「あしたのジョー」の連載開始から50周年を記念して制作されるオリジナルアニメ「メガロボクス」。「あしたのジョー」を原案に、八百長試合に身を沈める主人公・ジャンクドッグの運命を描くオリジナルストーリーが近未来、ヒップホップといった要素を交え展開されていく。
アニメの放送開始を記念し、ナタリーではジャンルを横断した特集企画を実施。第1回となるコミックナタリーでは、お笑いコンビ・メイプル超合金のカズレーザーにインタビューを行った。「あしたのジョー」も読んでいたというカズレーザーに放送よりひと足先に「メガロボクス」第1・2話を観てもらい、「男が憧れる泥臭い姿が描かれている」という同作について、印象的だったシーンや今後の展開が気になるポイントを語ってもらった。
取材 / 成田邦洋 文 / 熊瀬哲子 撮影 / 草場雄介
「あしたのジョー」と「メガロボクス」のヒーロー像の違い
──「メガロボクス」は、ボクシングマンガ「あしたのジョー」の連載開始から50周年を記念して制作されるオリジナルアニメです。「あしたのジョー」も原案としてクレジットされていますが、そもそもカズレーザーさんは「あしたのジョー」をご覧になったことはありますか?
アニメは再放送で観たことがあります。僕が小学生の頃って「懐かしアニメベストなんとか」みたいなテレビ番組がよくやってて、力石が死ぬシーンとか山ほど流れてたんですよ(笑)。なので昔からそのイメージはすごいありました。原作は、大学生のときにマンガ喫茶に行って読んだのが初めてだったかなあ。
──「あしたのジョー」は1968年から1973年にかけて連載されていたので、1984年生まれのカズレーザーさんには世代的に隔たりがあったのではないかと思います。
そうですね。僕ら世代だと、ボクシングマンガっていうと「はじめの一歩」なんですよ。だから「一歩」はめっちゃ読んでたんです。確か(週刊少年)マガジンで森川ジョージ先生とちばてつや先生の対談が載っていたことがあって。それをきっかけに、これだけ名作だと言われている「あしたのジョー」も読んでおいたほうがいいだろう、と手に取ったんだと思うんですよね。
──そんなカズレーザーさんに、放送よりひと足先に「メガロボクス」第1・2話をご覧いただいたわけですが。
インタビューに応えるのが「あしたのジョー」世代じゃない僕でいいんですかね?
──「メガロボクス」は「あしたのジョー」ファンにはもちろん、今の若い世代の方々にも観ていただきたいので、カズレーザーさんなりの視点でお話しいただければと思います。第1・2話を観て、率直にどういった感想をお持ちになりましたか?
最初に観たときは、あんまり「あしたのジョー」っぽくないなと思いましたね。それは僕がリアルタイムで「ジョー」を観ていた世代じゃないっていうのもあるかもしれないんですけど。矢吹丈って、過ごしてきた境遇とか彼の人生を見ても、僕からすると結構遠い存在なんですよね。
──と、言うと?
ジョーって言ってみればとんでもねえやつじゃないですか。大人の言うことを聞かなかったり、悪いことして少年院に入れられたり。そういうヒーローって正統派ではないと思うんですよ。それこそ「はじめの一歩」の一歩もすげえ真面目なやつですし(笑)。だけど、「あしたのジョー」が「すげえな、名作だな」って思うのが、ジョーってすごい才能もあるし、超人だと思うし、自分と重なる部分がないからパーソナリティーには全然共感できないんだけど、そんなジョーがピンチになって彼が「負けたくない、勝ちたい」と思う瞬間だけ、自分も共感できるんですよね。すごい遠い存在だったのが、その瞬間に等身大のヒーローになる。手に汗握るし、当時の読者は「立つんだ、ジョー!」って言ったと思うんですよ。
──なるほど。
一方の「メガロボクス」では主人公のジャンクドッグに、セコンドの南部贋作が第1話でも第2話でも「立つな」「もう立たなくていい」と言っていて。そこは印象的でしたし、観ていてすげえ面白いなと思いました。八百長試合っていうこともありましたけど、今の等身大のヒーローには「立て」とは言わないのかなって。最初から「無理して戦うことはない」っていう、そっちのほうが共感しやすいのかなと思ったんですよね。
──「あしたのジョー」でも、無理をして戦うジョーに対して段平が「立たなくていい」といった発言をしていることもありましたが、その築き上げられた関係性とも少し違いますしね。時代を経てヒーロー像が変わってきていると感じた?
もちろん今後どんな展開になるかはわからないですけど、第2話まで観たところではそう感じました。そこは「あしたのジョー」と比べても面白いなと思いましたね。
スチームパンクっぽい世界観がいい
──「メガロボクス」の舞台は、近未来を思わせる独特の世界観で描かれています。
なんというか、ちょっとレトロな未来の描かれ方をしてますよね。だから10年、20年前くらいに描かれた“未来の世界”っていう印象を受けました。でもそれが逆に現実っぽいなと。たぶん僕らが生きている現実も、ここで描かれているような階級社会になるだろうなと思っちゃうし。もちろんアニメだしフィクションなんですけど、絶対的に明るい未来が描けないっていうのが、生々しくて、今っぽいなって思いましたね。あとは世代的なものかもしれないですけど、スチームパンクがめちゃくちゃ好きなんで、そういう意味でもこの「メガロボクス」で描かれている世界観はいいなと思いました。
──確かにサイバーパンクっぽい未来の描かれ方というよりは、スチームパンクに近い印象がありますね。
監督もきっとスチームパンクが好きなんじゃないですか? ラウンドが終わったあとにギアからプシューってバッテリーを取り出すところとか、古いシステムの描き方ってほかにもあるはずなのに、こういう描き方が好きなんだろうなって思いました(笑)。でもわかるんですよ。こっちもそう描いてほしいっていうか。言ってみたらジャンクドッグがバイクに乗っているシーンだって、頭に付けているのはゴーグルじゃなくてもいいわけで。安全性を考えたら本当はヘルメットのほうがいいんだけど、でもやっぱりこの世界の中ではゴーグルを着けていてほしいって思いますもん。
──そういった世界観の中で、ボクシングの戦い方も現代とは変化し、肉体とギア・テクノロジーを融合させた格闘技・メガロボクスとして展開されています。
いやあ、こんなフェアじゃない戦いないですよね! だって選手によって性能が違うんですよ。そんなことあります?(笑) ジャンクドッグは古臭いギアを付けてますけど、こんなの絶対勝てませんよ! 勇利を相手にしても、才能も性能も相手が上なんですよ。どっちかは譲ってくれよって思いますよね。
──(笑)。
メガロニア(メガロボクスのトーナメント)にはきっと勇利クラスがいっぱいいるわけですよね。これからどうなっていくんですか? 倒した相手のパーツがもらえるとか?
──ああ、なるほど(笑)。そうやって最強の装備を手に入れていくストーリーが。
そうでもしないと勝ち目が薄すぎますよね。そもそもジャンクドッグがメガロボクスの大会に出られるのかっていうのも含めて、めちゃくちゃ気になりますよ。
きったねえところで足掻く、泥臭い男の姿に憧れる
──第2話まで観て、今のところ気になるキャラクターはいますか?
一番気になったのは……南部が借金してるすげえおっかないやつがいますよね。
──賭けメガロボクスを取り仕切っている、藤巻という男ですね。
藤巻! なんなんですか? アイツの存在感(笑)。第2話のキッチンでのシーンとか、めちゃくちゃプレッシャーかけてくるじゃないですか。あいつが一番気になりました(笑)。
──第2話で南部が藤巻に借金の返済を待ってほしいと懇願する場面は、わかりやすく“おっかない”感じが演出されていたと思います(笑)。では、ほかにも印象的だったシーンはありますか?
ジャンクドッグがバイクに乗っているシーンで、建物の壁に「特別な人生を認可地区で特別なあなたに」って文字が流れるところが、すげえカッコよかったなって思いました。いい言葉だし、世界観に合ってるなと。「It's a wonderful District life, Not for your average joe.」っていう英訳もよかったし、BGMで流れていたラップとも相まって印象に残ってますね。あとはこの作品って、人間が明確に2種類に描かれてるのがいいですよね。きったねえやつとキレイなやつ。
──(笑)。
僕はあんまり美男美女ばっかりが出てくるアニメって観ないんですよ。アニメって実際の人間が登場するわけじゃないから、キャラクターの造形に自由が利くじゃないですか。その中で美しい人やものばかりを描くって、ちょっとズルいんじゃないかなって思うんですよね。いや、「プリキュア」も観るんですけど。
──はい(笑)。
カッコ悪いやつを応援したいって思ったり、共感できる瞬間があるから心に残るストーリーになるんじゃないかって思ってて。だからきったねえところで足掻いてるジャンクドッグみたいな男が描かれてるといい作品だなって思います。「メガロボクス」はジャンクドッグみたいにホコリまみれになってるやつと、白都ゆき子みたいなキレイごと言うやつとの2種類がいて。その人間の落差というか、対比がいいですよね。持ってない人が“手に入れる”っていうフリも効いてますし。やっぱり泥臭い男の姿って男は憧れるんですよ。
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勇利は本当に力石なのか?
- テレビアニメ「メガロボクス」
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放送情報
- TBS:2018年4月5日(木)より毎週木曜25:28~
- BS-TBS:2018年4月14日(土)より毎週土曜25:00~
- ※BS-TBSの初回放送のみ第1話23:00~、第2話25:00~
- ※放送日時は予告なく変更になる場合あり。
ストーリー
今日も未認可地区の賭け試合のリングに立つメガロボクサー“ジャンクドッグ”。実力はありながらも八百長試合で稼ぐしか生きる術のない自分の“現在(いま)”に苛立っていた。
だが、孤高のチャンピオン・勇利と出会い、メガロボクサーとして、男として、自分の“現在”に挑んでいく──。
スタッフ
- 原案:「あしたのジョー」(原作:高森朝雄、ちばてつや / 講談社刊)
- 監督・コンセプトデザイン:森山洋
- シリーズ構成・脚本:真辺克彦、小嶋健作
- 音楽:mabanua
- キャラクターデザイン:清水洋
- アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
- 製作:メガロボクスプロジェクト
キャスト
- ジャンクドッグ:細谷佳正
- 南部贋作:斎藤志郎
- 勇利:安元洋貴
- 白都ゆき子:森なな子
- サチオ:村瀬迪与
- 藤巻:木下浩之
©高森朝雄・ちばてつや/講談社/メガロボクスプロジェクト
- 連載開始50周年記念
「あしたのジョー展」 -
- 会期:2018年4月28日(土)~5月6日(日)※会期中無休
- 時間:10:00~18:00(入場は閉場の30分前まで)
- 会場:東京・東京ソラマチ® 5F スペース634
- 料金:一般・大学生1200円(1000円)、高校・中学生800円(600円)、小学生以下無料
※()内は前売料金
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著者が選んだ名シーンの原画の数々や、アニメ「あしたのジョー」「あしたのジョー2」はもちろん、新作「メガロボクス」の資料を一挙公開。人気作家からのトリビュートイラストやメッセージも展示される。
- カズレーザー
- 1984年7月4日生まれ。埼玉県出身。2012年に安藤なつとお笑いコンビ・メイプル超合金を結成。「M-1グランプリ2015」では決勝に進出。
2018年7月13日更新