コミックナタリー Power Push - マーガレットコミックス特集 あの頃も、これからも!一生少女マンガ宣言 番外編 マーガレット&別冊マーガレット編集長インタビュー
まだまだ少女マンガを卒業させない
2015年5月から12月まで7カ月にわたり、マーガレットと別冊マーガレット(ともに集英社)の作家にインタビューを行ってきた本連載。番外編として、マーガレット編集長の河野万里子氏、別冊マーガレット編集長の今井孝昭氏に登場いただき、2誌の現在とこれからについて語ってもらった。
長きにわたり女性ファッション誌に在籍していた河野氏と、週刊ヤングジャンプ編集部で青年マンガに携わってきた今井氏。2人が少女マンガ界に吹き起こす新たな風とは。また2誌の現在のトレンドと、今後のイチオシ作品についても聞いた。
取材・文 / 坂本恵
テーマの面白さから「宇宙を駆けるよだか」連載へ
──まずはおふたりの経歴から伺えればと思います。別冊マーガレット編集長の今井さんからお聞きできますか。
今井 僕が最初に入ったのはベアーズクラブっていう青年誌だったんですよ。ただ休刊になっちゃったので僕は最初の1年くらいしかいなくて。その後ヤングジャンプに異動になって、そこからは2012年までの23年間、ずっとヤンジャンです。別マは今、3年半くらいですね。
──今井さんはヤンジャンでもずっと編集長をされていましたよね。青年誌から突如少女マンガ誌へと移られて、ギャップを感じたりはされましたか。
今井 僕は「GANTZ」の奥浩哉さんとか、SF的なにおいがある作品・作家が好きで何人か担当してきたんですよ。青年誌って企画先行で連載を起こしやすい面がありますが、それとは違って少女マンガは、「ハートのエンターテイメント」なので、パッケージ主導ではうまくいかない面があるように感じます。
──「◯◯マンガ」という言い方をしにくいものが多いですよね。
今井 そうそう。少女マンガというのは、恋愛とか友情とか、そういったものについてかなり細分化して考えるんです。人間の深い心を描くというのを僕は青年誌ではやってこなかったので、すごく新鮮ですね。
──今井さんの23年間のヤンジャンイズムが、今の別マに生きていたりはするんでしょうか。
今井 いやあ、全然、生きてはいないと思います(笑)。まあ「こういう企画があってもいいんじゃない」って言ったりはしますけどね。例えば「宇宙を駆けるよだか」の川端志季さんという作家がいますけど、連載させるには早いんじゃないかという声もありましたが、僕は彼女が持っているテーマは面白いかなと感じたので「よだか」の連載に至りました。
あふれる少女マンガ愛を持ってファッション誌からマンガ畑へ
──ああ、なるほど。確かに「よだか」は別マの本流とは少し違う感じがします。ではマーガレット編集長・河野さんの経歴も伺えますか。
河野 私は入社してから17年、ずっと女性ファッション誌にいたんです。最初はSeventeenに12年、次にPINKYで5年。その後、ちょっと思うところがあってマンガ誌に異動させてもらって。それからコーラス、Cocohanaに5年。で、一昨年の11月にマーガレットに来ました。だからマンガ編集者としては6年くらいなんですよ。
──ご自分でマンガ誌に異動願いを。
河野 そうですね。ファッション誌はすごく楽しかったし今でも大好きなんですけど、もうちょっと読者の人生に関わるようなものを作りたいなと思って。例えばそれを読んで一生忘れないとか、どこか影響されて生きていくことって、情報誌とかファッション誌だとなかなか難しかったりする。でももしかしたら、ストーリーならそういうことができるんじゃないかと思って。せっかく集英社という総合出版社に入ったんだし、1回マンガをやってみたいと思ったんです。
今井 河野は昔から少女マンガが大好きだったんだよね。
河野 そうなんです。最初に買ってもらった少女マンガは陸奥A子先生の短編集で、「樫の木陰でお昼寝すれば」っていうりぼんコミックスだったんですけど、最初に読んだマンガって覚えてるものですよね。この間、マーガレット展で北九州市漫画ミュージアムに行ったときに単行本を見つけたから読んでみたら、コマとかセリフとかすごく覚えてました。その短編集で大好きだったのが「ミルキー・セピア物語」ってお話。ホットミルクにウイスキーをちょっとだけ垂らした、ミルキー・セピアっていう飲み物が出てくるんですけど、それにすっごく憧れて、夜中に親の目を盗んで作ってみたりしてました(笑)。くらもちふさこ先生も大好きで、「東京のカサノバ」をすごく愛していて。あとは槇村さとる先生の「ダンシング・ゼネレーション」とか「N★Yバード」とか、本当に何度も読み返しましたね。
少女マンガ育ちの少女マンガ家をもう一度増やしたい
──河野さんの少女マンガ愛がものすごく伝わってきます。Cocohanaからマーガレットに異動ということは、今井さんほどのギャップは感じられませんでしたか?
河野 最初に在籍していたSeventeenの読者層が10代で、次のPINKYは20代。で、コーラスとCocohanaはアラサー向けとしているので30代だとして、だんだんと上がってきてたんですけど、またマーガレットで10代に戻ったんです。今井さんのヤンジャンから別マほどじゃないですけど(笑)、ここに来て若い雑誌とはどうしよう、と自分なりに思いましたね。でもやってみると楽しいんですよ、若い雑誌って。というのも、作家さんの原石がすごく集まってるんです。投稿作でも、レベルはまちまちだとしても面白い人がいますから。
今井 なかなか上の雑誌にはいないもんね。まず新人がいないから。
──ああ、年齢層が高い雑誌だと、下の雑誌から移籍してくる作家さんもいらっしゃいますし。
河野 純粋に投稿数も違うし、若い雑誌だとトップで描いている作家さん自体も若いじゃないですか。だから体力もあるし、伸びていく力もすごくあるので。上の雑誌でも、いろいろ描いてきて「ここで人生の代表作を描きましょう」というレベルの作家さんとお仕事をするのもすごく面白いんですけど、それとはまた違う面白さがありますね。新鮮でした。
──マーガレット、別マに投稿する若い新人作家さんの傾向はありますか?
今井 影響を受けたマンガが変わってきているなと感じることは多いですね。例えば少女マンガって、心象風景だったりメタファーだったりの描き方が多彩ですが、いろんな表現方法を駆使せずにモノローグだけで全部説明しちゃう新人さんがいる。それって少年マンガにおける対決シーンの作り方から影響を受けているのかもと思ったりします。少年マンガでバトルを描くときって、カッコいい絵でカッコいいアクションを描かないといけないから、いろんな要素の説明を一気にしちゃったほうが効率いいんですよ。でもそれを少女マンガでやってしまったらダメだと思います。マンガの世界はこの30年で、女性読者が少年誌や青年誌を読むのが当たり前になってきました。だから生まれてくるマンガの手法や文化が変わるのは、仕方がない面もありますが。
河野 今って、少年マンガ育ちの少女マンガ家さんがすごく多いんですよ。それを戻したいんです。私は少女マンガラバーなので、もうちょっと少女マンガを元気にしたい。
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