岩田雪花が原作、青木裕が作画を担当する「株式会社マジルミエ」は、新卒で魔法少女になった女性・桜木カナを主人公にした“お仕事魔法少女アクション”。少年ジャンプ+で連載中だ。“お仕事魔法少女”と冠している通り、魔法少女ものにビジネスの視点をリアルに盛り込んでいるのが特徴の作品で、10月からTVアニメも放送されている。
そこでコミックナタリーはアル代表取締役のけんすう、arca代表取締役社長の辻愛沙子、ウツワ代表取締役社長のハヤカワ五味に原作を読んでもらい、その魅力を解説してもらった。数々の事業を手がける3人の起業家は、「株式会社マジルミエ」をどう読むのか。
魔法少女が職業として認知されている世界。主人公の女子大生・桜木カナは就職活動でなかなか内定をもらうことができずにいた。そんな中、彼女はある日の面接先で“怪異”と呼ばれる自然災害に巻き込まれてしまう。対処に駆けつけた魔法少女の仕事を手助けした際にその才能を見出されたカナは、怪異の退治業務を請け負う魔法少女のベンチャー企業・株式会社マジルミエに新卒入社することに。しかし、マジルミエで彼女を待ち受けていたのは、ひと癖もふた癖もある変わり者ばかり。さらに魔法少女は、華やかさの裏で時に命をも落としかねない危険な仕事でもあり……。
けんすう(古川健介)/アル株式会社代表取締役
──原作をお読みになっての感想を教えてください。
「株式会社」という人類最大レベルの発明と、「魔法少女が人外と戦う」というファンタジーが非常にうまく融合している作品で、最高だなと思っています。魔法少女の武器が、完全にテクノロジーとして描かれているので、技術者もフィーチャーされるという点も新しさを覚えました。
一般的な魔法少女というと、世界のために戦う、という構成になります。これだと、どうしても自己犠牲だったり、高潔な精神が求められたりしがちです。しかし、株式会社にすることによって、「営利団体として利益をあげるということ」と「社会を守る」というところを両立して描くことができます。株式会社のほとんどが、利益を上げたいという気持ちと、社会をよくしたいという気持ちが両方ありますが、どうしても「お金儲けをしている」という目で見られがちなので、その点はめっちゃいいなと思いました。
ベンチャーをやっている側としては、1巻の「ウチらの仕事を見て、手伝ってくれて、入りたいって言ってくれて ベンチャーはそういうのがスッゲぇ嬉しいんだよ」というところはしびれました。まさにその通りです。
──起業家の視点で仕事に役立ちそうと感じたのはどんなところですか。
番外編ですが「闇森くんの研修」(※)は大事な点が詰まっているなと思いました。これは新人の闇森くんに対して、二子山さんが、研修といいながらアニメを渡して観せる、という話です。
新人の研修というと、技術を教えたり仕事のやり方を教えるというのが一般的だと思いますが、闇森くんの場合、技術レベルは高いわけです。一方で、課題としては、「組織に入ったことがないため、ビジネスコミュニケーションの経験がない」こと。
二子山さんも同じように、技術は高いがコミュニケーションがあまり上手ではないんです。
となると、ボトルネックになるのは確実にコミュニケーションということになっちゃうんです。この2人の意思疎通がうまくできないと、開発のスピードがあがらない。
エンジニアでは、1人で開発していると早いが、2人になると、その速度が出せないというのはよくあります。1人で100の成果を出せる人たちが2人で開発しても、200にならず、だいたい120-150くらいになります。下手したら、100以下になることもあるくらいです。
なので、「アニメを観て共通言語を作ることでコミュニケーションをスムーズにする」と「同じアニメを観ることで仲良くなる」というのはめちゃくちゃ大事なので、この研修の回はすごく的確だなと思いました。
※原作単行本8巻収録
──「株式会社マジルミエ」で一番共感できたのはどのキャラクターですか。
蔵入さんが好きでした!(※)社長やメンバーは、ビジョンや大義、やらないといけないことなどに目がいきがちですが、個人投資家という目線の蔵入さんは、「合理性がある判断ができて」「いざというときは撤退する」という一歩ひいた目で全体を見ているからです。
株式会社を題材にしている本作品は、資本主義的な観点が入ってきますが、蔵入さんが入ることで、その要素がまた一歩先に進んだ気がします。
世の中で一番強いつながりは、愛や信頼だといわれますが、次は「損得勘定だ」といわれたりします。資本主義のよい点としては、どんなに悪い人だろうと、損得勘定がお互いにある限り、手を組めるということです。その点で、蔵入さんは完全に資本主義ムーヴをしているので、共感しました。
※原作単行本10巻収録の第85話で登場。
プロフィール
けんすう(古川健介)
アル株式会社代表取締役。学生時代からインターネットサービスに携わり、2006年株式会社リクルートに入社。新規事業担当を経て、2009年に株式会社ロケットスタート(のちの株式会社nanapi)を創業。2014年にKDDIグループにジョインし、Supership株式会社取締役に就任。2018年から現職。会員制ビジネスメディア「アル開発室」において、ほぼ毎日記事を投稿中。
辻愛沙子/株式会社arca代表取締役・クリエイティブディレクター
──原作をお読みになっての感想を印教えてください。
中小企業の経営者として、重本社長が社員をエンパワメントするセリフの数々は痺れるものがありました。経営者の仕事は、社員を”管理する”のではなく、社員の可能性を見出し、“信じて”役割を“託す”こと。同時に、自らの意志や美学を持ち、それを指し示すこと。中小やスタートアップは、企業として完璧じゃないことも(ヘンテコなところも)多分にあるけれど、結局仕事は資本や大きさ以上に“人”なんだ、と感じさせてくれる重本とマジルミエのメンバーのやり取りに、私自身もエネルギーをもらいました。
──起業家の視点で仕事に役立ちそうと感じたのはどんなところですか。
優秀な人間とそうでない人間がいるのではなく、社員の有力な部分を見出し光を当てられるかはマネジメントや企業側の問題でもある。マジルミエ内でのやり取りを見て、社員をいかにエンパワメントし自信を持って職務に取り組むための素地や心理的安全性のある職場を作っていくのか、学ぶところが多分にありました。
また、1つ上の質問の回答とも重複しますが、先に書いた社長の役割2つに加え、もう1つ、「何をやるか」ではなく「何のためにやるか」という美学や目的意識を指し示すことが良いリーダーなのだということも大きな学びですし、大変共感しうる部分が多々ありました。
──「株式会社マジルミエ」で一番共感できたのはどのキャラクターですか。
立場としては重本社長(素晴らしい仲間が増えて涙するあたり、大共感でした。。。)、クリエイティブディレクターとしてのプレイヤー目線では前線で戦い続ける仁美に共感しました。
プロフィール
辻愛沙子(ツジアサコ)
株式会社arca代表取締役・クリエイティブディレクター。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の2つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースなど、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より2024年3月まで、報道番組「news zero」にて水曜パートナーをレギュラーで務める。多方面にわたって、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。
ハヤカワ五味/株式会社ウツワ代表取締役
──原作をお読みになっての感想を教えてください。
私が特に印象に残っているのは、エキスポ中に巨大変異が発生して、二子山を中心に急遽その場の4人で魔法開発を行うシーンです。昔、やっていた案件が炎上して、深夜24時過ぎに起きてるメンバー3人とZoomをつないで死にそうになりながら作業をしていたことを思い出します。仕事って、いかに周囲の人を頼れるかも能力の1つだと思っていて、ベンチャーだと周囲を頼らざる得ないことが多いので、勝手にその力ってついていくよなと。あとでたらめにやるのではなく、まずは現場や状況を理解することを大切にしていたり、そのうえで作戦を決め場面に応じて修正し、しっかりと許可取りやホウレンソウしているのもなんかめちゃくちゃ仕事だなって思いました。
──起業家の視点で仕事に役立ちそうと感じたのはどんなところですか。
社長が異常なまでに良い上司であるということは外せません。こういう上司でありたいし、こういう人についていきたいですよね。社長は一貫して、社員を守ろうとしていますし、どのような場合であれ責任は自分が持つというスタンスを曲げていません。「理想主義者」だなんて揶揄されているシーンもありますが、むしろ美学がなければ一貫性が出ませんし、自分の仕事にプライドを持つことも難しいんじゃないかと思っています。私の座右の銘は「陽気に、華麗に、最強に」なのですが、ちょっとマジルミエ社にも通じるところがあるような気がしています。あと細かいところですが、人に指摘をする際にはまず相手を肯定してからというやり方も地味に重要な振る舞いなのでジワりました。
──「株式会社マジルミエ」で一番共感できたのはどのキャラクターですか。
これまでのキャリア的には社長なんですけど、私としては個々人に共感するというよりマジルミエ社のハコ全体への共感が強かったです。なんかこういうバランスの会社あるよね、みたいな(笑)。で、それは1人1人のキャラや属性への「わかりみが深い」からな気がします。真面目秀才型のカナちゃん、天才型で教えるのが致命的に下手な越谷さん、見た目に反して一番真っ当な社会人の重本社長、めちゃいるわかる二子山、地味に大事な翠川さんという感じ。
プロフィール
ハヤカワ五味(ハヤカワゴミ)
株式会社ウツワ代表取締役。1995年、東京都生まれ。高校生の頃からアクセサリー類等の製作や販売を行い、多摩美術大学入学後にランジェリーブランド「feast」を立ち上げる。2019年からは生理から選択を考えるプロジェクト「ILLUMINATE」を立ち上げ、2022年にM&Aでユーグレナグループにジョイン。同年に「feast」を(株)ブルマーレに事業譲渡。最近は生成AI関連の仕事。週末は、趣味のコスプレに必死。
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桜木カナ(CV:ファイルーズあい)
株式会社マジルミエに新卒で入社した新人魔法少女。並外れた記憶力を持つ真面目な努力家だが、自身の強みをうまくPRすることができず就職活動では苦戦を強いられていた。怪異に巻き込まれた際にその能力を見出され、魔法少女として働くことになる。
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越谷仁美(CV:花守ゆみり)
株式会社マジルミエで魔法少女として活動しているカナの先輩。抜群の身体能力を持つ天才肌の魔法少女で、ホウキなどの魔道具も感覚で使いこなす。ガサツで粗暴なところがあるが、カナに対して魔法少女として、そして新人としての心得を優しく説いてくれる。
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重本浩司(CV:小山力也)
株式会社マジルミエの社長。なぜか社内では魔法少女のコスプレをして働いている。「新人を信じなくてベンチャーは名乗れん」と、まだ入社初日のカナの提案を受け入れてGOサインを出したり、「慣例に疑問を呈するのがベンチャー企業の存在意義です」と役人に意見したりとマジルミエのベンチャー精神を体現している。