折口良乃のライトノベル「モンスター娘のお医者さん」は人間と魔族(モンスター)が共存する街を舞台に、魔族専門の診療所を営む人間族の医師グレン・リトバイトが、さまざまな種族の「モンスター娘」たちを治療し救っていく姿を描くメディカルファンタジー。現在TOKYO MXほかにてTVアニメが放送されている。
コミックナタリーでは同作の特集を複数回にわたって展開しており、今回は折口と「モンスター娘のいる日常」作者のオカヤドの対談をお届けする。「モンスター娘のいる日常」のファンであり、同作のノベライズ「モンスター娘のいる日常 もんすたーがーる・はろーわーく」を8月29日に上梓する折口は、"聖典"と称する作品への思いを熱弁。一方、近年モンスター娘を題材にした作品が増えてきている中、その火付け役とも目されるオカヤドは「モンスター娘のお医者さん」をどのように読み解いたのか。モンスター娘への、2人のほとばしる愛をご覧あれ。
取材・文 / 丸本大輔
「アニメ化決定です」と言われたときは、いろいろな意味で驚いた
──最初に折口さんに伺いたいのですが、「モンスター娘のお医者さん」のアニメ化が決まったときには、どのような心境になりましたか?
折口良乃 担当編集者からアニメ化が決まったことを聞いたのは、4巻か5巻が出た頃だったと思うのですが、その頃は私が勝手に、「5巻も続いたし、そろそろシリーズは終わりだろうな」と考えていました。それでお話の畳み方を決めたり、次の企画のことを考えたりしなきゃなと思っていた矢先に「アニメ化決定です」と言われて、「どういうこと?」って(笑)。シリーズも続くことになりうれしかったのですが、いろいろな意味ですごく驚きました。
──折口さんは「モンスター娘のお医者さん」を書く前からオカヤドさんの「モンスター娘のいる日常」のファンだったそうですね。
折口 「モンスター娘のいる日常」は、COMICリュウでの連載が始まる前、オカヤド先生が個人的にWebに投稿していた頃から読んでいました。
オカヤド ありがとうございます。
折口 その後、リュウでの連載が始まり人気を集めていると知ったとき、商業でもモン娘(むす)というジャンルを扱ってもいいんだと驚きました。私自身、モン娘がすごく好きでしたが、当時はアングラ的な趣味という印象が強かったので、自分の作品で扱うことにためらいがあったんです。でも、「モンスター娘のいる日常」という作品があったからこそ、「私もモン娘の小説を書こう!」という気持ちになれました。
──「モンスター娘のお医者さん」を書くきっかけのひとつでもあったのですね。
折口 はい。「モンスター娘のいる日常」を通してオカヤド先生に「モン娘の小説を書いてもいいよ」と言ってもらったくらいに思っています。
オカヤド いやいや、そんなことはないでしょう(笑)。
折口 本当にそうなんですよ(笑)。「モンスター娘のいる日常」があったからこそ、自分の抱えていたアイデアを形にしたいと思ったし、そのために自分から動いたんです。その結果、一緒にやってくれる編集者さんにも出会えて、作品にすることができました。
──逆に、オカヤドさんも折口さんの「モンスター娘のお医者さん」から刺激を受けることがあるのでしょうか?
オカヤド 「モンスター娘のお医者さん」の主人公のグレン先生は、すごく真面目で自分の意思も明確に持っていますよね。「モンスター娘のいる日常」の主人公の来留主は、意図的に個性をあまり出さない方向で描いているのですが、「モンスター娘のお医者さん」を読むたびに、もっとしっかりとした主人公として描くべきだったかなと反省してしまうんですよ。時々、グレン先生のように真面目な主人公として描きそうになってしまうのですが、不真面目な方向でい続けるようにがんばっています(笑)。
──グレンの影響で、来留主のキャラクター性がぶれそうになるというのも面白い関係ですね。おふたりはお互いの作品をかなり読み込まれているようですが、特に好きなキャラクターはいますか?
折口 「モンスター娘のいる日常」は、もちろんヒロインたちも魅力的なのですが、主人公の来留主がキメるところはしっかりとキメるのもすごくカッコいいんですよね。オカヤド先生は個性をあまり出さない方向で描いているとおっしゃいましたが、造形が巧みで、読者がカッコいいと思える主人公だから、作中のヒロインたちが惚れるのも当然だなって思えます。好きなモン娘はアラクネのラクネラです。もともと、アラクネという種族も好きですが、ラクネラの何もかもが大好きで、「モンスター娘のいる日常」のアニメ第6話で初めて登場して少しだけしゃべったときには、特に感動的なセリフでもないのに、「ラクネラさんがしゃべってる!」ってボロボロ泣きました(笑)。
オカヤド そんなことを言ってもらったら、僕も「モンスター娘のお医者さん」のアニメを観て、泣かないといけないじゃないですか(笑)。
折口 いえいえ、そんなことはないですよ(笑)。
オカヤド 僕はさっき褒めたグレン先生ももちろん好きですが、モン娘の中ではフレッシュ・ゴーレムの苦無さんですね。「モンスター娘のいる日常」にも、つぎはぎだらけのゾンビーナという同じ系統のキャラクターがいるのですが、キャラクターとしての切り口が違うというか。味付けも調理法もまったく違ったので、「なるほど、こっちもありだな」って。折口先生の本を読ませていただくと、2人で同じ素材を使って、どういう料理を作るのかという「どっちの料理ショー」みたいなことをしている感じもあるのが面白いんですよね。
折口 確かに、そういうところはありますよね。
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人間でないことは逆にプラスである。そんなお話になるように