「マンガ5」日野晃博(レベルファイブ 代表取締役社長 / CEO)インタビュー|ゲームの枠を超えたレベルファイブの新たな挑戦 「マンガ5」が目指すのはマンガサイトじゃない

最初から紙にするつもりはないんです

──さてここからは、マンガ5編集チームの岩渕さんにもご参加いただき、連載中の作品についていくつかお話を伺えればと思います。まず目を引くのは、竹谷州史さん作画の「The MapMakers」でしょうか。原作は「海猿」「トッキュー!!」などの原案・原作者として知られるヒットメーカー・小森陽一さんが務めています。

小森陽一(原作)、竹谷州史(作画)「The MapMakers」
「The MapMakers」小森陽一(原作)、竹谷州史(作画)

「マップメーカー」、それは惑星を調査して宇宙を切り拓く、誇り高き選ばれた者たち! 一流のマップメーカーであるウェッジウッドは、ある事件に愛する家族が巻き込まれ、それまでの日常が一変する……。SFアクション大作、開幕!!

日野 小森さんとは僕、ずっと前からの友人なんですよ。普段から好きな作品を語り合ったり、お互いがやっていることをあれやこれや言い合ったりしている仲なんです。だからマンガ5を立ち上げるにあたって、小森さんにも今までなかったもの、やってこなかった新しいものを生み出してほしいと思ったんです。小森さんにそれを伝えたら、「自分はSFはあまりやってきていないけど、実は温めているやつがある」と。「じゃあ、それでお願いします!」と立ち上がったのが本作です。でも、最初小森さんからお話を聞いて想像していたのとは、だいぶ印象が変わりましたね。

──というと?

日野 ハードボイルドな世界観のSFなので、もっと「COBRA」みたいなものをイメージしていたんです。それが竹谷さんの絵や色遣いと出会って、すごくポップな印象になった。このタッチでハードなSFが展開されていくのは、ギャップがあってなんとも面白い。ストーリーはもちろん、実験的な部分でも、これからどうなっていくのか楽しみな作品です。

岩渕 作画はコンペだったんですが、いまだに小森さんとも「竹谷さんだけがすごく異質だった」という話をしています。目を一番引きましたし、面白い化学反応が起きそうだということで、お願いすることになりました。

──マンガ5さんは縦スクロール形式ですが、これが竹谷さんのダイナミックな画面構成とマッチしていて、アクションシーンなどすごく迫力を感じました。

日野 スマホとかで気軽に読んでもらうことを重視したのもありますが、マンガ5の特徴の1つに、作家さんに書籍化することをお約束していない、というのがありますね。ほとんどのマンガサイトは、最終的に紙の本にすることを視野に入れていると思うんですけど、僕らはきっぱりと作家さんに「紙にしない前提でお願いします」と伝えている。もちろん再編集すれば、本にできないことはないんですが、音を付けたりアニメーションを付けたり、マンガ5では紙で表現できないこともどんどんやっていきたい。それだったら、「最初から紙にするつもりないんで」というくらいのほうがいいだろうと思っています。

──SNSでは井上まいさんの「大丈夫倶楽部」が、連載開始直後からとても大きな反響を得ていますよね。「大丈夫になることが趣味」という女性が主人公ですが、読んでいて胸に刺さるものがありました。

井上まい「大丈夫倶楽部」
「大丈夫倶楽部」井上まい

大丈夫になりたい──。日々「大丈夫の研鑽(けんさん)」に励む花田もねは、ある晩、芦川(あしかわ)という謎の生物と出会う。その姿は「大丈夫ではない」ようで──。心癒されるハートフルストーリー!

日野 「大丈夫倶楽部」は社内での評判もすごくいいですね。

岩渕 読者の方からも「わかる!」という共感の声をたくさんいただいています。井上先生の描く優しい世界に触れて、日頃の疲れを癒やしてもらえたらうれしいですね。

──この作品はどちらかというと、ページをめくって読むような従来のマンガに読み味が近いですよね。本にもしやすいのでは……?

岩渕 画面の構成は作家さんにお任せしていますね。縦スクロールを目いっぱい活用してくださってもいいですし、「大丈夫倶楽部」のようにページを意識した作りでも大丈夫です。

日野 書籍化も絶対にしないというわけではないので(笑)、ご要望が多かったら考えたいなと思っています。

「こんなのよく考えたね」って言われるような作品を

──「エンマの休日」と「ほのスト! ~豪炎寺のひとりごと~」は、それぞれ「妖怪ウォッチ」と「イナズマイレブン」のスピンオフですよね。公式Twitterで「『妖怪ウォッチ』の新しい一面をお見せできて嬉しいです!」とコメントされていたのも印象的でした。

須藤ゆみこ、レベルファイブ(原作・監修)「エンマの休日」
「エンマの休日」須藤ゆみこ、レベルファイブ(原作・監修)

エンマ大王と、側近のぬらりひょんが「食べ歩き」!? 先代閻魔大王の残した一冊のノートを手掛かりに、人間界の様々なグルメに舌鼓! レベルファイブ完全監修の「妖怪ウォッチ」公式スピンオフ作品が登場!

あさだみほ、レベルファイブ(原作・監修)「ほのスト! ~豪炎寺のひとりごと~」
「ほのスト! ~豪炎寺のひとりごと~」あさだみほ、レベルファイブ(原作・監修)

「イナズマイレブン」の公式スピンオフ作品がキックオフ! 「炎のエースストライカー」と呼ばれる豪炎寺修也の何気ない日常を描く、心の中エンターテインメント! いつもクールな豪炎寺が考えていることとは──!?

日野 新しいことをやっていきたいとは言いつつ、レベルファイブの作品をネタにしたものが一切ないというのは、それはそれでファンを裏切っているような気がして。レベルファイブのサイトだよって、どこかで示しておく必要もあると考えていました。だけど僕らが、「うちの作品を描いてください!」と無理に頼んでもダメだと思っていて。それで、それぞれの作品のことが大好きで、やりたい気持ちから自然に描いてくれる人ならと思って、須藤ゆみこさんとあさだみほさんにお声かけしました。

──マンガ5には“こういうマンガを載せていく”という掲載方針はあるんでしょうか。あるいは反対に、“こういう作品は載せない”みたいなものになるかもしれませんが。

日野 やはり新しい作品を生み出していくことを重視しているので、今まであった作品の二番煎じみたいなものや、明らかに売れるためだけにやるような作品は、あまりおすすめしないというか、やらないほうがいいかなと思っていますけど、それ以外はもう自由です。何よりも、新しいものが生まれることを望んでいるので。

岩渕 「マンガ5はこういうカラーだから、こういう作品を持ってきてください」ということはなく、作家さんたちにやりたいことをやってもらっているので、結果的に作家さんたちのカラーがマンガ5のカラーになっているんじゃないでしょうか。

日野 特定の年代の人を特に集めようとかも思っていなくて、とにかく新しい作品を、「こんなのよく考えたね」って言われるような作品を増やしたいですね。

岩渕 今連載を持たれている作家さんは、レベルファイブがイチからマンガを作るっていうチャレンジングな企画にもかかわらず、「面白い!」と言って乗ってきてくれた作家さんたちなので、本当にユニークなラインナップになったなと思っています。

──「株式会社 極道ゲーム組」はゲーム制作がテーマの作品ですよね。こうした作品が並ぶのはレベルファイブさんらしいなと思いつつも、全体的にはレベルファイブさんだからといって、変にゲームに引っ張られていないのがいいなとも感じました。

モンキー・チョップ「株式会社 極道ゲーム組」
「株式会社 極道ゲーム組」モンキー・チョップ

「ワシら八角組は、本日より…ゲーム会社 レベルエイトじゃああ!!」いたって普通の一般人の鈴木ハジメと、極道「八角組」のクセの強いメンバーが織り成す、ドタバタ・ゲーム制作コメディ、ここに爆誕!

日野 「極道ゲーム組」もまた面白いよね。これは僕らもゲーム制作会社としてあるあるネタを提供したり、茶々を入れさせてもらったりしているんですが、それをきちんと、おもしろおかしく昇華してくれている。読んでいても「この仕切り上手な彼が、これから制作を指揮するようになるのかな」なんて思ったり、今後が楽しみですよ。こういうおかしなやつをいっぱい作りたい。

岩渕 「ゲームっぽいネタにしたほうがいいですか?」っていうのは、打ち合わせでどの作家さんにも必ず聞かれましたね(笑)。「ゲームやアニメのコミカライズかと思いました」「オリジナルを描いていいんですね」って。