岩本ナオ画業15周年特集 斉藤壮馬インタビュー|「町でうわさの天狗の子」「マロニエ王国の七人の騎士」……いろんな“愛”のおすそ分けをしてくれる作品たち

瞬ちゃんは……やっぱり石川界人くんかな

──斉藤さんはマンガを読んでいて、「もしアニメになったらこの役を演じてみたい」と考えることはあるんですか?

斉藤壮馬

考えますね。いち読者として好きな作品やキャラクターと、「この役をやりたい」っていうのはまたちょっと違ったりするんですけど。「天狗の子」で自分が演じるとしたら……っていうのは、意外と思いつかないんですよね。あ、でも三郎坊はキャラクターとしても好きですし、こういった飄々とした役どころを演じるのも好きなのでやってみたいですね。

──例えばこのキャラクターはこの人の声が合うんじゃないか、なんてことを考えたりもしますか?

瞬ちゃんは……やっぱり石川界人くんじゃないですかね。

──ああ、わかります。こういった朴念仁っぽいキャラクターを魅力的に演じてくれそうです。

そうですね、でも芯の強さもある、みたいな。タケルくんは、僕は(島﨑)信長さんのイメージでした。女性陣はあまり想像しながら読んでいませんでしたが……ナチュラルなお芝居ができる人が合うのかもしれないですね。

「マロニエ王国の七人の騎士」より。七人兄弟はそれぞれ「眠くない」「寒がりや」「ハラペコ」と、一風変わった名前が付けられている。

──「マロニエ」はメインとなる男子キャラクターが7人いますが、この7人だったらいかがでしょう?

眠くない(七人兄弟の長男)は、彼のお話がすごく素敵だったので演じてみたいと思いました。3巻のエレオノーラに「先に言って」って言われたところ、めちゃめちゃいいですよね。眠くないがちゃんと自分から思いを告白するっていうのが、最高だろうと。ここはめっちゃ泣きました。

──エレオノーラがヤキモキしているシーンはずっと描かれていましたが、眠くないは顔に出ない分、どう感じているかがわからなかったですからね。実は彼も昔からエレオノーラのことが好きだったという……。けっこうな執念すら感じるほどでしたが。

ねえ。まさか4歳のときから?って。しかも最初に好きになった理由が「国で一番目が大きくてかわいいから」という(笑)。僕、エレオノーラがめちゃめちゃ好きなんです。一緒にご飯を食べたら楽しそうだなって。(エレオノーラが涙を流すシーンを指差し)ここ! 本当にかわいい。本当にめちゃくちゃかわいい。……いやあ、やっぱり眠くないは演じてみたいな(笑)。そんな眠くないさんもエレオノーラを助けに来たときはめっちゃカッコいいですからね! 「夜(僕)がずっと前から彼女のものだから 君は勝てない」。この、“夜”と書いて“僕”と読む。これなのよ!みたいな。

──(笑)。

本当に3巻はぐっときました。「金の国 水の国」でもちょっと感じていたんですけど、もはや「マロニエ」はマンガというより、神話なんじゃないかという感じがしていて。計算して描かれていたとしても、無意識で描かれていたとしても、人間が持っている大きな物語みたいなものに接続されているような、何か大いなる文脈のようなものをすごく感じるんです。最初にタイトルを拝見したときは、もっとポップな感じでドタバタ系のお話が描かれるのかなと思いきや、とても壮大な話が繰り広げられていますよね。先生がどういうところから着想を得て物語を紡がれているかというのは、すごく気になります。だって、普通キャラクターに「眠くない」なんて名前を付けないじゃないですか。岩本先生は一般的な常識や、大多数はこう作るっていう、僕らが勝手に考えているルールをものすごく軽やかに飛び越えて、物語を紡いでいらっしゃいますよね。そこが本当にすごいなと思います。

──3巻では長男の眠くない編がひと区切りし、新たに五男の獣使い編がスタートしました。「マロニエ」に関してはとにかく3巻まで読んでほしいですよね。

いや、もう、それは絶対です! まだ読んでない人は、僕が買ってあげるので読んでください。本当に(笑)。

もっと人に優しくあろうと、自然に思わせてくれる

──先ほどエレオノーラが好きだというお話がありましたが、全作品の中で好きな女性キャラクター、男性キャラクターを挙げるとしたら?

「金の国 水の国」より、サーラとナランバヤル。

全作品かあ……うーん……。組み合わせでいくと、やっぱり「金の国 水の国」のサーラとナランバヤルは好きですね。不器用ながらも、目の前の人のことを受け入れて愛する2人が素敵だなと。謁見に行くところでも、まずお互いに相手のことを心配していますよね。相手のことを思いやって「自分は大丈夫です」と言えるのは、なかなか簡単にできることではないなと。ベストカップルを選ぶとしたらこの2人かなと思います。岩本先生の作品を読んでいると、自分ももっと人を愛そうとか、人に寛大になろう、優しくあろうみたいなことを自然に思わせられるんですよね。

──岩本さんの作品に出てくるキャラクターは、最初の頃はちょっと嫌な印象に思えても、結果的に愛しく思える形で描かれているところも魅力なのかなと感じます。

あまり記号的な表現をされないというか、例えばクールキャラにクールなことだけを言わせるのではなく、人間としてのメリハリみたいなものを描いていらっしゃいますよね。そういったところに単なるキャラクターというものを超えて、何か親しみやすさを感じるんじゃないかと思います。ただ、「マロニエ」に関して言うと、その良さを踏まえたうえで、さらにもう1歩踏み込んだところをやろうとなさっているのかなと。それでいうと宰相さんが気になっていて。いやあなた、「満たされたい……」とか言ってる場合じゃないでしょうっていう。

──(笑)。

「マロニエ王国の七人の騎士」より、マロニエ王国の宰相。彼が今後どのように物語に関わってくるのか注目だ。

彼あたりがどう物語の中枢に関わってくるのかは非常に気になりますね。それが悪意なのか、天然なのか、あるいは別の意図があるのか。まだまだ謎が多いので楽しみです。

──岩本さんの最長連載作として「天狗の子」があり、そのあと「金の国 水の国」「マロニエ」と発表されてきていますが、画面としても物語としてもスケール感が増して、さらに世界観を緻密に作り込まれているのを感じます。

そうですよね。とはいえ、読み心地としては難解なわけではなく、ストーリーを追ってもいいし、キャラクターに感情移入してもいいしと、非常に読みやすく、読みごたえがある作りになっている。繰り返しになりますが、本当に新たな神話を生み出しつつあるんじゃないかなという気さえします。というか、そういったジャンル分けすらも意味などなくて、完結したときにどういう物語が紡がれているのか、今はまったく読めない。その物語が作られていく過程をリアルタイムで追えるというのもうれしいですね。

──「マロニエ」に関しては岩本さんご自身が“兄弟萌え”があるそうで、読者さんと一緒に楽しめるよう、サービス精神旺盛に描かれているそうです。エンタメ要素も満載ですし、「七人兄弟の誰推し?」なんていう楽しみ方もできる作品だと感じます。

確かにそうですよね。実際、誰が人気出るんだろう。

──今は圧倒的に眠くないが人気だそうです。

ああ、今だと描かれているエピソードとしてもそうなりますよね。でもきっと、獣使いの話が終わったときには獣使いも人気が出るんだろうなあ。