コミックナタリー Power Push - 「都会のトム&ソーヤ」
西炯子とフクシマハルカが語る「私たちの違いは“重力感”」
西炯子が自身の「運命共同体」と語る「都会のトム&ソーヤ」は、一見平々凡々だが卓越したサバイバル能力を持つ内人と、頭脳明晰かつ竜王グループの御曹司・創也の中学生コンビが大冒険を繰り広げるヤングアダルトノベル。はやみねかおるが執筆し、西が表紙と挿絵を手がけている同シリーズの14作目「夢幻 上巻」が11月22日に発売された。
またフクシマハルカが作画を手がけるコミカライズ版の単行本2巻も、11月に発売されたばかり。コミックナタリーでは西とフクシマの対談を実施し、作品への愛やキャラクターデザインの方法を聞いた。さらに「20代の恋愛はもうわからない」と言い放った西からは「麻生太郎さんと対談したい」という夢も飛び出し、話題は大人になってわかった娯楽との向き合い方にも及んだ。
取材・文 / 小林聖
- 内藤内人(ないとうないと)
- 塾通いに追われ、堀越美晴に淡い恋心を持つ平凡な中学2年生。不測の事態にはめっぽう強く、危険な目にあってもおばあちゃんから受け継いだサバイバル能力でピンチを回避する。「究極のゲーム」のために突っ走る創也に振り回されているが、誰よりも創也の夢を応援している。夢は小説家。
- 竜王創也(りゅうおうそうや)
- 決め台詞は「It's a showtime!」。超巨大企業・竜王グループの後継者で、学校始まって以来の天才。まだ恋をしたことはないがやたらモテる。ゲームクリエイターになって「究極のゲームを作る」という夢を持つ。内人のことを常に「超上から目線」で見ている。しかし内人を心から信頼し、冒険するときはいつも一緒。
西炯子×フクシマハルカ対談
「都会のトム&ソーヤ」とは運命共同体(西)
──おふたりとも、「都会のトム&ソーヤ」の小説が大好きと伺っています。
西炯子 私はもう長い付き合いで、運命共同体みたいになってます。2003年に小説の1巻が刊行されたので……干支がひと回りしちゃったのか。当時、ちょうど挿絵の仕事を止めていた時期なんですよ。
──なぜストップしたんですか?
西 それまでBL小説の挿絵のオファーをたくさんいただいてて、それがものすごく忙しくなっちゃって。長く手がけていた「富士見二丁目交響楽団」シリーズの第1章が終わるときに、BLの仕事を一旦止めたんです。ただ、子ども向けの仕事はしたいなとずっと思ってて、「そういう仕事が来ないかな」と願ってた。そうしたら、ちょうど「都会のトム&ソーヤ」のお話をいただいて。
フクシマハルカ 私は当時、講談社のティーンズハートや集英社のコバルト文庫をよく読んでいて、次は何を読もうといろいろ探していたら「都会のトム&ソーヤ」を見かけて。「これは西先生の絵じゃないか! 読まねば!」と。
西 ありがとうございます!
──最初に読んだ印象はどうでしたか?
フクシマ 男の子2人が主人公の話というのはすごく新鮮でした。それまで読んでいたのはだいたい男女の話だったので。
西 私はありがたいことに「これは長く続くだろうな」という作品の挿絵を担当することが多いんです。これも最初の1話目を読んで、「あ、これは長くなるぞ」と。1冊で終わるような話じゃない、ひょっとしたら10年以上続くような作品になるぞと思いましたね。だから、主人公2人はきちんと気合いを入れて設定しておこうと。
──「長期シリーズになりそう」と感じたポイントはどういうところだったんでしょう?
西 少年少女が好きな要素が満ち溢れているし、主人公2人に魅力がある。内人と創也は現実にいそうでいないところをうまく狙っているんです。親近感が持てるんだけど、サバイバル能力に長けていたり超頭脳明晰だったりと、実はすごいんですよね。
フクシマ はい。はやみね先生のキャラクターは、子供やオタクのツボを突くなと思っていて。
西 そうそう! 読者は内人と創也にワッと夢中になるだろうなと。それと、はやみね先生のキャラクターってコンプレックスが強かったり、どこか陰があったりするんです。そこが人物の深みになっていたりするのかなと思いながら、ここ10年読んでいますね。
もう20代の恋はわからない(西)
フクシマ 特にどのキャラクターに闇を感じました?
西 私がすごく好きなのは、内人たちのクラスメイトの真田(志穂)さん。彼女の闇の深さにいつも共感しているんです。未来を予測できるなんて能力のあるすごい女の子なのに、コンプレックスが強くていつも「私なんか 私なんか」と言ってる。でも、やるときには人一倍働く。本を読む女の子は彼女に共感するんじゃないかな。描いてて楽しいのは卓也さんです。
フクシマ ああ、わかります。
西 大変優れているにもかかわらず、どこか現世に居場所のなさを感じていて、「俺の本当の居場所はここじゃない……」と思いながらもがんばっているこの感じ。しかもすねた様子がなくて、非常に任務に忠実である。この方はとても、はやみね先生らしいキャラクターだと思っています。
──二階堂卓也さんは超巨大企業の竜王グループの御曹司でもある創也のボディガードですが、“はやみね先生らしい”ポイントはどのあたりですか?
西 私もはやみね先生も、中学2年から進級できてない感じなんですよ。
フクシマ えっ。
西 はやみね先生とした会話の中で、学生のときものすごい長髪にしてたとおっしゃったのがすごく印象に残っているんですが、彼の中に「ちゃんとこの世界にフィットしていけない感じ」というか、どこかにアウェー感というのを感じて。それが中2っぽさの源になっているんだと思います。世の中に適応できないまま「適応したいな。でも適応するのって本当に大事なの?」って思いながら足踏みをしている感じ。そこが彼の書くものの原点になっているのかなってちょっと思ったりするんです。私自身も似た感覚があります。お互いに教員だったというキャリアも似ている。
フクシマ はやみね先生がいくつになってもキャラクターを生み出せるのは、そういう少年の部分が残っているからなのかなって思います。私と同年代や年下の人でも、だんだん読むものが変わっていって「もうマンガは読めない」という人も多い。
西 「なんだかんだ言ってもこれはフィクションなんだ」という気持ちがどこかにあって、本気でその世界に入り込めなくなっちゃうんですよね。
フクシマ そうなんです。現実に適応しているからこそマンガや児童文学を卒業していくんですけど、大好きなものがいつまでも心の中に残っている人もいる。はやみね先生はそういうタイプだからこそ「都会のトム&ソーヤ」が書けるし、ある意味いつまでも中2なのかもしれない。
西 私は実感の湧かないものは、やっぱり描けない。私は今もう、20代の恋はわからないですから。だから描くものも30代とか40代、さらに今は50代の恋にシフトしてる。わからないものを描いたところで、誰かの気持ちではあるけど私の気持ちではないというのがわかったから、もう20代の話というのは諦めてます。
フクシマ 私は逆で。(子供向けか大人向けの)どっちでやっていくか決めなきゃいけないとなったときに、子供向けと決めたんです。好きだからこれでいこうと。同世代の話を読むのは好きなんですけど、描くのは無理なんですよね。
西 本当に無理なところってありますからね。
フクシマ いつか描けるようになったら描けばいい。無理して描いても自分が楽しめないですから。
次のページ » 麗亜さんはこじはるをイメージ(フクシマ)
- 原作:はやみねかおる漫画:フクシマハルカ「都会のトム&ソーヤ(2)」 発売中 / 講談社
- 670円
- Kindle版 / 540円
ごく普通の中学生の内藤内人と、竜王グループ御曹司で天才の竜王創也。凸凹中学生コンビの2人は、「砦」で究極のゲームを創るため、様々な冒険を経験する。伝説のゲームクリエイター・栗井栄太の手がかりを探すうちに、とある人気クイズ王のカンニング疑惑騒動に巻き込まれた2人は、生放送でクイズ王と直接対決することに……! そして、いよいよ栗井栄太の尻尾を掴む……!? 累計150万部突破の大人気小説コミカライズ、第2巻!
原作小説はこちら
- はやみねかおる イラスト:にしけいこ「都会のトム&ソーヤ(14) 夢幻(上)」 発売中 / 講談社
- 単行本 / 1026円
内人と創也は、ついに究極のゲーム「夢幻」を完成させた!「夢幻」の基本コンセプトは、「悪夢からの脱出」。 竜王グループが建てた実験用の町の中にある、竜王学園中等部に集まった参加者は、内人のほか栗井栄太ご一行、真田志穂、健一、堀越ディレクター、浦沢ユラなど。専用のメガネとベルトを着けた参加者たちは、自分の意識が作りだしたアバターたちに惑わされることなく、校舎の中に隠された『快眠枕』を見つけ出し、現実世界に戻ることができるか?失敗すれば、夢の世界から抜け出せなくなる危険も……。人気キャラクターたちが一同に会し、「都会のトム&ソーヤ」シリーズのクライマックスが、いよいよ始まる!
西炯子(ニシケイコ)
鹿児島県出身。高校在学中、JUNE(サン出版・当時)でデビュー。月刊flowers(小学館)にて発表された「娚(おとこ)の一生」が「このマンガがすごい!2010」(宝島社)オンナ編で第5位を獲得したほか、「THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!」(フリースタイル)で第6位を受賞。同作は2015年に映画化も果たした。そのほかの代表作に「三番町萩原屋の美人」、「STAY」シリーズ、「姉の結婚」、「恋と軍艦」などがある。2003年より、はやみねかおるのヤングアダルトノベル「都会のトム&ソーヤ」シリーズの表紙と挿絵を手がけている。2016年11月現在、「初恋の世界」「たーたん」などを連載中。
フクシマハルカ
岡山県出身。大学卒業後、1999年になかよし増刊なつやすみランドに掲載された「さくらんぼ☆キッス」でデビューし、「おとなにナッツ」「チェリージュース」など、なかよし(ともに講談社)で作品を発表。その後デザート(講談社)やベツコミ(小学館)にも活躍の場を広げ、マンガ版「都会のトム&ソーヤ」で少年誌にも初登場を果たす。