現在放送中のTVアニメ「NOMAD メガロボクス2」。前作で栄光を手にしたジョーだったが、7年後には姿も変わり果て、地下のリングを転々とする落ちぶれた生活を送っていた。しかし流れ着いた先でのメガロボクサー・チーフとの出会いにより、第4話で復活のきっかけを掴んだジョー。今後はボクサーとして復活を遂げるのか、それとも……。
コミックナタリーによる「NOMAD メガロボクス2」特集の2回目は、勇利役の安元洋貴、監督の森山洋、そして「メガロボクス」ファンを公言するハライチ・岩井勇気の鼎談をお届けする。出演者・監督の2人は前作の裏話や今後の展開を語り、“腐り芸人”と呼ばれる岩井は「面白いのに世間の評価が追いついていない」と熱弁しているので、作品のファンはぜひ目を通してほしい。
取材・文 / 松本真一 撮影 / 菊池茂夫
前作のラストは、引き分けの予定だったらしいです(安元)
──岩井さんの配信番組「ハライチ岩井勇気のアニ番」では、2018年の春クールに放送されたアニメランキングの1位として「メガロボクス」を選んでましたね。
岩井勇気 すごく楽しませてもらってました。最初は「あしたのジョー」を現代版にするんだな、ぐらいの感じで観てたんですけど、僕みたいな「ジョー」を知らない世代でも、すごく面白いんですよね。それに僕はボクシングとか格闘技をあまり観ないほうなのですが、動きもわかりやすくて、躍動感もあって楽しく観られました。
──「あしたのジョー」の名前が出ましたが、「メガロボクス」は「ジョー」の連載開始50周年記念作品です。森山監督はビッグタイトルの看板を背負う作品を作るにあたり、やはりプレッシャーはありましたか。
森山洋 そうですね。プレッシャーしかない状態というか(笑)。だけどそこは考えても仕方ないので、できる限りいいものを作って、そのうえでの評価をもらえればいいかなと。
──ファンからの反響は耳には入ってきましたか?
森山 「これは『あしたのジョー』ではないよね」という感想もあったけど、逆に「新しいオリジナル作品として可能性を感じる」という意見も聞きました。あとは音楽をmabanuaさんに担当していただいたんですが、「音楽と映像を一緒に楽しめた」というような意見が、特に海外から多かったと聞きました。
──安元さんが演じる勇利というキャラは、「あしたのジョー」の人気キャラである力石の面影がありましたよね。そこも森山監督と同じく、プレッシャーがあったのでは。
安元洋貴 いや、そういうのは実は、あまりありませんでした。
岩井 へえー、そうなんですね!
安元 オーディションを受けたときに、これは力石というすばらしいキャラクターと同じようなポジションなのかな?とは思っていましたが、プレッシャーを感じても仕方がないというか。「あしたのジョー」とは違う作品の違うキャラだし、とらわれすぎることでまずい方向に行ってもいけないと思ったから、いい意味であまり気にしないようにしました。でも「あしたのジョー」の原作を読んでいてよかったなと思ったシーンもありました。“匂わせ”みたいなシーンもあったじゃないですか。
──例えば終盤で、勇利がギアを外した手術の後遺症で苦しむシーンは、力石の減量を思わせる感じでしたよね。
安元 そうそう。もちろんはっきりとオマージュであるとは言ってないのですが、そこに対しての理解度はあったので、「これはもしかしたらあのシーンなのかな」と、細い紐を辿るように2作品のつながりを考えるのは楽しかったです。
──勇利は力石を思わせるキャラなので、最後は死んでしまうのでは?と予想する視聴者も多かったと思います。
安元 僕は「絶対死ぬんだろうな」と思っていました(笑)。でも最初は、勇利が死ぬエンドもあったんですよね?
森山 そうですね。構想はありました。
岩井 森山監督、僕のラジオでも「ジョー対勇利の結果は引き分けのつもりだったのに、ギリギリでジョーが勝つことになった」という話をしていましたよね。
安元 収録の寸前に、急転直下で変わっていましたよね?
森山 そうですね。そこだけはずっと決めないまま作っていました。
安元 最終回の一番最後に、文字だけで勝敗が出るじゃないですか。あれが最初は引き分け設定だったらしいです。
──確かにラストの「勝者 “ギアレス”ジョー」という文字を見るまでは、どっちが勝ったのかわからないまま決勝後のエピローグが描かれるんですよね。結果は視聴者の想像にゆだねて終わるのかな?という構成だったからこそ、ギリギリで変えることができたんですね。
安元 監督が最後に「ジョーを勝たせたい」となったらしくて。その気持ち、とても素敵だなと思いました。
森山 様々な選択があった中で、最終的には「ジョーに勝ってほしい」という気分になっていきました。
岩井 観ている側としてもそういう話を聞くと、終わりが決まっているものを観ていたんじゃないんだなと。「ジョー、勝て!」って応援してよかったなと思います。
安元 最後にジョーが勝って、前を向けるのもいいなと思いますし。でもそのジョーが「NOMAD メガロボクス2」であんなことになると思わなかったですけど(笑)。
岩井 そうですね(笑)。ビックリしましたね。
続編決定を聞いて
「あの世界にまた行かせてくれるんだ」(岩井)
──その「NOMAD メガロボクス2」の話なんですが、そもそもどういった経緯で続編を作ることになったのか、というところから伺っていいでしょうか。
森山 僕らとしては、きちんと1作目で完結させたつもりでしたので、続編をやろうとはまったく考えていなくて。ただ、同じチームで次にオリジナル作品を動かそうとしていたところ、今ひとつうまくいかずにいました。そんなときにプロデューサーから「前作の海外での評価が高かった」という部分で後押しがあって、それだったら試しに「メガロボクス」の続きを考えてみようということで話を組み立てていったところ、「これだったらいけるんじゃないか?」という方向が見えてきて、そこでオリジナル作品から続編を作ることに切り替えたという感じですね。
──なるほど。大変失礼な言い方になるんですが、「メガロボクス」は観た人の評価は高いものの、流行りの作品とは違うというか……「かわいいキャラがたくさん出てきて、グッズもどんどん出して収益化するぞ」という感じではないと思うんです。
森山 そうですよね。
──だから続編をやると聞いて、意外ではありました。商業的にもちゃんと成功していたんだ、と思ってしまったというか……。
安元 そこはね、海外での配信の影響が大きいです。確かに日本ではそこまで注目されていなかったです。もちろん岩井さんを含む、「これはすごい」と気付いてくれたファンもいましたが。でもあるとき、スタッフさんに配信の数字的なものを見せてもらったら、アメリカのほとんどの州で「メガロボクス」がトップだったんです。我々は、空振りはしてなかったんですよ(笑)。
岩井 へぇー、すごいですね!
安元 僕のフランスの友達も、「こっちでも人気ある」って言ってました。
岩井 えっ、安元さん、フランスにも友達がいるんですか?
安元 ピアスだらけの、180センチの女の子の友達がいるんですよ(笑)。強面だけどいい奴なんです。
森山 続編の「NOMAD メガロボクス2」も、テレビ放送と配信の両方がありますが、今は配信も主流になってきていると思います。海外も含めて配信を観る視聴者層も昔とかなり変わってきているので、そういう状況があったからこそ続編ができたというところはありますね。確かに今の流行りの作風とは違うかもしれないですけれど、こういう作品があってもいいのかなと。
安元 いろいろある中の選択肢の1つですよね。でも2021年のアニメでこの渋さは、勇気しか感じない(笑)。
岩井 最近あんまりないタイプの作品ですよね。
安元 (取材場所に飾ってあるポスターを指して)このキービジュアルもね、すごくアートを感じますけど……。最初に観たとき「何が起きた!?」と思いましたから。まったく話の内容が想像つかなくて。
岩井 確かにすごいですよね、これ。
安元 でも続編やると聞いて、めちゃくちゃうれしかったですよ。自分が愛していた作品の続編が出たときは本当にうれしいものなんですよ。でも今回は、めちゃめちゃうれしいけれど「一体どうやるの?」という疑問も一緒についてきて戸惑うという、抱いたことのない感情でした(笑)。
岩井 へえー。
安元 前作も楽しかったし、ジョー役の細谷(佳正)くんともいまだに「メガロボクス」の話をよくします。でも僕たちの中では前作できれいに終わってたから、細谷くんと2人で「うれしいけど、どんなお話になるんだろう……?」とは言い合っていました。
──岩井さんは「NOMAD メガロボクス2」があると聞いたときはどう思いました?
岩井 いや、僕も「どうやってやるんだろう?」って。前作で完結していたし、森山監督もラジオ番組にゲストで来てもらったとき、続編はやらないような話もしていましたよね?
森山 そうですね。まったく考えていなかったです。
岩井 でも安元さんや細谷さんと会って話を聞くと、出演していた人たちはこの作品めちゃめちゃ好きで、やりたい気持ちがあるんだなとは思っていました。僕も「どうやるの?」と言いつつ、この作品だったら何をやってくれてもいいなと思いましたけどね。だから「あの世界にまた行かせてくれるんだ」とうれしくなりました。ジョーという人物がそのあとどうなったのかをアニメで観たいんで。普通に日常の話とかでもいい(笑)。
安元 ボクシングをやめて普通の日常を送っている可能性もありますからね。
岩井 そんな話だったとしても全然観られますよ。