TVシリーズから主要スタッフとして「魔法少女まどか☆マギカ」に関わり、「マギアレコード」1st SEASONでは副監督を務めた宮本幸裕。放送が終わった直後、宮本副監督に1st SEASONを振り返っての思いを聞いた。
※このインタビューは2020年4月頃に行われたもの。
一番“らしさ”を感じたのは音楽
──「マギアレコード」の第1話を初めて拝見したのは、2019年のイベント「Magia Day 2019」だったのですが、「まどか」らしさがあらゆる部分から感じられて、とても感動したのを覚えています。この“らしさ”というものは、恐らく制作現場でも大事にされていらっしゃったかと思うのですが、「まどか」からディレクターや監督を務められてきた宮本さんから見て、その“らしさ”はどこから来るものだと思われますか。
作画さんや仕上げさん、撮影さんに至るまで、当時のスタッフさんの多くが再び参加してくれているからかもしれませんね。皆さん「まどか」を大事にしてくれているので、自然と「まどか」を踏まえたうえでの表現になっていったと思います。
──宮本さんが「マギアレコード」で、一番「まどか」らしさを感じられたのはどんなシーンでしょうか?
僕は音楽でしょうか……。「まどか」で使用されていた曲が流れると、途端に「まどか」のイメージが呼び起こされますね。
──第1話でも冒頭から「Sis Puella Magica!」が使われていましたね。確かにその瞬間、一気に「まどか」の世界に連れて行かれた気がします。一方で、ウワサの存在やキャラクターの多彩さなど、「マギアレコード」ならではの魅力もたくさんあるかと思います。宮本さんが本作のオリジナリティ、言い換えれば「マギアレコード」らしさを感じられたのはどんな部分でしたか。
これも音楽ですね。「まどか」のようなルックでありながら、音楽が違うだけで受ける印象がこんなにも違うのかと、新鮮でした。
──特にウワサ空間では、「少女革命ウテナ」などで知られる作曲家のJ・A・シーザーさんが参加されているなど、音作りやビジュアルの面で、魔女空間とは大きくアプローチを変えていらっしゃるように感じました。
J・A・シーザーさんの参加は、劇団イヌカレー(泥犬)さんの強い希望により実現しました。泥犬さんとしては「ウワサ空間まで自分が作ると、いつもの魔女空間にしかならないから」と。結果的に、J・A・シーザーさんには新しいアイデアがてんこもりの設定とデザインを起こしていただき、とてもよかったです。
あくまで主役は「マギアレコード」のキャラクター
──ゲームである「マギアレコード」をアニメ化するうえで大切にされたこと、苦慮されたことを教えてください。例えば、尺の都合で描けるエピソードやキャラクターには限界があったと思うのですが、取捨選択の際に重視したことはどんなことでしょうか。
1st SEASONではゲームの第6章までを入れるということが決まっていたため、その中でアニメ用にキャラクターの出入りやイベントを整理していきました。アニメはゲームをプレイされていない方も視聴されるので、新しく登場するキャラクターたちの背景を知らなくてもそのキャラを好きになってもらえるように、シナリオや作画でのセリフや見せ方を重視しました。
──私はゲームも一通りプレイしているのですが、アニメならではの展開も多く、毎回どんな展開になるのだろうととても楽しませていただきました。個人的には「ひとりぼっちの最果て」のエピソードが、ゲームよりもさなの心情が丁寧に描かれているように感じられ、グッときたのですが、色濃く描きたいと思われた部分もあるのでしょうか。
「ひとりぼっちの最果て」のエピソードは、第8話~第10話のシリーズディレクター吉澤翠さんが一番好きなエピソードだったそうで、気合いを入れて手がけてくださいました。
──反対に、かえでがマギウスの翼に入ることになったり、まどかとほむらが登場するはずのところで登場しなかったりと、ストーリーを変更されている部分もけっこうあるように感じます。
原作とは異なるキャラクターの行動、アニメオリジナルキャラクターである黒江の存在など、1st SEASONで残された謎が2nd SEASONのストーリーにどう影響していくのか、楽しみですね。
──ゲームのアニメ化という部分では、魔法少女たちがコネクト(※)をする描写があったり、ゲーム内での攻撃の動きが再現されていたりと、戦闘シーンのこだわりにも驚かされました。
※ゲームに登場する、魔法少女同士が連携して攻撃する技。行動に必要となるディスクをほかの魔法少女に渡すことで、特別なスキルが発動し、強力な攻撃を繰り出せる。
コネクトについては、「まどか」にはない「マギアレコード」らしい要素でしたので、制作初期からアニメでも入れようという話になっていましたね。攻撃シーンはゲームのモーションを参考に、アニメで動かしやすい形に組み立てていましたが、中でもホーリーマミは大量のマスケット銃を展開させなければいけなかったので、配置とそのデータ量にVEスタッフさんが苦労していました。
──第13話の、ホーリーマミとさやかの戦闘シーンは圧巻でした。やはりマミ、杏子、さやかが登場した回は、視聴者も盛り上がっていたように思います。「まどか」のキャラは、ややもすると「マギアレコード」のキャラより目立ってしまうなど、扱いが難しい部分もあったのではないでしょうか。
あくまで主役は「マギアレコード」のキャラクターなので、見滝原の魔法少女たちの見せ場とのバランス調整には気を付けました。とりわけホーリーマミはインパクトが強いので、シリアスなシーンでネタキャラになってしまわないことを心がけて演出をしていました。
黒江は2nd SEASONで活躍があるかも
──「まどか」の声優の皆さんは、久しぶりにアニメでの各キャラを演じられたかと思うのですが、演技指導などお声かけすることはありましたか。
「まどか」の声優さんたちは、アニメでは久しぶりでしたがゲームでは時々収録があったそうで、キャラクターへの距離感はそれほど年月を感じさせませんでした。マミ役の水橋かおりさんは、今回も3話で収録に呼ばれたので、「また死ぬのかな?」と思っていたみたいですが。
──(笑)。因縁の3話でマミが登場するのは、面白い演出でした。ほかにも6話のセリフ「こんなの絶対おかしいよ」、7話の杏子の「食うかい?」など、「まどか」との話数リンクを意識されていらっしゃるような場面が散見されたように思います。
脚本家さんや泥犬さん、作画さんたちが、各々に用意していたと思います。
──スタッフの皆さんの「まどか」を大切にされていらっしゃる気持ちが伝わってくるようです。OPとEDについても聞かせてください。「まどか」にタッチを寄せたオープニング、やちよにフォーカスしたエンディング、どちらもとても素敵でした。OPとEDのテーマはどのように決められたのですか?
OPとEDはディレクターの吉澤翠さんによるものです。吉澤さんに聞いたところ、「OPは『まどか』の視聴者さんとゲーム版『マギアレコード』のプレイヤーさんが馴染みやすいよう、過去に出てきた要素を織り交ぜてみました。EDは1人で思い悩むやちよを描きたくて、内にこもっている白い服のやちよと外面の黒い服のやちよを出しました。EDのラストはOPにつなげているのですが、11~13話の展開を考えていろはのいない方向へ歩かせました」ということでした。
──最後に、2nd SEASONを楽しみにしている視聴者へメッセージをいただけますか。アニメオリジナルキャラ・黒江の今後なども気になります。
黒江は2nd SEASONでの活躍があるかも……? それも含め、ぜひ放送を楽しみにしてください。
- 宮本幸裕(ミヤモトユキヒロ)
- アニメーション演出家。新房昭之監督・シャフト制作作品の数多くにメインスタッフとして参加しており、2008年放送の「俗・さよなら絶望先生」でチーフ演出に就任、「まりあ†ほりっく」「荒川アンダー ザ ブリッジ」「電波女と青春男」などでシリーズディレクターを担当。「魔法少女まどか☆マギカ」でもシリーズディレクターを担当しており、「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」シリーズでは監督を務めた。
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