プレイしていたゲームの開発元からオファーが
──ではここからは天野さんが「Project『MIST GEARS』」に携わることになった経緯や、「MIST GEARS BLAST」についてお聞きしていきます。これまでマンガの執筆をメインにしていた天野さんがゲームのデザインをすることになったのは、どういったきっかけだったんでしょう。
元々ゲームが大好きで、エイリムさんが開発を担当している「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」をプレイしていたんです。そんな中でエイリムさんの「ブレイブ フロンティア」というゲームのモーションコミックを描くお仕事をいただきまして。
──それはどのような経緯で?
「Project『MIST GEARS』」に集英社側から参加している、(「MIST GEARS BLAST」担当編集の)JUMP j BOOKS・藤原(直人)さんのところにお話が来たみたいで。
藤原 モーションコミックのシナリオはこちらで用意するから、それをマンガにしてくれないかという依頼だったんです。新人作家にお願いするにはなかなか難しい仕事だなと思っていたんですが、天野先生がゲーム好きだと聞きまして。初めてお会いしたときに「エイリムという会社のゲームなんですが」と説明したら「知ってる!」と言っていただいて。
「FFBE」をめちゃくちゃやりこんでましたからね(笑)。
藤原 そのときには「Project『MIST GEARS』」の話も裏で進んでいて。最初はゲームシナリオを担ってくれる小説家を探しているという話だったんですが、「あわよくば集英社のマンガ家に絵で参加してほしい」と言われていたんです。僕はそのときから「『MIST GEARS』も天野さんに参加してもらうのがいいんじゃないか」と思っていたんですが、「ブレイブ フロンティア」のモーションコミックが完成した後、エイリムの社長の高橋(英士)さんから直々に「『MIST GEARS』も天野さんにやってほしい」と言われて。「僕もそう思います」と言ってお願いした形です。
──ゲームのキャラクターデザインに参加してみて、マンガとは違う苦労がありましたか?
苦労だらけでしたね(笑)。結局のところ、僕はマンガ家であってイラストレーターではないので、絵だけで勝負しているイラストレーターの方々がやるようなお仕事をマンガ描きの自分がやるなら、100倍がんばらねばならないと思いまして。結果として細かいところまでデザインにこだわって、描くのが恐ろしく大変なキャラばかりをデザインしてしまいました。
──先ほどの作画動画でも、武器のデザインをかなり細かく描いていましたよね。当時天野さんは、ご自身の利点は細かいところまでの描き込みだと考えていたんでしょうか?
いや、集英社のとある上の人から「マンガでは我慢していた細かい描き込みも、ゲームのデザインなら思う存分やっていいんだよ」と言われてまして。「自分が期待されているのはディテールの描き込みなのかな」と思って、「そこをがんばらないとがっかりさせちゃうかも」と力が入ってしまったんです(笑)。
キャラデザ時のゲームならではの制約
──メインキャラクターのシエロやトルナは装飾にかなりこだわっていますよね。
今回デザインをしていて面白かったのが、ワンピースや白衣のような上下がひと繋がりになっている服のデザインはやめてくれって言われたことですね。
──えっ、それはどうしてですか?
「MIST GEARS」のキャラは実際のゲーム画面ではデフォルメされた3Dで表示されるんですが、装備が頭・上半身・下半身で分かれているんですよ。だからひと繋がりになってしまうと、装備として分割できないんです。なので、どのキャラクターの服装も上下で分けられるデザインにしています。
──確かにそれはゲームならではの制約ですね。
あとできるだけ左右対称でデザインしてほしいとも言われて。3Dキャラが登場するゲームでは、キャラを右半身と左半身で分けて、片方を作ってからそれを反転させることで全身のモデルを作っているらしいんです。ソーシャルゲームなので常に更新して新しいキャラを出していかなければならないですし、削れる工程は削るというのがゲーム作りでは重要らしいんですよね。
──でもトルナもシエロも左右非対称なデザインですよね。
トルナやシエロに関してはデザインした後にその話を聞いたので、「メインキャラなのでがんばってください!」とおねだりしました(笑)。こういった制約は、マンガを描くうえで意識したことがなかったので面白かったですね。
──今回キャラクターデザインはもちろん、ゲーム内に挟み込まれるマンガも「MIST GEARS BLAST」の連載に並行して天野さんが執筆していますよね。この2年間で休みは2日だけだったとうかがっているんですが……。
それもマンガ描きの自分がイラスト仕事をするっていう後ろめたさから来ているんですよ。ゲーム内のマンガに関しては、僕がやるならば自分にしかできないことをやりたいと思って、こちらから提案したものなんです。ただこちらとしてはモノクロのつもりだったんですが、「いいですね! ゲームだしカラーでやりましょう」という話になって(笑)。
──チュートリアルのマンガがフルカラーで19ページもあったのでびっくりしました。
あれはマンガの連載が始まる直前に、そちらの原稿も押していたところで5日くらいで19ページ描くことになったのでキツかったですね。でも頼られているというのはやっぱりありがたいです。僕は基本的にはなんでもやりたい人間ですし、ゲームに携わる仕事っていうのはマンガ家と同じくらい大きな夢だったので、体がもつ限りはがんばりたいと思っています。
マンガ版はゲームの入り口にもなる
──ここまでゲームについて中心にお話を伺ってきましたが、「MIST GEARS BLAST」はどういった立ち位置のマンガになるんでしょうか。
「MIST GEARS BLAST」は、今回のプロジェクトの中では一番最後に立ち上がった作品なんです。ゲームや小説の登場人物は「ここはミストという毒に覆われた世界です」「霧に包まれた世界を調査するGEARSという小隊があります」という世界観の中で当たり前に生きている人たちの話なので、そういうことをまったく知らない女の子が、読者と同じ視点で初めてミストの世界を体験していく話にしたらいいんじゃないかと思ったんです。そうすればゲームへの入り口にもなりますし。
──天野先生の作品では初めての女性主人公ですが、女の子を主役にしたのにはどういった理由が?
小説が男主人公で、ゲームも今でこそ女性キャラのトルナがメインになっていますが、もともとは男性キャラのシエロが中心にいたので、マンガは女の子でいいんじゃないかという話が藤原さんや田中さんから挙がってきたんです。
──男性に比べて女性キャラは描きやすいですか?
めちゃくちゃ描きにくいです。僕は女の子を描くのが苦手なので、自分では女の子を主役にしようという考えにはならなかったと思います(笑)。
──苦手というのはビジュアル的な面ですか、それとも内面が?
ビジュアルですね。女の子がかわいく描けないっていうのはずっと自分の中にコンプレックスとしてあって、今は慣れようとして努力しているところです。あと「MIST GEARS」はゲームとしてはシステムが面白くて新しく見えると思うんですが、マンガの設定としては王道なところがあるので、王道の少年マンガで少女を主人公にするというヒネリを加えないと目立たないかなというのもあって。週刊少年ジャンプだと女性主人公はなかなか難しいかもしれないんですが、今回はジャンプ+なのでちょっとひねってみたというのもあります。
──では最後に1巻の見どころをお伺いできますか。
コマの中にけっこう遊びを入れていて、例えばいつも主人公のナギと一緒にいるコダチというマスコットキャラが、ナギが戦っているときにコマの隅で一緒に戦っていたりするんです。ほかにも背景にいるモブの1人ひとりに設定を付けてみたり。
──例えばどういった設定があるんですか?
単純に担当の藤原さんを登場させてみたり、不倫妻がいたり。
──不倫妻ですか(笑)。
1コマしか出ないお姉さんなんですけど、部屋で愛人が寝ているので指輪を外して洗濯物を干しているみたいな。薬指に指輪の跡を細かく描いていたりするんですよ。多分ほとんど気付かないとは思いますが、単行本で隅々まで読んでいただくとそういう新しい発見があるかもしれません。あとナギのロータスという武器がゲームの「MIST GEARS」で使えるようになるコードも付いていたりするので、それもぜひ使ってみてください!
2019年3月28日更新