折口良乃のライトノベル「モンスター娘のお医者さん」は人間と魔族(モンスター)が共存する街を舞台に、魔族専門の診療所を営む人間の医師グレン・リトバイトが、さまざまな種族の「モンスター娘」たちを治療し救っていく姿を描くメディカルファンタジー。7月12日にTOKYO MXほかにてTVアニメの放送がスタートする。
コミックナタリーでは同作の特集を展開。第1回として、監督を務める岩崎良明へのインタビューをお届けする。「ラブひな」「ゼロの使い魔」「ハヤテのごとく!!」「ぼくたちは勉強ができない」など、魅力的なヒロインが多数登場する作品を手がけてきた岩崎に、ヒロインが全員モンスター娘という同作をアニメ化するうえでのこだわりについて語ってもらった。
取材・文 / 丸本大輔
その種族ならではの特徴を取り入れながら動きを付けていく
──岩崎監督はTVアニメ監督としてのデビュー作「ラブひな」に始まり、「ハヤテのごとく!!」「ぼくたちは勉強ができない」など、魅力的なヒロインたちが登場する作品を数多く手がけています。本作に登場するヒロインたちは、モンスターを女性の姿で描いたモンスター娘ばかりですが、原作を読んだときどのような魅力を感じましたか?
アニメ制作会社の方から「今度こういった作品をアニメ化するのですが、監督をやってもらえないですか?」というオファーをもらって、まず原作を読ませていただいたのですが、モンスター娘というキャラクターの立ち位置が面白かったです。もともと、ファンタジーに登場するモンスター的なキャラクターは好きだったのですが、モンスターというと戦う相手として出てくることが多いじゃないですか。それが今回は、主人公側の登場人物として物語に絡んでいくのが魅力的だなと思いました。
──さまざまな種類の魔族が登場する作品なので、人間がメインの作品よりもキャラクターの設定作業のカロリーが高くなったのでは?
モンスター娘1人ひとりの設定を作ることも大変ではあったのですが、それ以上にその種族ならではの特徴を取り入れながら動きを付けていくことのほうが大変でした。原作やほかの作品などを通して、すでにモンスター娘が大好きな方々もいらっしゃいますし、そういったコアなファンの期待にも添えるように描きたいと思っていたので、最初のうちは少し苦労しましたね。
──その種族ならではの特徴、というのはどういったものか教えてください。
例えば、主人公グレンの幼なじみであるサーフェは、半人半蛇のラミアという種族で尻尾があるので、感情を表現する際に尻尾も使うんです。メインキャラのティサリアはケンタウロスなので、馬のような耳で感情を出したりもする。そういうふうに、顔の表情だけでなく、動物的なパーツでも感情を見せられるようにこだわっています。
──モンスター娘だからこそ可能な描写ですね。
最初はこのアニメの中だけでの約束事のようなものを作ることも考えたんです。しかし、説明したような感情の表し方など、モンスター娘ファンの方の界隈での約束事というか、共通認識のようなこともできる限り押さえていく方向に切り替えました。
──原作以外にもモンスター娘を描いた作品の研究をしたのでしょうか?
はい。これまでに発表されたモンスター娘関連のアニメやマンガなども、初期の段階で調べたりしました。モンスター娘が好きな人たちは、人間の女の子を好きな人からするとマイナス要素になりうるかもしれない、半人半獣や単眼といった特徴も魅力として捉えている。そこが面白いというか、自分としては新しいなと思いました。
人間の少女とモンスター娘を描くうえで変わらない部分
──モンスター娘ならではの特徴を取り入れるのに力を入れたとのことですが、ヒロインをかわいく魅力的に描くためのポイントの中には、逆に人間とモンスター娘で共通のものもあるのでしょうか?
キャラの感情をしっかり表現するところですかね。種族ならではの特徴を捉えて動きを付けていくのが大変だったとは言いましたが、モンスター娘も上半身に関しては人間の容姿と似ている種族が多くて、感情を表す大きな部分は人間とあまり変わらないことも多いんです。だから女の子のかわいらしい見せ方などに関しては、今までのヒロインが人間の作品と同じように表情を細かく拾ったり、映像的な演出で心情を表したりしています。
──キャラクターデザインの加藤裕美さんには、全体的な方向性としてどのようなオーダーを出したのか教えてください。
加藤さんとは、お互いにヒラの演出や原画だった頃にいた会社で一緒だったことがあって。今回お久しぶりという感じではあったのですが、実力もよくわかっていましたし、何か特別なことを伝えた感じではなかったです。
──まずは、加藤さんにデザイン案を出してもらって、それをベースに調整していったのでしょうか?
はい。原作のZトンさんのイラストは人気があるので、当然その絵の魅力を生かしたかったのですが、原作のイラストはかなり描き込まれているため、アニメで動かすにはパーツが多くて。加藤さんには、原作の絵の印象をできるだけ崩さないようにしながら、アニメで動かしやすいキャラクターとして整理していただいています。
──デザインに関して、特に多くのこだわりや苦労が詰まっているキャラクターを教えてください。
やはりサーフェですかね。例えば、髪型の細かなところ、前髪がぐるっと後ろに回って1周していることなどは限られた点数のイラストからは読み取れなくて、Zトンさんから「ここはこうなっています」といったご指摘をいただいたり、「服を脱ぐときには、こういうパーツに分かれます」といったことを伺ったりしながら作業を進めていきました。最初の頃にデザインしたということもあり、特に試行錯誤しながらできあがったキャラクターです。
──原作がライトノベルなので、マンガ原作の作品に比べると背景が描かれた原作絵は少ないと思うのですが、美術設定などはどのように作っていったのでしょうか?
背景などに関しては、原作のイラスト以外に絵としての資料は無かったのですが、折口先生から文章で書かれた設定などをいただいていました。例えば、「現代の町で言うと、このくらいの町で人口はこのくらいです」といったことが書かれていて、そのイメージを元に、いろいろな要素を組み合わせて作った感じです。デザインに関してはZトンさんのこだわりもあったので、そこも伺いながら作っていきました。確かにマンガ原作の作品よりも時間はかかったのですが、原作のイメージに沿った形に描けていると思っています。
次のページ »
グレンがエッチな男の子には見えないように