コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 第8回 水野美波「虹色デイズ」
少女マンガを男主人公で描くこだわり
水野美波が高校生男子4人組の友情や恋愛を描く「虹色デイズ」は、別冊マーガレット(集英社)にて連載中。先日TVアニメ化が発表され、人気声優が出演することでも大きな話題となった(参照:「虹色デイズ」TVアニメ化決定!松岡禎丞らドラマCDのキャストが集結)。
コミックナタリーでは最新10巻の発売を前に、水野へのインタビューを敢行。少女マンガ誌において男の子を主人公に据えた群像劇を描く理由やこだわり、アニメ化への期待などを聞いた。
取材・文/坂本恵
男目線のほうが女の子をかわいく描ける
──「虹色デイズ」は別冊マーガレットの連載では珍しく、男の子が主人公です。どのような経緯で生まれた作品でしょうか。
とにかく男の子主人公で群像劇が描きたかったんです。連載前にいろいろプロットを作ってたんですけど、一貫して男の子主人公でした。いっぱいボツになって、最後に編集部からOKが出たのが「虹色」だったんですよ。
──前作の「青春トリッカーズ」も男子が主人公ですし、水野さんの作品は男の子主人公ものが多い印象です。
女の子を描くのが苦手なので、克服するにはどうしたらいいかなって考えて。それで男目線のほうが、女の子をかわいく描けるんじゃないかなと思ったんです。例えば「いちご100%」とか「I''s」とか、少年マンガのラブコメに出てくる女の子ってすごくかわいいじゃないですか。男の子を描くのは好きだから、そのやり方のほうが私はうまく女の子のかわいさを引き出せるのかな、と。だから今は、女の子を描くのがすごく楽しいです!
──「虹色デイズ」の小早川さんもまりちゃんも、すごくかわいいです。
だんだん慣れてきましたね。
──「メンズを描くのが好き」と単行本のあとがきにも書かれてましたが、どういうところが特に楽しいですか?
女の子同士じゃなかなかできない会話とか。結構キツイこと言っても、男の子だったら冗談に聞こえるじゃないですか。女の子がズバッというと、受け取り方によってはちょっと「冷たい」と思われてしまうんですよね。キツイ女の子ってあんまり好かれないから……。まりちゃんも、最初は結構嫌われてましたね(笑)。
ゆきりんは「こんな子いたらいいな」っていう集大成
──なっちゃんはかわいい系、まっつんはチャラい系、恵ちゃんはドS、つよぽんはオタクと、4人ともキャラ付けがはっきりとされています。
私、ひと言で表せるキャラクターが好きなんですよ。最初にひとつ大きなキャラクター性を決めて、そこから細かく決めていく。かわいい系とかオタクとかだけだとよくあるキャラ付けだけど、その深いところって、作者によって結構変わってきたりするじゃないですか。
──確かにひと言で表せるキャラですが、恵ちゃんはさわやかなのにドSとか、つよぽんはオタクだけど彼女がいるとか、ありきたりではなく、どこかひと味違いますね。この4人はどう作られていったんですか?
連載前にいろいろプロットを作っていた中で、なっちゃんとまっつんの原型ができました。なのでこの2人はめちゃくちゃ描きやすいですね。なっちゃんが主役ですけど、まっつん主役でも描けると思います。
──本編でも恋愛のターンになると2人の濃度が濃いような。
ああ、そうかもしれないですね。つよぽんも描きやすいですけど。つよぽんは「虹色デイズ」の読み切り版を描くときに、顔を出さない、ネタ要員みたいな感じで作ったキャラだったんですが、連載になることが決定したので、最後に顔を作ったという。
──そんな経緯で生まれたキャラクターなのに、今やつよぽんは人気投票で1位を取るくらいになりましたね。
まさかそんなに人気が出るとは、びっくりですよ(笑)。
──つよぽんとゆきりんのオタクカップルは、見ていて本当に楽しいですし憧れます。
趣味が合う同士っていいだろうなと思って、こんな2人になりました。ゆきりんは「こんな子いたらいいな」っていう集大成みたいな感じ。本当にいたら友達になりたいです。明るくて愛嬌があって、空気も読めて。この子がいるからいろいろ都合よく進みます(笑)。2人とも描きやすいですね。
──では、恵ちゃんについても聞かせてください。
恵ちゃんは最初年上好き担当の予定だったんですけど、それだけじゃちょっと弱いかなと思って、さわやかでドSっていうキャラになりました。でも、とにかく描きにくいんですよね。何考えてるかわからないタイプの人って難しいし、ドSっていうのも難しい。
──恵ちゃんがドSモードになると、画面的にも黒くなりますね。このページだけ違う作品のようです。
恵ちゃんを描くと、なんかベタが増えちゃって。不穏な空気漂いますね(笑)。
男の子主人公だから、あまりモノローグは入れない
──特にどんな男の子を描くのが好きですか?
ちょっとダメな部分もあるけど、憎めない感じが好きですね。完璧男子よりは、「なんかダメだけどしょうがないか」って見守ってくれるようなキャラクターに描けていればいいなと思います。
──確かに、なっちゃん、まっつん、恵ちゃん、つよぽんの4人は、それぞれにちょっとずつダメなところがあります。ちなみに4人の中で、設定的に一番イケメンなのは誰なんでしょうか?
うーん、まっつんですかね。でも最近イケメンじゃない、ダメな感じが出てますね(笑)。どうしてもどこか残念にしてしまうので、たぶん私の好みが出ちゃってるんだと思います。
──まっつんは恋愛もなかなか苦戦してますね。
私、恋愛の話を1本進めるのが苦手なんですよ。日常パートを挟んじゃうので、どうしてもスローペースになっちゃう。
──ここ最近の展開は、波がきている気もしますが。
ちょっとゆっくりすぎたから、今がんばってスピードを速めてます(笑)。だって気付いたらもう10巻ですよ! 女の子目線の話でも1話使ったりするので、なかなか進まない(笑)。その分深く掘り下げられるので、私はすごくありがたいんですけど。別マは心が広いなーと思います。
──恋愛の話を進めるのが苦手なのは、どういうところがですか?
セリフはやっぱり悩みますね。誠意のある言い方をしたいし、あんまりみんなに酷いことを言わせたくないし。ほかの作家さんのマンガを読むと、皆さんすごくセリフの流れが自然なんですよ。私はすぐ詰め込んじゃうので、セリフが多いんですよね。どうにかして流れをよくしたい、とすごく悩みます。
──確かにセリフは多いですが、逆にモノローグは少ないです。
男の子主人公だから、あんまりモノローグは入れたくなくて。なっちゃんは女々しいから別ですけど(笑)。女の子は結構モノローグを入れたりしますが、男の子はできる限りセリフでなんとかしようと思ってます。そうすると流れに悩むんですよ。ほかにももっと男主人公の少女マンガを読みたいんですけど、あんまりないんですよね。連載ものは特に。私も男主人公の話を描いてボツばっかりもらってたので。ボツになると次は女の子主人公を描くんですけど、まためげずに男主人公を描いて。当時の担当さんも「しつこいな」って諦めたんじゃないですかね(笑)。
──いやいや、でもアニメになるくらい人気が出たわけですから!
ありがたいですね。でも私と同じ気持ちの人もいっぱいいるはずだから、もっと男の子主人公の作品が増えればいいと思います。
──群像劇もお好きということですが。
そうですね。キャラクターが多いから、頭使って動かすのは大変ですけど。特に学祭のエピソードなんて、2日間のみんなの予定を表に起こして、このときこの人は模擬店の係をやっていて、この人は自由時間で……って考えるのは大変でした。
──それぞれのタイムスケジュールを管理するのは難しそうです。
海に遊びに行くエピソードも、40ページの中で4人全部をちゃんとうまい具合に回さないといけないし、めちゃめちゃ考えました! どうやってまりちゃんとまっつんを2人きりにしようかな、とか。まっつんのターン、なっちゃんのターン、みたいに分けて描けるときはまだやりやすいんですけど。
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水野美波(ミズノミナミ)
7月30日生まれ。AB型。北海道出身。2006年、「たとえばこんな私とあなた」でデビュー。2012年、別冊マーガレットsister(集英社)に「虹色デイズ」の第0話が掲載される。「虹色デイズ」は別冊マーガレット2012年2月号より連載開始。2014年10月に発売された7巻の限定版にドラマCDが付属する。2015年、ドラマCD版のままのキャストでTVアニメ化が決定した。ほか著作に「青春トリッカーズ」、「螺旋のVAMP」、「新聞部の小松さん」など。
2016年1月22日更新