ならぬ思いに応えるため、ikuraはどのように楽曲に向き合ったのか。2人のこだわりを語ってもらった。また記事末には「〈物語〉シリーズ」の楽曲まとめも掲載。「UNDEAD」へと連なる、シリーズを彩ってきた楽曲たちを紹介する。

取材・文 / 岸野恵加(P1、P2)文 / 粕谷太智(P3)

「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」ノンクレジットED映像|YOASOBI「UNDEAD」

YOASOBIインタビュー
YOASOBI

YOASOBI

戦場ヶ原ひたぎに向けた曲を作ったことも

──主題歌アーティストがYOASOBIだと発表された際のコメントで、Ayaseさんは「以前より、好きなアニメ作品を聞かれた際には『化物語』と必ず答えるほどに思い入れのある『〈物語〉シリーズ』」と綴っていました。いつ頃シリーズに出会い、どのような部分に惹かれたのでしょうか。

Ayase アニメ好きなのでいろいろな作品を観ていく中で、自分の琴線に触れたのが「〈物語〉シリーズ」でした。最初に触れたのは「化物語」だったんですが、リアルタイムではなく、「偽物語」がオンエアされているタイミングでしたね。一気に追って、そこからずっと観ています。魅力をどう言い表せばいいかわからないけど、「〈物語〉シリーズ」にしかない独特な世界観や、言葉の表現……全部大好きですね。

──ikuraさんが「〈物語〉シリーズ」を視聴した感想を教えていただけますか?

ikura Ayaseさんが強い愛とともにいろいろ教えてくれていたので、私も楽しみながら、これまでの物語を追わせていただきました。「何が起こってるの?」と思うような、独特なストーリー展開に病みつきになってしまって。そして話数が進むにつれて伏線が回収されていって、面白さが増すんですよね。ファンの皆さんが夢中になる理由がよくわかりましたし、この作品でしか摂取できない栄養素がある、と強く感じました。そして言葉遊びが本当に面白くて。日常生活でもふと、作中の言葉が急に頭に浮かんだりしますね。

ヒロインの1人である戦場ヶ原ひたぎが描かれた「化物語」ビジュアル。

ヒロインの1人である戦場ヶ原ひたぎが描かれた「化物語」ビジュアル。

──ありがとうございます。主題歌のオファーを受けたときは、きっとAyaseさんは天にも昇る心地だったのではと思いますが、プレッシャーは感じましたか?

Ayase プレッシャーはなかったですね。とにかくうれしくて、その思いが勝っていました。新しい試みとしてYOASOBIを起用していただいたんだろうなとポジティブに思いましたし、ちゃんと期待に応えられるように、そしていい意味で大きく裏切れるようにがんばろう、という思いでしたね。

──ちなみに「【推しの子】」の際は、もともと原作のファンだったAyaseさんが、主題歌のオファーを受ける前に作品をイメージした曲を自ら書いていたというエピソードがありました。「〈物語〉シリーズ」に関する楽曲も、自主的に書いたことはありますか?

Ayase 18、9歳くらいの頃に自分がボーカルをやっていたバンドで、戦場ヶ原ひたぎに向けた曲を作ったことがあります。音源化もしたし、ライブでもよくやっていましたね。

ikura えー! すごい、初耳。

Ayase それくらいずっと好きな作品ですね。

Ayaseとikuraが惹かれる羽川翼

──好きなヒロインについてもお聞きしたかったのですが、では、Ayaseさんが惹かれるのは戦場ヶ原さんですか?

Ayase いえ、羽川(翼)さんです。ルックスがすごく好きなんですよね。「偽物語」からの、ショートカットの翼ちゃんが特にかわいいです。

ikura 私もヒロインでいうと羽川さんが好きです。ブラック羽川のときの猫ちゃんがすごくかわいかったし、いい人すぎるがゆえにずっと抱えてきた感情が抑えられなくなってしまうというギャップに、すごくグッときました。羽川さんの本来の姿を見た気がして。

ヒロインの1人である羽川翼。メガネにおさげ姿で登場したが、シリーズ第2作目「偽物語」では、髪型はショートカット、メガネはコンタクトへとイメチェン。

ヒロインの1人である羽川翼。メガネにおさげ姿で登場したが、シリーズ第2作目「偽物語」では、髪型はショートカット、メガネはコンタクトへとイメチェン。

Ayase 僕は羽川さんのエピソードでいうと、(阿良々木)暦が妖刀「心渡」を投げて虎をやっつけてくれるシーンが好き。暦がカッコよすぎるし、「無理だったかもしれない。 無茶だったかもしれない。でも──無駄じゃなかった」っていうセリフが好きすぎて。

ikura 登場人物全体の中から選んでいいなら、暦が一番好きで。誰に対しても愛情を振りまく人だけど、人間くさいというか、情に満ちあふれている感じが素敵だなって。近くにいたらヒロインたちに嫉妬はするかもしれないけど(笑)、いいなあと思います。

主人公・阿良々木暦。根っからのお人好しで、怪異に出会った少女たちを助けるため奔走する。

主人公・阿良々木暦。根っからのお人好しで、怪異に出会った少女たちを助けるため奔走する。

「happy bite」で泣き、撫子の声に恋した

──「〈物語〉シリーズ」では音楽も大事な要素で、キャラクターソングが使用されるオープニング曲、そしてエンディング曲はどの楽曲にも作品の世界観がしっかりと漂っています。好きな主題歌を挙げるとするなら?

Ayase 全部めちゃくちゃ聴き込んでいるし、挙げきれないくらいありますが……でも「恋愛サーキュレーション」はマストだよね。

ikura うん。私は声フェチで、ボーカリストとしても日頃からいろいろな歌声にアンテナを張ってるんですけど、花澤香菜さん演じる(千石)撫子ちゃんのあの声が耳に入った瞬間、恋しちゃいそうになった。

ヒロインの1人である千石撫子。「恋愛サーキュレーション」は彼女にスポットを当てたエピソード「なでこスネイク」のオープニングテーマ。

ヒロインの1人である千石撫子。「恋愛サーキュレーション」は彼女にスポットを当てたエピソード「なでこスネイク」のオープニングテーマ。

Ayase あとは(阿良々木)月火の「白金ディスコ」もめっちゃ好きだし、(八九寺)真宵の「happy bite」もめちゃくちゃ泣ける曲で、大好きですね。キャラソンは全部好きです。

ikura 私は「君の知らない物語」(「化物語」エンディングテーマ)を、学生時代の文化祭のバンドでコピーしたことがあります。「〈物語〉シリーズ」に触れていなかった学生時代の自分ももちろん知っていて、めちゃくちゃクラスでも流行っていました。名曲中の名曲ですよね。

──YOASOBIさんはアニメソングを制作するうえで、「アニメソングはこうあるべき」という指針や理想像は持っていますか?

Ayase 原作の世界観をしっかり投影することは大前提としてありつつ、アニメの主題歌は毎話聴くものなので、物語が展開していくにつれて聴こえ方が変わったり、ストーリーの進行とともに成長していく曲にすることにはこだわっています。今回の「オフ&モンスターシーズン」も、終盤で入ってくるセリフなどはある程度わかっているので、そこを意識して「UNDEAD」を作りました。視聴していくにつれて「この部分はこういう意味だったんだ」と、しっかり聴き込んでくれる人に発見があるといいなと思っています。

西尾維新の原作小説と自身の悩みがリンク

──「UNDEAD」の原作となったのは、西尾維新先生が書き下ろした小説「なでこパスト」と「しのぶフューチャー」です。最初に受け取ったときはどう感じましたか?

Ayase もう、自分が作る曲のために西尾先生が原作を書いてくださったということへの感動がすごすぎて、悶えましたね。しかも、小説の中で書かれていることが、ちょうどそのときに僕が抱えていた悩みとめちゃくちゃリンクしていたんです。本当にたまたまだと思うんですけど、運命的で驚きました。

──どういった部分に共鳴したのか、可能な範囲で詳しく教えていただけますか?

Ayase 「しのぶフューチャー」の冒頭で、忍野忍が「長生きしても未来になんぞなんの希望もないような気がしてきたのじゃ。もう儂の人生に、キラキラした素敵な出来事は一切起きないのではないじゃろうか」とこぼしますよね。僕も当時ちょうど、精神的にドロッとしたゾーンに入ってしまっていた時期だったんです。YOASOBIや音楽家として活動していくうえで、ワクワクできることはあるけど、新鮮味がなくなってきたのも事実で。未来が明るくないものに感じていました。小説では斧乃木余接が忍をカウンセリングしていきますけど、僕も忍とともに救われた気がして。この小説のおかげで、めちゃくちゃポジティブな思想を持てるようになりました。