コミックナタリー PowerPush - マダム・プティ

16歳の未亡人、波乱の旅路はオリエント急行からパリへ 新天地で生まれた高尾滋の新たな魅力

まずセリフだけをばーっと書き出すのが高尾流

──セリフをできるだけ削ぎ落としたほうが、高尾さん的には心地良いんでしょうか。

「マダム・プティ」第3話より。高尾作品には、文学的なセリフも多く散りばめられている。

言葉数を増やしすぎるのを是としないのが癖になってるんですね。マンガを読むときってセリフを頭の中で音読してると思うんですが、そのリズムに乗っ取って描いてる感じです。ネームをやるときも私は最初に、絵も入れずコマ割りもせず、すべてのセリフだけを紙に書き出すんです。

──脚本を先に作られるんですか?

まずはセリフをばーっと箇条書き。次はそれをコマ割りした紙に振っていって、清書する感じです。私はこの作業に一番時間がかかって、いつも3、4日くらい。これができちゃえば、あとは絵柄をささっと割り振って、スムーズに進むんですけど。

──最初に決めたセリフは、原稿になる段階までそのまま?

言い回しがちょっと変わることはありますが、基本的にはママですね。正しい言い回しよりは、自分の好きな言葉の響き、気持ちいい感じを優先しています。

──好きな言い回し、というのはその都度涌いてくるのか、それともストックしているのか……。

メモは取ってないですね。だーっと書いて、「あ、すごいいいセリフ思いついた!」って思ったら誰かの本で読んだセリフだったりはあります(笑)。いろんな本を読んで印象に残ったセリフが、自分の中に蓄積されてるんでしょうね。好きな本は何度も読み返すので、好きな言葉遣いや文章のリズムが自分の中に定着していて、出てきちゃうのかな。

──どんな本、作家さんから影響を受けていると思いますか?

趣味のミステリー小説から資料まで、数多くの書籍が収められた本棚。

高村薫さんはボロボロになるほど読んでます。あとは浅田次郎さんの「天切り松シリーズ」とか、北村薫さんも何度も何度も。マンガでいうと、日渡(早紀)先生の「ぼくの地球を守って」とか。あと氷室(冴子)先生と山内(直実)先生の「ジャパネスク」シリーズは、青春時代に毎日、繰り返し繰り返し読んでいました。セリフのリズムだけでなく、作品の着想も、これまでに読んできた本で好きだった設定に影響を受けて生まれることが多いんです。タイムスリップものがやりたい! とか、ロボットものを描こう! とか。

少女マンガを読んで楽しかった気持ちを感じてくれたら

──未亡人とオリエント急行という設定から始まった「マダム・プティ」ですが、2巻からはオリエント急行を降りて舞台がパリに移り、物話に広がりが出てきましたね。

はい。パリも行ったことがないので、距離感がつかめなくて大変です。例えばある地点からある地点までキャラクターを走らせたいんだけど、走って辿り着けるものなのか、とか。変わらず資料とにらめっこの日々ですね。ウジェーヌ・アジェさんという写真家さんの写真集がすごく役に立っています。何気ない街中の路地とか普通の路地裏の写真を、たくさん撮られた方です。

万里子が初めて降り立ったパリに魅せられるシーン。

──第8話で万里子が、初めてクロワッサンをコーヒーにつけて食べた表情がとても輝いていて印象的でした。ムーラン・ルージュの描写も華やかで、読んでいると実際にパリに行ってみたくなります。

そう感じていただけるのはとてもうれしいです。私の、パリへの募る憧れがにじみ出ているかもしれないですね(笑)。

──これからも異国気分を味わうのが楽しみです。では、最後に読者へのメッセージをお願いできますか。

この作品の世界観、時代背景や背景描写やキャラクターの性格など、どこかしらに引っかかりができて読み続けてもらえたらうれしく思います。私の好きなものを楽しんでもらえるといいな。とにかく私が少女マンガを読んで楽しかった気持ちを、読者の方が感じてくれたら、本当にうれしいです。どうぞよろしくお願いします!

高尾滋「マダム・プティ(2)」 /発売日 / 000円 / 出版社
高尾滋「マダム・プティ(2)」
あらすじ

時は1920年代。16歳の万里子は新婚の夫である俊とイスタンブールからオリエント急行の旅に出る。俊は万里子の亡父の友人で、30歳ほどの年の差があったが、幼い頃から俊に憧れていた万里子は彼の良き妻になろうと決意する。車中は国際色豊かな乗客で溢れ、万里子は初めてのことばかり。尊大な態度のインド人青年・ニーラムとは微妙な軋轢(!?)も……。だが、翌朝、俊が客室で死亡していた!

高尾滋(たかおしげる)
高尾滋

2月15日埼玉県生まれ。1995年、「人形芝居」が第240回花とゆめまんが家コースHMCで1位にあたる優秀賞を受賞。その後、1996年に「写絵(しゃかい)」が第28回花とゆめビッグチャレンジ賞準入選+編集長期待賞を受賞し、同年花とゆめ13号(白泉社)に「不思議図書館」が掲載されデビュー。1998年、優秀な新人に贈られる第23回白泉社アテナ新人大賞デビュー優秀者賞を「人形芝居」で受賞し、期待の新人として注目を集める。叙情的なストーリーと緊張感漂うセリフ回しが特徴的で、2000年には「ディア マイン」を花とゆめにてスタートさせた。その他の代表作に、旧家のお姫様と彼女を守る忍者の少年の恋を描いた「てるてる×少年」、大正時代にタイムスリップしてしまった男子高校生が主人公の「ゴールデン・デイズ」などがある。 現在は別冊花とゆめ(白泉社)にて「マダム・プティ」を連載中。