コミックナタリー Power Push - 「都会のトム&ソーヤ」

西炯子とフクシマハルカが語る「私たちの違いは“重力感”」

男性同士は“空気一層分”の距離感がある(西)

──フクシマさんはなかよしをはじめとした少女マンガ誌で描くことが多いですが、少年誌連載ということで心境の変化はありますか?

西炯子の生原稿。

フクシマ もしなかよしだったら、ヒロインの相手役として描くのは創也のようなキャラだと思うので、内人のようなある意味本物の少年らしいキャラは今まで描く機会がなくて。少年誌のマガジンエッジだから内人を主人公にできたので、描いていて新鮮で楽しいです。自分自身も内人の目線になっていることが多いかもしれません。創也のパートナーになっていっしょに冒険しているつもりで描いている。

──前に伺ったときも、このコンビを描くのが楽しいとおっしゃってましたね。

フクシマ ええ。それに回を重ねてわかったんですが、創也に対する内人の距離感も面白いんですよ。創也はヒーロー的なキャラクターですが、その創也もダメなとき、落ち込むときがある。そういうとき、原作だと割と内人は創也と距離を置くんです。もし自分が考えた話だったら、内人は創也に対して「どうしたの?」ともっと近づいたり、ケンカしたりすると思うんですよ。はやみね先生の原作を読んでコミカライズしていく中で「これが男の人が男の友達に置く距離感か」と気付きました。

西 ああ、わかる。男性同士は“空気一層分”の距離感がありますよね。

──空気一層分?

西炯子の自宅。

西 昔聞いた話なんですが、電車って男だけ詰め込んでると人数乗らないらしいんですね。女を半分混ぜないと人数はたくさん乗らない。男性同士だと人はくっつけないらしいんですよ。男性は空気一層分、「ここからここまで」というラインがどこかある。

フクシマ なるほど。

西 女の子は友人同士で「ねえねえ」とピタッと寄ったり、手を組んだりつないだりすることもあるじゃないですか。男の人はそれをしない。その体が寄れないぶん、触れないぶんを気持ちで寄っていくというのがあるのかなって。だからこの2人の友情は魅力的なんだと思います。

──小説のカバーイラストでも2人が別々の方を向いたりしていますよね。

西 この距離感が2人の基本ですね。別々の方向を向いているけど、お互いの気配はちゃんと感じてる。

麻生さんの気持ちがわかるようになった(西)

西 私ね、最近マンガを読む麻生太郎さんの気持ちがすごくよくわかるようになった。対談したいくらい。

フクシマ どういうことですか?

西 この年齢になると、現実ってキツいことばっかなんですよ。知らないことっていうのもあんまりなくなって、精神的にもフロンティア的な部分がなくなっていく。でもね、これから先いろんなものに「ふーん」って冷めていたところで楽しめない。マンガや映画を見ながら「このあとこうなってこうなんでしょ、私知ってるのよ」ってお高くとまってても楽しくないんです。それで「こうなる」というのが薄々わかっていても「どうなるのかしら!!」って楽しんだほうが世の中は面白いんだってことに今ようやく気付いたんです。

──ある種のベタを楽しむ感覚ですね。

西 麻生さんも国会が終わってビッグコミックオリジナル(小学館)とか開くわけでしょ? で、「黄昏流星群」(弘兼憲史)とか「釣りバカ日誌」(やまさき十三原作・北見けんいち作画)とか読んで、ひとときだけでも今あったことをとりあえず忘れる。そういう時間っていうのが大人になるとすっごい貴重なんです。「わー、スーさん、バーカ(笑)」って笑ってる数十分っていうのが、30歳とか40歳でなく60歳、70歳っていう人だからこそ大事なんだと思います。若い人は「また同じことやってるよ」って思うかもしれないんだけど、年を取ると「また同じことやってるよ、こうでなくちゃ!(笑)」ってなってくるんです。

フクシマ ふふふ(笑)。

のん

西 私もようやく娯楽の楽しみ方がわかってきた感じです。だからね、今「都会のトム&ソーヤ」を読むのがすごく楽しいの。以前は「どんな話かな」「作画はどんな感じにすればいいかな」ってどこかで仕事で読んでいる部分がちょっとあったんですが、今は「まず読者として楽しまなきゃ損だ」って思うようになって。それですっごく楽しく読めるようになった。マンガ版も、フクシマさんがキャラクターをどう描かれるかっていうのと、世界観をどう見せてくださるのかっていうのがいつも楽しみです。「こんなふうに描けるんだ!」っていつもハッとするので。

フクシマ 描けるまでだいぶ先になりますが、原作小説で内人と創也が自転車を押しながら話すシーンがあるんですね。すごく印象的で、私も描けるのが楽しみなんです。このシーンまでぜひ辿り着きたいと思ってます。

西 これからも重力にとらわれない「都会のトム&ソーヤ」を見せてほしいな。それだけで幸せです。

原作:はやみねかおる漫画:フクシマハルカ「都会のトム&ソーヤ(2)」 発売中 / 講談社
「都会のトム&ソーヤ(2)」
670円
Kindle版 / 540円

ごく普通の中学生の内藤内人と、竜王グループ御曹司で天才の竜王創也。凸凹中学生コンビの2人は、「砦」で究極のゲームを創るため、様々な冒険を経験する。伝説のゲームクリエイター・栗井栄太の手がかりを探すうちに、とある人気クイズ王のカンニング疑惑騒動に巻き込まれた2人は、生放送でクイズ王と直接対決することに……! そして、いよいよ栗井栄太の尻尾を掴む……!? 累計150万部突破の大人気小説コミカライズ、第2巻!

原作小説はこちら

はやみねかおる「都会のトム&ソーヤ(14) 夢幻(上)」 発売中 / 講談社
「都会のトム&ソーヤ(14) 夢幻(上)」
単行本 / 1026円

内人と創也は、ついに究極のゲーム「夢幻」を完成させた!「夢幻」の基本コンセプトは、「悪夢からの脱出」。 竜王グループが建てた実験用の町の中にある、竜王学園中等部に集まった参加者は、内人のほか栗井栄太ご一行、真田志穂、健一、堀越ディレクター、浦沢ユラなど。専用のメガネとベルトを着けた参加者たちは、自分の意識が作りだしたアバターたちに惑わされることなく、校舎の中に隠された『快眠枕』を見つけ出し、現実世界に戻ることができるか?失敗すれば、夢の世界から抜け出せなくなる危険も……。人気キャラクターたちが一同に会し、「都会のトム&ソーヤ」シリーズのクライマックスが、いよいよ始まる!

西炯子(ニシケイコ)
西炯子

鹿児島県出身。高校在学中、JUNE(サン出版・当時)でデビュー。月刊flowers(小学館)にて発表された「娚(おとこ)の一生」が「このマンガがすごい!2010」(宝島社)オンナ編で第5位を獲得したほか、「THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!」(フリースタイル)で第6位を受賞。同作は2015年に映画化も果たした。そのほかの代表作に「三番町萩原屋の美人」、「STAY」シリーズ、「姉の結婚」、「恋と軍艦」などがある。2003年より、はやみねかおるのヤングアダルトノベル「都会のトム&ソーヤ」シリーズの表紙と挿絵を手がけている。2016年11月現在、「初恋の世界」「たーたん」などを連載中。

フクシマハルカ
フクシマハルカ

岡山県出身。大学卒業後、1999年になかよし増刊なつやすみランドに掲載された「さくらんぼ☆キッス」でデビューし、「おとなにナッツ」「チェリージュース」など、なかよし(ともに講談社)で作品を発表。その後デザート(講談社)やベツコミ(小学館)にも活躍の場を広げ、マンガ版「都会のトム&ソーヤ」で少年誌にも初登場を果たす。