レベルファイブといえば、「ダーククラウド」「ダーククロニクル」といったRPGで高い評価を得た後、2004年発売の「ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君」の開発担当に抜擢され、一躍その名を広めたゲーム会社。2006年にはパブリッシャー事業に参入し、「レイトン教授」や「イナズマイレブン」、「ダンボール戦機」「妖怪ウォッチ」各シリーズなど、メディアミックスを交えたヒット作をいくつも生み出している。
そんなレベルファイブが、「ゲームの枠を飛び越えて、マンガや小説を通じて新たな作品を生み出したい」とマンガの分野に進出。“クリエイティブコミュニケーションサイト”マンガ5(マンガファイブ)を設立し、マンガを中心としたオリジナル作品9作の連載を一挙にスタートさせた。
コミックナタリーではマンガ5のサービス開始に合わせて、レベルファイブの日野晃博代表にインタビューを実施。彼らがマンガという分野でやろうとしていること、連載作品の魅力、今後の展望について尋ねた。
取材・文 / 鈴木俊介
ライバルはマンガのサイトじゃない
──まずはレベルファイブさんがなぜマンガサイトを立ち上げることになったのか、その辺りからお聞かせいただきますか。
日野晃博 実を言うと、マンガだけをやりたいわけではないんですよ。マンガにこだわっているわけじゃないんです。
──というと?
日野 レベルファイブは“新しい作品を生み出す”ということを、すごく力を入れてやってきた会社なんです。ゲームを作ることがまずあり、そのゲームを売るためのプロモーションとしてアニメを作ったり、マンガを作ったり、クロスメディア展開していくというのが僕らのやり方だった。だけど、この1つひとつをやるアクションって、すごく手間とお金がかかるんですね。1年に1個、新しいIPを作ることができればまだいいほうなんですが、今は1つひとつの作品がものすごく大きい規模になってきているので、2年に1つ新しいものを世に出せるかどうか、そんな状態になってきている。そのうえ人気が出た作品には、続編をやってほしいというご要望もいただきます。それにしっかり応えることも大事だと思うんですが、僕個人としては、今までなかったものを生み出すことに、より魅力を感じるので、やっぱり会社のアイデンティティである、新しい作品にチャレンジしていくことをどんどんやっていきたい。そのため、もっといっぱい実験したい。そういう場として、マンガという媒体は優れていると思うんです。
──新しい作品をどんどん生み出していきたいけれど、ゲームだとどうしてもフットワークが重くなってしまう。だけど、マンガであればそれができると。
日野 マンガは費用も人数も、比較的少なくて済むのに、アイデア1つでものすごい大ヒット作を作れる可能性がある。僕はゲームが、あらゆるエンターテインメントの中で一番自由度が高くて、すべてが表現できるものだと思ってるんです。今となっては映像のクオリティも映画レベルですし、かつ、それを自分で操作したりすることができるわけですから、ゲームはほかのメディアよりも表現力がかなり高い。だから、ゲームに表現できないことがあるというわけではないんですが、ゲームを1つ世に送り出すのってものすごく大変で、それは映画やアニメも同じで……。でも、新しいアイデアって必ずしもそういうところでやらなくてもいい。1年に10作品も20作品も、いろんな物語にトライしていくことは、ゲームや映画といった図体の大きいメディアにはなかなかできないことですから、もっと身軽にいろんなことができるという意味で、マンガや小説に魅力を感じています。それで今回、マンガ5を立ち上げるという選択をしました。
──立ち上げにあたって、既存のマンガサイトとの差別化を意識した部分はありますか?
日野 ほかのマンガサイトをライバル視するのはやめようと思ってまして。ライバル視しても、マンガサイトとして勝てるわけがない(笑)。だからそこに対抗する気はないし、マンガサイトとしての書庫みたいな機能もマンガ5には求めてなくて。もちろん、マンガをアウトプットするという意味では真剣にやっています。実際にマンガ5チームは編集として作家さんを支えて、面白いマンガを作ろうと向き合ってくれています。でも僕個人としては、マンガとして面白いものを作ることがゴールじゃなくて、マンガから何か新しいものを作りたい。面白いものを発掘して、クロスメディア化していく、その起点にマンガ5がなればいいなと。マンガサイトというより、マンガというテーマを使って新しいことを生み出したり、新しいクリエイターとセッションしたり、そういう新しいクリエイティブの発信の場としてマンガ5を考えています。それがしっかり確立できれば、結果的にそれが、ほかのサイトとは違うアイデンティティの部分になるのかもしれません。
福山潤のキャラクター考察はすごい
──日野さんは各作品にどれくらい携わっていらっしゃるんですか?
日野 ある時点からは、どちらかというとお客さん視点ですね。基本的にはマンガ家さんと担当編集のやり取りで作ってもらっています。アドバイスを求められて意見することはあるけれど、僕が連載作品に細かく口を出したりすると、僕のクリエイティブみたいになってしまいますし、それでは意味がない。唯一、福山潤さんの作品は僕も深く関わって、いろんな表現とかアドバイスとか、そういうセッションをさせてもらっています。
──立ち上げの際に告知のあった、「声優・福山潤が原作を手がける作品」のことですね。コミックナタリーでマンガ5のサービス開始を記事にさせていただいた際も、福山さん原作の作品については反響が大きかったです。
日野 原作というか、シナリオ自体を書いてもらっていますね。しかも実はこれ、マンガではない形式なんです。ちょっとしたムービー的な。
──じゃあ福山さんご自身が声を入れたりも?
日野 してもらいます。逆に言うと、だからマンガではないんです(笑)。演じることも含めて福山潤の作品にしたかったので。1話完結型の、ちょっと不思議なお話のオムニバスになる予定で……まだこれからの作品なのですが、第1話はすっごく面白いですよ。
──楽しみです。そもそも福山さんの作品は、どういうきっかけで企画が始まったんでしょうか。
日野 福山潤さんには以前から仲良くしてもらっていて、僕のアニメとかゲームとかにもいろいろご出演いただいているんですが、福山さんが役柄についてお話しするインタビューに同席していると、「このキャラクターはこういう性格だから、こういう立場に立たされたとき、こう考えると思って、こういう演技をしました」と、設定側の人間が書いていないような部分まで、ご自身の考察を語っていらっしゃるんです。その考察が……雑誌に載るときは文字数の関係でかなりカットされてしまうんですが(笑)、聞いていてすごく面白くて。こんなに深いところまで考えて、キャラクター性を生み出そうとしている人がいるのであれば、この人が何か物語みたいなものを作ったら、すごく面白いんじゃないかと思っていたんです。それで最初はざっくばらんな感じに、「こういうことやってみたいんだけど、やってくれる?」と聞いてみたら、「それ面白そう」とおっしゃってくれて。
──福山さんも前向きに「やります」と。
日野 ええ。ただ、内容をどうするかっていうのはかなり悩んで。キャラクターを掘り下げるような作品を作ってもらいたい、ということは伝えたんですが、そんなことを僕から言われても、すぐに作れるわけでもなく。僕らも一緒に、こういうのはどうかな、ああいうのはどうかなといろいろ話し合ってきました。最終的には福山さんが、我々と話す中でちょっと思いついた部分があって、それを書いてもらったら「面白いじゃん!」って。キャラクターを掘り下げている人だからこそ書けるものが生まれたんじゃないかなって思っています。
──マンガではないという部分でも、枠にとらわれず新しい作品を発表していくという、マンガ5のスタイルを象徴する作品の1つになるのかもしれませんね。
日野 そうですね。福山さんの作品があることで、まったく違う分野の人が作品を提供してもいいよと思ってくれたり、自分にも何かできるかもしれないと刺激を受けてくれたり。マンガ家さんだけじゃなくて、いろんな人たちのクリエイティブが集まり、また発信されていく場所になればうれしいです。
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最初から紙にするつもりはないんです