「NOMAD メガロボクス2」|安元洋貴(勇利役)×森山洋(監督)×岩井勇気(ハライチ) 流行りものとは違うけど、こういう作品があってもいい 時代に抗う骨太アニメの魅力

最後はバッドエンドでもいいと思っています(岩井)

──「メガロボクス」で一度栄光を手にしたはずのジョーは、「NOMAD メガロボクス2」では髪もひげも伸び放題で、鎮痛剤を飲みながら、地下のリングを転々としながら当てもない日々を送っていますよね。ここからの復活が見どころなわけですが、皆さんはジョーのような強烈な挫折体験というのはありますか?

安元 いやー、細かいのは毎日のようにありますよ(笑)。あのオーディション落ちました、みたいなことは山ほどありますけど、否が応でも明日が来ちゃうからしょうがないなって。これで死ぬわけでも、取って食われるわけでもないし、まあいっかって切り替えるしかない(笑)。

安元洋貴

一同 ははは(笑)。

──ジョーほどの大きな挫折はないですか。

安元 うーん。そもそもジョーの状況は挫折なんですかね?

森山 挫折というのとはちょっとまた違いますね。言い方が難しいですけど。

──確かに。落ちぶれてはいますけど、挫折というよりは停滞というか、ちょっと休んでるというか。

安元 挫折というよりか、己が思うがままに生きた結果、うまくいくときもあればうまくいかないときもあるっていう。ぶきっちょですよね(笑)。

森山 そうですね、ものすごく。今後、勇利や前作に登場していたキャラクターたちの現在が描かれていきます。それぞれボクサーだった時代を経て次の人生を歩んで、前へ進んでいるのですが、ジョーだけはそうできなかったというか。それには理由があるのですが、今はもがいている感じですね。

──皆さんはそういうもがいてた時代みたいなのはありますか?

安元 そりゃあ若手時代はみんなもがくんじゃないですか?

岩井 いや、僕はよく聞かれるんですけど……。

安元 そうか、ハライチさんは早く売れましたもんね。

岩井 22歳ぐらいでテレビ出ちゃって。苦労していましたっていうのも嫌味になるんですよね。

安元 岩井さんは実家住まいでしたしね(笑)。

岩井 ずっとバイトもしないで実家にいました。だから苦労時代っていうのは特に……(笑)。

森山 すごいですね(笑)。

「NOMAD メガロボクス2」第4話より。ジョーが流れ着いた移民たちのコミュニティで出会ったメガロボクサー・チーフも、かつてのジョー対勇利を観て熱狂した1人。ジョーはチーフの試合のセコンドに付いたことで、復活のきっかけを掴む。

──そうやってもがいていたジョーが、かつてジョーの試合を観て勇気をもらったチーフに、今度は逆に勇気づけられるというのが4話までのお話でした。

安元 相互関係って感じですよね。

──この「かつてジョーに夢を与えられた人々が、ジョーに何かを返す」というのが作品としてのテーマの1つとしてあるんでしょうか。

森山 そうですね。前回の最終話がジョーと勇利の試合だったので、やっぱりあの試合から始めなきゃなとは思っていたんです。あの試合は2人にとっても最高のものであったし、同様にそれを観て感動した人もいるだろうなっていうところから始まって、あの試合を観た人たちへの影響みたいなものが描いていけると、続編としてやってけるんじゃないかなって。そして話が進んでいくと、ジョー自身も「自分がチャンピオンになったことでこういうふうに思っていた人もいるんだな」と知っていくみたいな。

──「俺が他人の人生変えてたかも」と。

森山 そうですね。

岩井 あの試合はジョーにとっても最高だったっていうことは、あのときは本人も思っていたんでしょうけど、今も同じくらい戦いでわくわくしていてほしいというのはありますね。やっぱり戦いに身を投じてないとすまない性格でしょうから。バラエティ番組で「あの試合は最高だった」って言っているような感じにはなってもらいたくないですよね(笑)。

安元 “伝説のあの一戦”にすがりつく感じですかね。

岩井 そういう感じじゃなくて今をちゃんと生きているジョーが見たいです。そういう意味では、4話まででちゃんともがいているジョーはよかったですね。

──岩井さんは5話以降で期待することであるとか、今後の予想などはありますか。

岩井 最後はバッドエンドでもいいと思っています。戦ってさえいれば、負け続けても別にいいですし。ジョーはとにかく戦っていることで満たされているような感じがするので。

今後は勝ち負けの意味がさらに重要になってくる(安元)

──監督と安元さんから、5話以降の見どころを教えていただけますか。

森山洋

森山 序盤はジョーとチーフというキャラクターの出会いと、それぞれ反応しあうものを描きました。だんだんとその中でフラッシュバックする、ジョーの罪というか、彼が空白の5年間で何があったのかというところは少しぼやかした状態の中でストーリーが進んでいましたが、5話以降はそのぼやかしていた部分と直接対峙しなきゃいけなくなる瞬間が描かれていくので、そのあたりを注目していただくと、より楽しんでいただけるかなと思います。

安元 僕が言っておきたいのは、真辺(克彦)さんと小嶋(健作)さんのおふたりの脚本が、いい意味でアニメらしくないんですよ。とにかく骨太な脚本。おふたりとも、特に真辺さんはビジュアルからして骨太ハードボイルドな感じなんですけど(笑)。そういう人たちが描く「メガロボクス」は前作も普通のアニメとは違った作品になっている思いますし、今作も当然そうなっていくと思います。このおふたりの活躍は、個人的にもずっと注目していきたいです。

──こちらも注目しておきます。

安元 あとは4話までの間でも当然戦いはあったけれども、ここから先、特に最終話に向けていろいろな試合があって、勝ち負けがただの勝ち負けじゃなくなるというか。勝った人が勝ったあと生きていくことの意味、負けた人が生きていくことの意味が大事になります。

──勝ち負けの意味、ですか。

安元 前作だと、勝つとか負けるっていうのは、とてもシンプルなものだったと思うんですよね。「こいつと戦いたい」とか「こいつに勝ちたい」とか。でも今作では、リングに立つまでのプロセスがあって、そのプロセスがあるからこそ勝つとか、試合に負けた人は、負けることがより深い意味を持つんですよ。ジョーだけじゃなくいろいろな人がリングに上がりますけど、なぜリングに上がるのか?という意味や、試合が終わったあとの意味を考えていくと、めちゃくちゃ面白くなると思います。これぐらいしかまだ言えないです。

──ありがとうございます。最後に岩井さん、この作品はどういう人に観てほしいでしょうか。

岩井 みんなに観てもらいたいですよ。とにかくずっと思ってたんですけど、今は宣伝力のあるアニメをみんな観るじゃないですか?

──うーん……(笑)。まあSNSの影響なのか、流行っているアニメをみんな観て、流行っているアニメがさらに流行る、という傾向はあるかもしれません。

安元 お馬さんの娘さん的なやつとかかな?(笑)

岩井 「メガロボクス」は前作のとき、あんまり宣伝してないのかな?と思ったんですよね。

──岩井さん的には、面白さのわりに流行ってないぞ!と主張したくなるぐらい面白いと。

安元 確かに「メガロボクス」は宣伝がぶきっちょなことで一部いじられていた気もします(笑)。俺と細谷くんがやっていたラジオでもわりといじってしまいました(笑)。でも、愛ゆえに!ですよ!

岩井勇気

岩井 中身は本当にいいんです。もっと作品がちゃんと評価されてほしいっていうのはありますね。だからもっと宣伝したらいいのに(笑)。

安元 観てくれた人はみんなそう言ってくださるんですよね。だけど入り口が渋くてなかなか踏み切ってくれない。触れないとよさがわからないのに、キャッチーの“キャ”の字もない。重厚の“重”の字と、渋味の “渋”しかない(笑)。

森山 そのへんがダメなんですよね……(笑)。

安元 ダメじゃないですよ! 我々はそのへんが好きなんですよ。

岩井 だからちょっとタイムラグがある評価になるかもしれないですね。森山監督が亡くなってから評価が上がるとかそういうこともあるかもしれない(笑)。

森山 ははは(笑)。

──いやいや(笑)、そうならないように、観て面白いと感じた人は感想をSNSとかで広めたり、知り合いに勧めたりしてほしいですよね。

岩井 本当にそうですね。皆さんにいろんなところで宣伝してもらいたいです。

安元 今これを読んでて、ちょっとでも「おっ」と思った人、絶対に面白いので観てほしいですね。

左から安元洋貴、森山洋、岩井勇気。