「うる星やつら」「らんま1/2」「犬夜叉」「境界のRINNE」など、幅広いジャンルのヒット作を数多く生み出し続けてきた高橋留美子。彼女が2019年5月より週刊少年サンデー(小学館)で連載している最新作「MAO」は、“るーみっくわーるど”において「犬夜叉」からおよそ11年ぶりとなるシリアス怪奇ロマンと謳われている。
コミックナタリーは声優の梶裕貴が高橋留美子作品のファンだという噂を聞きつけ、「MAO」3巻の発売に合わせてインタビューを実施。梶は「熱狂的なファンの方々に比べたら自分はまだまだ……」と謙遜しながらも、高橋留美子作品との出会いやその魅力をじっくりと語ってくれた。さらには自身が声優を目指し始めたタイミングで、「犬夜叉」が大きく影響していたことも明らかに。そんな梶は「犬夜叉」の系譜を継ぐ「MAO」をどう読んだのか聞くと、まず「犬の次は猫がきたか!(笑)」と衝撃を受けたそうで……。最後には高橋からのサプライズプレゼントを受け取り、梶が大感激する一幕もあるのでお見逃しなく。
取材・文 / 西村萌 撮影 / 曽我美芽
黄葉菜花(きばなのか)は小学1年生のとき、家族全員が事故に巻き込まれるも自分だけが生き残った。中学3年生になった菜花がふと事故現場へ足を踏み入れると、なぜか大正時代へとタイムスリップ。そこで出会った陰陽師の少年・摩緒(まお)に「お前、妖(あやかし)だろう」と言われ、翌日から身体能力が異常なほどにパワーアップしてしまう。菜花は再び大正時代へ赴き、自身の謎を解き明かすため摩緒と行動をともにすることを決意。8年前に起きた事故の真相、そして摩緒と自分にも何やら関わっている“猫鬼(びょうき)”の正体に迫っていく。
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900年生きているという陰陽師の少年。最凶の蠱毒(こどく)である“猫鬼”に呪われている。その呪いを断ち切るため、今もなお“猫鬼”を捜索中。
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運動が苦手な中学3年生。小学校1年生のとき、商店街で起きた陥没事故で死にかけた。ある日突然、シャッター街のゲートをくぐると大正時代にタイムスリップできるように。
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摩緒のもとで下働きをする式神。
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摩緒を呪い続ける猫の蠱毒。蠱毒とはクモや毒虫などをひとつの壺の中に入れて殺し合わせ、最後に残った1匹がなるものだが、猫鬼もまた多くの猫が喰いあった末に生まれた。陰陽師の秘伝書を喰らったことで、寿命を操る術を会得している。
声優の夢を叶えるため「犬夜叉」で練習していました
──実は今回ご出演をお願いしたのは、梶さんがとあるアニメの打ち上げで高橋留美子作品が好きとおっしゃっていたことを小耳に挟んだからなんです。
あっ、そうなんですか。よく小耳に挟みましたね!(笑)
──勝手に聞いてしまってすみません(笑)。でも今まで雑誌やWebなどで梶さんが留美子先生についてコメントされたことってほぼなかったと思うのですが、ファンだという情報は本当ですか?
恐れながら……本当です。いわゆる“るーみっくわーるど”って、本当に多くの皆さんに愛されていると思うので、熱狂的な方々と比べると「自分はまだまだ……」という気持ちが強いんです。それでも、高橋留美子先生の作品には子供の頃からずっと親しんできました。なので、今回インタビューのご依頼をいただけたのもすごくうれしかったですね。
──特に思い入れの深い作品はどれですか?
「らんま1/2」も大好きですけど、やっぱり「犬夜叉」の影響が大きいですかね。アニメ放送当時は毎週観ていましたし、登下校のときに友達みんなでオープニングテーマやエンディングテーマを歌ったりしていました(笑)。放送していた時期が、ちょうど自分が声優を目指し始めたタイミングと近かったこともあり、アニメというもの自体にも敏感でしたし、「『らんま1/2』と同じ先生の作品なんだ!」という興味も後押ししていたんだと思います。
──アニメ1期の放送が2000年に始まったので、梶さんが中学生のときですね。
当時は声優になるための練習としていろんなマンガを音読したり、アニメや吹き替え映画のセリフを書き起こして真似したりしてましたが、「犬夜叉」もそういった形で触れた作品のひとつで。だから自分の中のアニメキャラクターの主人公像っていうものは、(山口)勝平さんが演じられていたあの犬夜叉の印象が強いかもしれません。
──「犬夜叉」のストーリーにはどういったところに魅力を感じていましたか?
高橋留美子先生ならではのコメディ要素やドタバタ感を残しつつ、「らんま1/2」とはまた違うシリアスな物語というところにのめり込みました。キャラクターの人数も多いですけど、1人ひとりにしっかりとドラマがあって、最終的には敵にまでも感情移入してしまうという。
──犬夜叉にとって最大の敵である奈落は、人間の野盗・鬼蜘蛛の邪心に多くの妖怪が取り憑いて生まれた半妖ですが、もともとは桔梗へ淡い思いを抱いていました。
奈落(鬼蜘蛛)にもいろんな感情があったと思うと……やはり完全には憎めないですよね。犬夜叉とかごめ、弥勒と珊瑚、殺生丸と神楽、それぞれの間で描かれている繊細な感情表現も惹かれた要素です。
──そういえば事前にマネージャーさんから少しお伺いしていたんですが、梶さんが一番お好きなキャラクターは弥勒だとか。
うーん……正直、一番を選ぶのが本っ当に難しくって! 神楽も好きなんですよね。まずは見た目も好きなんですけど(笑)、なんというかギャップ萌えにやられました。最初は奈落の分身として生まれた1人の敵キャラクターだったんですけど、物語が展開していく中でさまざまなことを経験し、次第に“人の心”のようなものが備わってくる。気付けばいつの間にか、神楽の登場を楽しみにしている自分がいて。彼女の命が危なくなるシーンがあるとドキドキしたり、助かったらホッとしたりと、その都度一喜一憂していました(笑)。彼女と並行して、殺生丸も序盤の冷酷なイメージからだいぶ変わりましたもんね。七宝もどんなときでもかわいくって、シリアスなドラマが続く中で、彼の存在にはとても癒されました。……こんな感じで、もう本当に、挙げだすとキリがないんですけど。
──最初に挙げていた弥勒については……?
そうそう、忘れてました(笑)。弥勒は、いわゆる“ナンパな生臭坊主”と言いますか、それって男としてどうなのっていう部分もありつつ……でも最終的にはすべてひっくるめてカッコいいところが好きですね。珊瑚にプロポーズするシーンでも、それまでほかの女の子にデレデレしてお尻をなでなでしてたくせに、急にさらっと真剣な顔で本心を伝える。そういうところが弥勒ってズルいんです!(笑)
──あはは(笑)。あのプロポーズのシーンは、ツーっと涙を流す珊瑚の表情も印象的でしたね。
「犬夜叉」には見た目だけじゃなく心の部分で、誰でも共感できるような男のカッコよさとか、女のかわいさというものがちりばめられていた気がします。かといって、弥勒を全部マネしちゃうと大変なことになってしまいますけど(笑)……間違いなく憧れる人間像だなと思いますね。
摩緒、菜花、乙弥のバランスは例えると魚介のつけ麺
──高橋留美子先生の最新作「MAO」は、「犬夜叉」に継ぐシリアス怪奇ロマンと謳われています。平安時代から大正時代にかけて生きているという陰陽師の摩緒が、自分を呪った化物・猫鬼を探し続けることで物語が紡がれていく本作。最初に読んだときはどう思われましたか?
まずはなんといっても、高橋留美子先生が現在も変わらず週刊連載で描き続けていらっしゃるというその事実が、なんと尊く素晴らしいことか。体力にしても精神力にしても、新しいものを生み出し続けるというのは、本当に大変なこと。そんな中で、僕たちにまた新たな“るーみっくわーるど”を見せてくださっている。自分が子供の頃からお世話になっていた……もっと言えば生まれる前から活躍されていた作家さんの最新作を、大人になった今でも毎週読むことができるってなんて素敵なことなんだろう。来週は何が起きるんだろう、次の巻はどうなるんだろうと、高橋留美子先生の作品でワクワクし続けることができるのが、本当に感慨深いなと思いましたね。
──高橋留美子先生は1978年に「うる星やつら」でデビューしてから40年以上経っていますが、現在もバリバリ現役で描き続けるバイタリティが素晴らしいですよね。
「MAO」は大正時代がメインの舞台でありつつ、ことの発端はそこからさらに900年前まで遡るという世界観。そんなところも、犬夜叉と桔梗の物語から始まった「犬夜叉」と近いものがあるのかなと思いました。何より、犬の次は猫がきたか!という(笑)。まだまだ謎がたくさんあって、特に単行本だと、次巻への引きに毎回ドキドキさせられる。ドラマチック全開になっているなという印象を受けました。
──その中で、心に残っているシーンはどこですか?
まずタイトルが「MAO」というところで、摩緒の初登場シーン。高橋留美子先生の作品って「犬夜叉」にしても「らんま1/2」にしても、主人公の名前がタイトルになることが多かったじゃないですか。最初はヒロインの菜花からドラマが始まっていくわけですけど、今度はどういう主人公と出会えるんだろうってワクワクしながらページを読み進めていって。菜花が現代から大正時代にタイムスリップして、ようやく摩緒が出てきたときは、「なるほど、今回はこういうタイプできたか!」と。ちょっとスカしてる感じもありつつ、菜花との掛け合いの中で見られるユーモアに、高橋留美子先生らしさを感じて、その安定感にホッとしました。
──高橋留美子作品の主人公って、犬夜叉やらんまのように割と感情的なタイプが多かったと思うんですけど、それに比べると摩緒は陰陽師という職業柄もあって落ち着いていますよね。
そうですね。でもかといって、孤立してるわけでもないし冷たいわけでもない。菜花との日常会話での雰囲気を見ていると、意外と天然ボケのジャンルに入るのかな、とも思いました。
──一方の菜花は女子中学生らしいというか、現代っ子っぽさがあります。摩緒に「お前、妖だろう」なんて突然言われた際には、「ヘンな人だ」と言って早々に立ち去ってしまったり。
そう、今っぽいですよね! 作品が描かれている年代や時代感って、そのヒロインを見るとわかりやすいなと思います。ボーイッシュで活発な女の子という点ではかごめやあかねと同じグループなんですけど、また印象がちょっと違う。猫鬼との関わりはさておき、今この時代において、すごく現実味あるキャラクターのように思います。まだ物語が序盤ということもありますけど、敵と戦う覚悟だとか、摩緒についていこうという決意だとか、そこまで踏み切れているわけじゃない。当然、普通の人間……ましてや中学生がその状況に置かれたら、どうしても迷いはあると思うので。
──高橋留美子先生は昨年11月に刊行された「漫画家本vol.14 高橋留美子本」で、菜花について「あくまでも物語を動かすのは摩緒で、彼女はそのバディとして関わっていく予定」とおっしゃっていました。
摩緒と菜花ってすごくバランスがいいペアだなと思います。やっぱり犬夜叉にはかごめ、乱馬にはあかねというふうに、絶妙な組み合わせでできている。高橋留美子先生の美的センスが最大限に表れている部分だなと感じています。
──その2人に加え、摩緒のもとで下働きをする式神の乙弥も重要なキャラクターです。
あの、目が印象的な(笑)。乙弥に関しても、主人公が摩緒だからこそのキャラクターだなと思います。グイグイと前に出すぎていないと言ったらいいんでしょうか。魚介のつけ麺のように、本当はしっかり濃い味なんですけど、最初はあっさりと感じられてうまく調和が取れている、みたいな(笑)。もし乙弥の代わりに、七宝とか冥加がいたとしたらちょっと強いじゃないですか。
──豚骨くらいガツンときそうですね。
「犬夜叉」では、犬夜叉がさらに濃かったからバランスがとれていたと思うんですよね。もし摩緒の隣に七宝がいたら、七宝に全部の話を持っていかれちゃいそう(笑)。作品それぞれで、主人公とピッタリ合うキャラクターを生み出されていらっしゃるんだなと改めて感じます。