アニメ「魔道祖師 完結編」日本語吹替版が、全12話で放送中だ。原作は中国のWeb上で連載された墨香銅臭の大河ファンタジー小説「魔道祖師」。日本ではこれまでアニメ第1期にあたる「前塵編」と、第2期となる「羨雲編」、そして実写ドラマ「陳情令」の字幕版・日本語吹替版がそれぞれ放送されてきた。アニメのシリーズ最終章「完結編」では、いよいよ魏無羨と藍忘機の旅がクライマックスを迎え、鬼腕の正体、仙界に渦巻く陰謀、真の黒幕といったすべての謎が解き明かされる。
コミックナタリーでは、「魔道祖師 完結編」日本語吹替版の放送を記念した特集を展開。原作はもちろん、実写ドラマ「陳情令」、ラジオドラマも網羅しているという小説家・綿矢りさにインタビューを行い、小説家の目線から見た作品の見どころ、うまいと思った描き方、キャラクターの魅力などを語ってもらった。また記事末にはアニメ・ドラマで声をあてた魏無羨役の木村良平、藍忘機役の立花慎之介に綿矢が送った質問と、2人からの回答、メッセージも掲載しているのでお見逃しなく。
※本記事にはアニメ「魔道祖師 完結編」や原作小説のネタバレが含まれます。
取材・文 / カニミソ
1人ひとりに人間ドラマがあるのが、深く伝わってきた
──綿矢さんは著書「あのころなにしてた?」の刊行記念・デビュー20周年フェアで、オススメ5選の1冊に、「魔道祖師」日本語翻訳版をセレクトしていましたよね。まずはどのようにして「魔道祖師」と出会ったのかを教えていただけますか?
「魔道祖師」を知ったのは、面白い中国のネット小説があると話題になっていたのがきっかけでした。すごく読みたかったんですけど、読むためにはサイトへの有料登録が必要だったのと、原文が難しくて読めなくて。それから中国でドラマ化されて、日本でも観られるようになったのでまずはドラマから入りました。ドラマははじめ軽く人気がある程度だったんですけど、一気に火が付いて、たくさんの人に作品が知れわたるようになって。私が原作の小説に本気で触れられたのは、日本語の翻訳小説が出てからですね。
──翻訳版を読んでどんなところに魅力を感じましたか?
ドラマを観ていたのでストーリーは把握していたんですけど、原作を読んだら、さらに詳しくどういう世界設定なのかがわかって。ドラマのときにはよくわからなかった部分が理解できるようになりました。あと主人公の魏無羨(ウェイ・ウーシエン)、藍忘機(ラン・ワンジー)以外の登場人物たちもとても生き生きと描かれていたので、1人ひとりに人間ドラマがあるんだなと、深く伝わってきたのがよかったです。
──いろいろ補完できたと。原作で特に心に残ったエピソードについてお聞かせください。
魏無羨が岐山温氏(きざんウェンし)の残党をかくまって、かつて自分が突き落とされた埋葬地・乱葬崗(らんそうこう)にコミューンを作りはじめますよね。最悪の結果になってしまうのを知っている分、余計にそのあたりのシーンが心に残るっていうか。やっぱり魏無羨はこういう疑似家族……自分の家族を持ちたかったのかなって、原作を読んで特にそう感じました。魏無羨は幼少時代に両親を殺されていたりするので、そうしたくなる気持ちが、彼のそれまでの積み重ねでわかるんですよね。純粋に助けようと思って動いたことがうまくいかなくって、結局はみんなを守るために自ら編み出した法具・陰虎符も制御できなくなってしまうっていうのが、本当に切ないなって思います。
──アニメ版は今回初めて視聴されたそうですが、ご覧になっていかがでしたか?
まず空間の描かれ方にすごくびっくりしました。剣に乗って上空を飛行しているときの、地上の街の風景だとか、建物の中だとか、人物以外の部分が緻密に描き込まれていて。キャラクターが凝っているアニメはたくさん観てきたんですけど、空間の広さが際立つアニメはあまり観たことがなかったので、見応えあるなと思いましたね。あと戦闘シーンの効果音も映画のように臨場感があって。全体的に「魔道祖師」の世界観を作り上げているんだなって感じました。
アニメを観て、初めて江澄を推すようになりました
──「魔道祖師」にはドラマチックなキャラクターがたくさん登場しますが、綿矢さんの最推しは誰ですか?
清河聶氏(せいがニエし)の聶懐桑(ニエ・ホワイサン)と、彼のお兄さん・赤鋒尊(せきほうそん)ですね。対照的な性格の兄弟なのに支え合って生きてきた感じがします。特に赤鋒尊の正義感の強さや猛々しさ、刀に蝕まれて支配されていく感じがすごく好きで。
──双聶推しだったとは、意外です!
でもアニメだと、魏無羨と兄弟同然に育つ江澄(ジャン・チョン)推しなんですよ。声を緑川光さんがあてているじゃないですか。私は恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル Girl's Side」で、葉月珪というキャラクターを演じてらした頃から緑川さんの大ファンで。本当に世代そのものなので、「魔道祖師」でまた触れることができてうれしかったです。アニメを観て、初めて江澄を推すようになりました(笑)。
──(笑)。江澄もなかなかしんどい運命を辿りますよね。
家族皆殺しになってますもんね。魏無羨も「お前が宗主になったら俺はずっとお前を支える」って断言していたのに、いろいろあって、その約束がうやむやになってしまって。踏んだり蹴ったりですよね。江澄は報われない人だなって思います。
──声優さんの演技もアニメの見どころのひとつかと思うのですが、木村良平さん演じる魏無羨、立花慎之介さん演じる藍忘機の演技を初めて聞いた印象はどうでしたか?
木村さんの演技は軽快なところと、真面目にしゃべるところとで落差があって、魏無羨の持つ二面性みたいなものが、すごくよく表れているなと思いました。声が高くてよく通るんですけど、だからといって、なよなよしている感じが全然なくて合っているなって。藍忘機のほうはやっぱり口数が少ないから、立花さんはきっと演じていて難しいだろうなと思ったんですけど、落ち着いてよく響く声で話されるので、やっぱり一言ひとことに重みがあるというか、単なる静かな人じゃない、威厳のある感じがしました。
──アニメを観て、イメージが変わったキャラクターはいますか?
魏無羨は原作やドラマでは、もうちょっとひょうきんな感じだった気がするんですけど、アニメでは少し大人びているというか。しゃべり方は軽快なんですが、沈着冷静さや頭のキレのよさが際立っていて、こういう魏無羨の描き方もあるんだなって思いました。あとイメージが変わったというのとは別かもしれないんですけど、アニメでは第1話からロバのリンゴちゃんが出てくるじゃないですか。魏無羨って子供の頃、ロバに乗せてもらって両親と旅をしていましたよね。転生しても繰り返しているのが本当になんかこう……その時代に戻りたいんですかね。原作でもドラマでもそうでしたけど、リンゴちゃんに乗るっていうのが彼の中ですごく意味のあることなんだろうなって気付かされました。
──リンゴちゃん、確かに!
「魔道祖師」は幼少時代に親が殺されているキャラクターも多いですが、そのつらい経験があったせいで闇落ちする人間になるか、そういう犠牲者をもう出さないように努力する人間になるか、どの登場人物も初期の段階で分岐点があるんですよね。中国小説特有のことなのか、「魔道祖師」の特徴なのかはわからないんですけど、そういう描かれ方って、あまり日本ではされないなと。
──こういう過去を背負っているから、こういう道を辿ったというのが具体的ですよね。しかも「魔道祖師」の場合だと過去と現在を行ったり来たりして、描かれるという。
うんそう、入り乱れる。そりゃ物語も分厚くなるわってくらいの時間軸の捉え方をしていて、ダイナミックですよね、本当に。そこが好きです。1回観ただけだとあまり理解できないかもしれないけど、2回目くらいから藍忘機の言葉に重みを感じて沁みたりとか、何回も楽しめる感じもいいですね。
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薛洋は闇落ちした“闇魏無羨”だなって